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知ってほしい 離人症のこと

「離人症」という言葉を耳にされたことはあるだろうか。
聞きなれない言葉だと思う。
 
離人症とは解離性障害の一つ。
(※そうではないとする説もある)

ただし、独立した疾患ではなく、その他の病気に伴って起こる、離人感や現実感消失が主症状である状態を指すものとされている。

離人感とは

自己の身体、感情、思考、感覚などから自分の主体性が失われて、自分自身を非現実的に感じる体験

現実感消失とは

外界(世界、人、物など)から自分が切り離されているように感じられ、周囲の世界に親しみを覚えられず、非現実的に感じる体験

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構


このように説明されても、いまいちよくわからないという人がほとんどだろう。
離人症はその他の精神疾患と比べて知名度が低く、文献もかなり少ない。ほとんどの場合、解離性障害について書かれている本に少し記述がある程度で、離人症に特化した本となると、ごくわずかしか存在しない。


私は20年以上にわたり、離人症と付き合ってきた。
私の場合、離人症が現れる頻度はそれほど高くなく、年に数回程度で、発症しても数分で治まるため、特段日常生活に支障をきたしているというわけではない。

しかし、これはあくまでも一個人のケースで、より深刻な症状に悩まされている方がいらっしゃることにはご留意いただきたい。

軽症とはいえ、完全に治ることはなく、現在に至るまで断続的に症状が現れ、いまだにその都度気持ち悪さを感じている。あの独特の感覚はいつまでたっても慣れない。

私の症状は現実感消失にあたる。
発症したときの感覚は次のようなものだ。
 
・生きている実感がない、生きているのか死んでいるのかわからない
・ふわふわして夢の中にいるよう
・感覚はあるのに鈍い
・強く手を握ったりして感覚を取り戻そうとするが、取り戻せない
・声や音は聞こえているのになぜか遠く感じる

 
目の前に見えている情景を認識できているにも関わらず、その場に自分がいると思えなくなる。突然、自分だけが世界から切り離されてしまい、自分がちゃんとそこに存在しているのか不安になる。
 
離人症の症状を言葉で説明するのは極めて難しい。
当事者によっても表現方法は異なるだろう。症状を伝えることが困難なので、他人からは理解されにくい。
 

私は20代になってから、発症するシチュエーションが限られていることに気がついた。そのため、あらかじめ心づもりができ、発症しても驚くことは少なくなった。

よく発症する場所は、駅やコンサート会場など、人が多く集まるところ。それに加え、階段があると発症頻度が上がる。
人ごみは苦手なので、外界から自分自身を遮断し、自分を守ろうとしているのではないかと推測できる。
しかし、階段が引き金になる理由は今のところわからない。特に階段にトラウマがあるわけでもない。

コンサート会場は、ドームクラスになるとほぼ100%の確率で発症する。
会場内に入ってしまえば大丈夫なのだが、会場外の、人が大勢いるところが危ない。そのため、ドームクラスに行くときは決死の覚悟で行く。よほど行きたい公演でないかぎりは行かないことにしている。

 
初めて発症したのは、小学5年生の頃。
臨海学校での集会のときだった。
なぜ集会のときだったのかはわからないが、臨海学校自体はまったく楽しくなく、苦い思い出しかない。かなりストレスを感じていたのは確かなので、たまたま集会のときに限界に達したのだろうか。


推測の域を出ないが、

集会=人がたくさん集まっている
→人がたくさん集まる場所に行くと無意識に防衛反応として発症する 

のではないかと考えている。

 
私は離人症(もちろん当時はそのような言葉を知らなかったが)を発症した当時から、この気持ち悪い感覚を家族や友達に話していた。
誰にも言えなかったり、言っても理解されず苦しんでいる当事者が多い中で、私は誰からも奇異な目で見られることなく受け止めてもらえたので、かなり幸運なほうだろう。

学校で発症したとき(学校でもわりと日常的に発症していた)には、友達に「今生きてるんか、死んでるんかわからへんわ」と話していた。友達は「ほんまに?また?」とおもしろがってくれた。

自分が時々見舞われるこのような症状に、離人症という名前があると知ったのは20代前半の頃である。
母がたまたま雑誌の記事で見つけ、「あなたの症状はこれなのではないか」と記事のコピーをくれたのだ。

記事を読んで「これだ!」と思った。
自分だけに起こると思っていた奇妙な症状に名前があるとわかり、とても安堵した。自分だけではなかったのだ。
 
離人症の発生メカニズムはまだ解明されていないそうだが、子どものころの被虐待体験など、トラウマが原因で発症するケースが多い。
ところが、原因となるトラウマが本人にはわからないケースも多いそうだ。私も臨海学校での体験がトラウマと言えるほどのものなのかわからない。また、被虐待体験らしきものもない。ひょっとすると、原因は別のところにあるのかもしれない。
 
また、離人症は他の疾患とともに起こるとされているが、私には身体的にも精神的にも、特にこれといった疾患はない。
純粋に離人の症状だけがあるという状態なので、まれなケースなのだろう。 

病院で治療することも考えたが、現状特に困っていないこと、また、幸いトラブルに発展したこともないので、今のところ受診は考えていない。
何せもう20年以上付き合ってきているので、自分の中では特別なことではなく、日常の一つでしかない。
前述のように発症するシチュエーションもわかっているので、「あ、また発症したな」と思うくらいで、確かに発症しているときは気持ち悪いのだが、すぐに治まることもわかっているため、さほど恐怖は感じない。

完全に治ればすっきりするだろうが、自分の特性の一つとして捉えているので、これからも気長に付き合っていくつもりだ。
(もちろん、症状が悪化すれば受診するつもりだ)
 
しかし、症状が深刻で悩んでいるという方はすぐにでも受診してほしい。
離人症の原因となっている病気を突き止め、早期に治療を始めるにこしたことはない。

また、もし身近にこのような症状で苦しんでいる人がいたら、離人症について教えてあげてほしい。知らずに苦しんでいる人も多いだろうから。少しでも苦しみが取り除かれることを願っている。
 

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