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全て、貴方のせいです。 第9話

概要

 『虚栗』という作家がいた。彼は旅館の押し入れに、屋根裏へ繋がる戸を発見。どうやらそこは、異世界へ通じているみたいで… …!?

アカシックレコード

 沢山の精神安定剤が落ちてくるみたいに、雨の日は心を落ち着かせる。
 これは、缶詰になる為、浅草の旅館に泊まっていた時の話。
 浴衣を探して押し入れを開けた時、屋根裏へ続く戸を発見し、興味本位で開けてみました。そこに、埃の積もった本を見つけたのです。
 懐中電灯で照らしてみると、表紙が真っ赤で、とても異様な本。
 何かと思い、開いてみました。すると、本の中に吸い込まれ、次の瞬間、階段から転げ落ちたような衝撃がありました。
 冷たいコンクリートが頬を冷やす感触を覚えています。
 そこで、目を見開いて驚いたのです。私が寝ていたのは、広大な図書館らしき施設だったのですから。
 天井を見ても部屋の奥を見ても、どこまで続いているかわからない、巨大な本棚。
 私はどこに迷い込んでしまったのでしょうか?
 誰も居ない、奇妙な空間。漠然とした不安に襲われました。
 ただただ、この部屋の中を歩き回るしかありません。
 途中、大きな声を出してみますが、案の定、返事はありません。
 あまつさえ怖いのは、振り返ると棚の配置が変わっている事です。
 建物自体も変化するみたいで、視界に映っていない間に、壁だった場所に通路が出来たり、その逆の現象も起きたりしています。
 私は夢でも見ているのでしょうか?
 少なくとも、この世界が現実でないのはわかります。
 恐怖でしかありませんでした。
 もしかしたら、ここは所謂『死後の世界』かもしれない。私は現実世界じゃ死人として扱われているのかも——
 そういった事を考えると、ますます怖くなってきました。
 死にたくなかった。
 私の人生は何だったんだろうか。
 もっと他にやるべき事があった。自分に時間と金銭を割いて、沢山の思い出作りをすれば良かった。
 そういった事を考えてしまいます。後悔だけが募っていくのです。
 そんな事ばかり考えていても先へ進めない。自分なりに誤魔化して、やるべき事、やれる事をやろうと思いました。
 不可思議な出来事を理解する手掛かりがあるかもしれないから、本を読んでみる事にしよう。
 そうして読んでいくと、奇妙な本ばかりあります。どれもこれも過去や未来の日付があり、様々な文体で、世界各国の出来事が詳細に記されていました。
 ある本はアメリカ大統領の人生が書かれており、またある本は、インド人宗教家の生涯が記されていました。さらに、石板が並んでいる棚もあり、そこには邪馬台国の卑弥呼について、文字が刻まれていました。
 「髑髏崇拝した女王である。髑髏神から神託を受け、国を治めた。また、背中には大きく『彁』と彫られていた」
 どの本も知らない言葉なのに、私はなぜか、意味を感じ取ることが出来たのです。
 それによって、学んだ事があります。本に記述された人物に共通するのは、アカシックレコードに接続していた事。
 その図書館にある書物は、この世の歴史が全て事細かく記されています。文字を読んで理解するというより、『意味を感じとって理解する』と表現する方が正しいです。だから、知らない外国語で書かれてあっても、何の出来事を記しているのか解ります。
 その場所を利用して、世界を統一しようとしたり、悟りを開いたり、占いや予言で民をまとめるなど、様々な使い方がされていたみたいです。
 本を漁ってどれほどの時間が経過したかはわかりませんが、ある科学者の書物を見つけました。
 多次元宇宙について研究している学者で、「この世界はゲームである」という持論を展開している人物。
 その人の理論によれば、現実のバグを利用する事で、異世界の出入り口を形成できるとのこと。
 また、そのバグは意図的のみならず、偶発的に起きる現象でもあるそうで、それを古くから日本人は「神隠し」と呼んでいたそうです。
 私がこの不可思議な世界に迷い込んだのは、バグの影響でしょうか?
 どうやったらこの世界から脱出できるのか。その方法を模索する為にも、施設を探索しながら、手掛かりとなる重要な本を探すしかありません。
 そうしてただひたすら読書をしていると、面白い事に気付きました。
 この棚においてあるのはただの本だけでなく、粘土板や巻物に葉っぱなど、時代や国の文化に合わせた書物が保管されているという事。
 その中に、新書を見つけました。題名は『虚栗』で、私の生涯が事細かに記載されていたのです。
 それを読み、絶望しました。現実世界に、です。
 本当は数冊読んだ時点で、薄々勘づいてはいました。ですが、それを認めたくはなかったのです。
 私が今までしてきた苦労も努力も、作り上げてきた創作物や成果だって、何もかもがアカシックレコードに記されていたのですから。
 私が生まれてから死にゆくまでの全てが、ここにあります。
 納得出来ませんでした。
 私は、今日から先の未来が書かれたページを全て破り捨てました。ただただ感情に任せて叫び、ひたすら千切っていったのです。そして本を床に叩きつけ、膝をつきました。
 その瞬間、また階段から転げ落ちるような衝撃があった後、埃を吸って咳き込んでしまいました。
 私は、屋根裏部屋で横たわっていたのです。
 手には、真っ赤な本。中身を開いて持った状態になっていますが、ページは白紙。その本を数秒見つめながら、ある事を思いました。
 ——自分の人生を他者に委ねるのは間違っている。
 急いでブログを開き、こうして文章を書いています。
 私は気付きを得ました。
 この世界は白紙のようなもの。だからこそ、自分で筆を執って書き込んでいける。
 私の人生、主役は私であり、他人の人生に脇役として出演したり、誰かが脚本家になる事は間違っている。
 自分の作品を作り上げるのは、己自身。
 私が主人公であり、この物語の作者なのです。

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