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演劇脚本「どらまてぃっく・くらいしす!」

以前はりこのとらの穴:脚本ダウンロードサービス (haritora.net)にて公開した一時間程度の演劇脚本です。

【あらすじ】
八月三十日。夏休みが残り一日になったことに全国の学生が悲しみに明け暮れるこの日、この世界では別の絶望が空を覆っていた…。
約三か月前から予測されていた巨大隕石の衝突がついにこの夜に迫ったのだ。
とある高校の演劇部の部室には、文化祭に向けての稽古をするはずだった演劇部メンバーが浮かない顔をして集まっていた……。

【登場人物】
田中:三年男子。お調子者。一年の時に演じた役が「田中」で以降そう呼ばれている。本名:岩田鉄平(いわたてっぺい)。

部長:三年男子。演劇部部長。一際演劇に熱い男。この状況を受け入れきれてない。本名:水口勇人(みずぐちはやと)。

松姉:三年女子。二年の時に入部した。男子たちのやりとりを冷たい目で見る。本名:松風沙也加(まつかぜさやか)。

おはじき:二年男子。合宿参加届と間違えて小学校の算数で使うおはじきセットを持ってきてあだ名になった。性格はあまりよくないかも。本名:木本大介(きもとだいすけ)。

りっ君:二年男子。勉強は苦手だが、脚本を書きたくて入部した。今年の文化祭でやる予定だった台本を選んだ。本名:氷室凛久(ひむろりく)。

ベンチ:バレーボール部と兼部してる奴。でもずっとベンチで暇なので演劇部に来ている一年生男子。実は演技が苦手で都合が悪くなるとバレーボール部を理由に逃げる。が、逃げ切れない。本名:火上玲央(かがみれお)。

杏璃:一年女子。文芸部。なぜか演劇部室にやってきた。本名:土井杏璃(どいあんり)。

先生:演劇部顧問だが演劇のことはよく知らない。一生懸命な現代文の先生。仕事はちゃんとやるが、仕事は嫌い。本名:山岡桜子(やまおかさくらこ)。

【シーン① 絶望と最期の希望】

 中央に机と椅子、下手側に色々な小道具が詰まった箱。机の上にも物が散乱している。
 
 舞台上には、部長・松姉・おはじき・りっ君・ベンチの五人がそれぞれ座ったりだらけたりしている。皆絶望に満ちた顔。

 セミの鳴き声。
 下手から田中登場。

田中   …お疲れ様でえす!!!
五人   ……(ため息)。
田中   …おいおい~。揃いも揃って浮かない顔しちゃって~! 明日で夏休みが最終日だからって落ち込みすぎなんじゃないの~? よお、りっ君! 宿題は終わったか?
りっ君  …終わってませんけど
田中   おいおい間に合うのかぁ?
松姉   アンタ、本気で言ってんのそれ?
田中   松姉は今日もクールだねぇ~
おはじき ていうか夏休み明日で終わりなんですね
田中   そうだぞ、おはじき! 二学期の足音がすぐそこまで! 席替えだよ? 修学旅行だよ? 文化祭だよ? 楽しみが山積みで…
ベンチ  二学期がいつも通り始まるなら、そうっスけどね…
田中   うお、ベンチもいたのか。何だよもう~みんな沈みすぎだよ~。ねえ部長もなんとか言ってやってよ

 部長、立ち上がり舞台手前で、カーテン・窓を開ける動作。
 暗くなる照明、轟音。

部長   今から三か月前、地球に巨大隕石の接近が報告された。すぐに地球との衝突の確立は低いだろうという専門家の予測を大いに裏切り、地球に向かって飛び続けた隕石は、世界各国から編成された連合軍のミサイル攻撃もものともせず、ついに今夜、地球に到達しようとしている。そして隕石とは対照的に行く当ても目的も見失った俺たち演劇部は、今こうしてやれることもなく地球滅亡の瞬間を部室で待っているのさ
田中   …はぁ…ご丁寧な説明どうも、部長。
部長   どういたしまして。
 
部長、窓を閉める動作

松姉   今更説明なんているかしら?
りっ君  もうテレビで飽きるくらい聞きましたよ~
ベンチ  そのテレビももう映らないっスよ
おはじき 連合軍も歯が立たなかったのは衝撃でしたねぇ、あれも夏休み前のことか
松姉   あの頃はこれで危機が去る!って祝福ムードだったのにねぇ。それも忘れたのかしら。
部長   彼にはどうやらその説明が必要そうだったから
田中   だーー! もうわかったわかった、悪かったよ! いくら人類最後の日でもこんなにみんな揃ってる部室が、この世の終わりみたいな雰囲気なのが耐えられなくてさぁ…
おはじき いや、文字通りこの世が終わるんですから、そりゃあこうなりますよ…
りっ君  言っていい冗談と悪い冗談があります~
ベンチ  りっ君先輩の言う通りっス
松姉   だいたいこの状況で、なんでアンタはそんな元気なのよ
田中   ……みんなに笑顔になってほしくて…
部長   素晴らしいマインドだとは思うけどね、これから死ぬってわかってるのにいつも通りの日常を過ごせる人なんてそういないだろうよ! 文化祭が中止になるとか、修学旅行が延期になるとかじゃないんだぞ! あとで取り返す機会さえ俺たちは見出せないんだから
田中   それでも最期くらい楽しくいたいじゃない!
りっ君  …たまにはいいこと言いますね~
田中   たまにはって…。だってせっかくみんないるんだし!
部長   それはまあ…
松姉   たしかに
田中   そもそも、人類最後の日ならみんな部室にいるのはなんでなのさ!
おはじき 言われてみれば…
ベンチ  田中先輩が来るまで誰も口開いてなかったっスもんね
松姉   私は、家にいてもやることがなかったから…。おはじきは?
おはじき 僕は、誰かいないかなと思って部室に。起きたら家に誰もいなかったんで…。
ベンチ  俺は誰もいない体育館でバレーボールでもしようとしたら開いてなかったからここに…。
りっ君  僕は夏休みの宿題終わらせようと思って~…。
松姉   地球が終わるのに?
りっ君  あ、そっか!
おはじき どういうタイプのアホ?
りっ君  でも僕よりも先に一人でいたのは部長でしたよ。
部長   …。
田中   部長は何で部室に?
部長   ……文化祭の公演ができないのが悔しくて。
五人   …。
部長   高校最後の舞台に立てないのが悔しくて、気づいたらここにいた。
おはじき …いつもなら、夏休みは毎日稽古ですもんね
ベンチ  そうなんスか?
松姉   そっかアンタ一年か。図々しいから忘れてた。うちの文化祭は例年九月の終わり頃やってるのよ。
りっ君  それに間に合うようにだから夏休みが始まる七月には役者も決まって稽古も始めてる状態なのよ~。
おはじき 脚本は決めたんだっけ?
りっ君  決めたよ! みんなで投票したでしょ! 僕が選んできた台本!
部長   面白かったし、絶対やりたかったんだけどな
ベンチ  どんな話なんスか?
りっ君  『地球・演劇的危機』って台本。ネットの脚本サイトにあったやつなんだ~。隕石の衝突が迫った日にとある高校生たちが世界を救うっていう話~。
おはじき なんだ~それ? ださいタイトル~
りっ君  おい!
松姉   まるで今の状況そのままね
ベンチ  そんなの選んだから隕石落ちてきてたりして~
田中   おい、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ
ベンチ  田中先輩にだけは言われたくないっスよ…
りっ君  ……何…? 僕のせいだって言うの…?
ベンチ  はいはいごめんなさい
田中   ……やろうよ! せっかくだし!
部長   え?
田中   この状況にぴったりだし、最高の演技ができるだろ? それにみんな、そういうのを期待して来たんじゃないの?
松姉   …まあ期待してなかったと言えば嘘になるわね
おはじき やりますか、どうせ死ぬんだし
ベンチ  やることは特にないっスもんね
部長   みんな…
りっ君  部長はどうですか?
部長   うん…。
田中   「これから死ぬってわかってるのにいつも通りの日常を過ごせる人なんてそういない」って言ってたくせに、結局自分も日常を捨てきれてないじゃんね
部長   うるせ…でもありがとう。田中、みんな。どうせ死ぬなら最期は楽しくだな!
田中   よっしゃ! それでこそ俺らの部長だ!
おはじき 久々の演劇だ! 気合入れなきゃ
松姉   うちの部長のわがままにつき合わせちゃってごめんね
りっ君  そんなことないですよ! 僕もやりたかった台本ですし!
ベンチ  俺は見てるだけでいいかな~…
部長   何言ってんだ、お前もやるぞ。
ベンチ  げ…まじかよ…
部長   見てくれるお客さんがいなくて残念だが、俺たちの人生の千秋楽だ! 楽しく 演劇して締めくくろうぜ!
全員   おー!!
田中   じゃ、さっそく配役とか決めよう! 台本見せて
りっ君  え、まだ印刷してないですよ
全員   ズコーーー!(ずっこけ)
田中   なんだそりゃあ!?
部長   あれ、してなかったっけ…
りっ君  してないですよ~! 四月はまだ新歓公演で忙しくて、五月になったら隕石騒ぎで結局ずるずると
おはじき 出鼻をくじかれた~
松姉   言ってる場合か! せっかくやる気になったんだから、印刷してきちゃいなよ
ベンチ  職員室のコピー機なら使えるんじゃないスか?
部長   きっと使える! 桜子先生に頼もう!
田中   先生来てるの?
部長   いやわからん!
田中   なんじゃあそりゃ!

 先生登場

先生   うわ、何よあなたたちこんなに集まって
田中   あ、桜子先生! いたんですね、ちょうどよかった!
先生   地球最後の日なのに仕事しててほんとバカバカしいわ。で、なに?
部長   職員室のコピー機使わせてもらえませんか、文化祭の台本を印刷したいんです
先生   文化祭…? 今日で地球滅ぶのに…? まあこんな状況がもう数か月続いてるものね、おかしくなっても無理ないわね。…いいよ、好きなだけ印刷なさい
部・田  ありがとうございます!!!
先生   文化祭公演ね、楽しみよね、今年もね
部長   そうなんですよ~今回の話はですね…
田中   じゃ、いってきます!

 先生・部長・田中退場

おはじき なんかひどい勘違いされてない?
松姉   桜子先生そういうところあるからねぇ
ベンチ  まあ使わせてもらえるならいいじゃないスか
りっ君  あ、ちょっとデータもないのにどうやって印刷するんですか~!
松姉   はあ、行ってあげてりっ君
りっ君  行ってきま~す! ちょっと先生~! 先輩~!

 りっ君パソコン持って退場

【シーン② 恋するベンチと杏璃登場】

おはじき いってらっしゃーい!
松姉   全く何やってんだか…
おはじき 部長もちょっと抜けてるとこありますよね。まあ田中先輩もですけど
松姉   まあねえ、演劇バカって感じ
ベンチ  演劇バカが過ぎないスか~? こんな日にもみんなでやるぞって
おはじき なんだ不満なのかお前! バレーボール部で万年ベンチのくせに
ベンチ  関係ないじゃないスか! それに一年なんでベンチで当然なんすよ
松姉   そういえばさっき嫌がってたね、演劇するの
ベンチ  いや、演技苦手なんで…
おはじき え~じゃあ何で演劇部入ったのさ
ベンチ  いやまあ、なんというかうん…
松姉   何よハキハキなさいよ
ベンチ  はい! あの、新入生歓迎の公演を見て、た、楽しそうだなぁって思って…
おはじき …。ふ~ん、お前もしかして
ベンチ  へ?
おはじき 松姉目当てだろ入部したの
ベンチ  な! ちょ!
松姉   ?
おはじき あの公演の松姉可愛かったもんなぁ。一目惚れしても不思議じゃないよ。
ベンチ  松姉先輩には言わないでください…
おはじき まあそうしておいてやるけど、人類最後の日に気持ちを伝えなくていいのかぁ?
松姉   何こそこそやってんのよ
おはじき 松姉、こいつが実は…
ベンチ  わーー! 何でもないっスぅ!
松姉   はあ? 
ベンチ  あ、ちょっと違うんスよ! 違うんスよ!
おはじき 僕は悪くないです!

 追い詰められる二人。
 やってくる杏璃

杏璃   あのう…
三人   うん?
杏璃   お、お疲れ様です…
松姉   あら、こんにちは
杏璃   どうも…ここって演劇部の部室ですか?
松姉   ええ、そうだけど
おはじき 誰だ?
ベンチ  いや、知らないっスよ。新入部員とかじゃないスか?
おはじき 今日で世界が終わるのに?
ベンチ  物好きもいたもんスね
松姉   ちょっと! 酷いこと言わないの!
杏璃   あれ? 火上くん?
ベンチ  え?
杏璃   火上玲央くんだよね? おんなじクラスの
ベンチ  え、あ~うん。お久しぶり…あのぉ、ね? へへ、そ~…
杏璃   ?
松姉   ちょっとごめんね~~。
おはじき ベンチ君、見苦しすぎるよ
ベンチ  いやだってぇ、覚えてないんスもん…
松姉   おんなじクラスの女の子を?
ベンチ  だって女子と話さないし…
おはじき そんな気はした。てかお前そんなかっこいい名前だっけ
ベンチ  そうっスよ、火上玲央が本名っス。ここではベンチとしか呼ばれないスけど
松姉   これを気に仲良くしなさいよ、彼女いないんでしょ
ベンチ  は? え? いやそれとこれとは、ていうか俺は…
おはじき まままま、とりあえず話聞こう、な?
ベンチ  もう何なんスかぁ
松姉   あ、お待たせしました~
ベンチ  あ、どうもぉ、いつもお世話になっておりますぅ
おはじき おかしいだろそれは
杏璃   あ、こちらこそ…
おはじき どっちも変なのかな
ベンチ  あの、ね? 一年四組の
杏璃   うん。私、土井杏璃、もしかして覚えてない?
ベンチ  おま、バカおまえ、そんなお前、そんなわけお前ないジャンお前!
杏璃   そうだよね、席隣になったことあるもんね
ベンチ  えっ?
松姉   こりゃ重症だわ…
おはじき 人としての何かが欠けてる?
松姉   えっと、杏璃ちゃん…はどうしてここに?
杏璃   どこもかしこも終末ムードで、どこに行っても居場所がなくて…。ふと学校に来てみたら、この部室から人の声が聞こえて来たんです。そしたら友達もいて、安心してます。
おはじき 友達?
ベンチ  友達?
松姉   友達…かどうかはまあ置いとくけど…。うちでよければ最期までのんびりしていっていいわよ。演劇は好き?
杏璃   あんまり観たことはないんですけど、文芸部なので脚本書いたりするのは憧れてます。
松姉   へえ文芸部なんだ! どう? うちに入る気はない?
杏璃   いいんですか? 
松姉   いいのいいの! どうせ今日で何もかも終わりだし!
おはじき 松姉って意外とテキトーなとこあるよな
ベンチ  それがいいんじゃないスか
おはじき あーそう。
松姉   今、文化祭の台本読もうとしてるところなの
杏璃   へえ! どんな台本なんですか?
松姉   『地球・演劇的危機』っていう台本
杏璃   え、それ…あ、いや…面白そうですね
松姉   あら、知ってるの?
杏璃   あ…はい少し…。あ、そういえばまだ皆さんのお名前聞いてませんでした!
松姉   あ、そうだったわね! ごめんね。私、三年の松風沙也加。みんなからは松姉って呼ばれてる、よろしくね
杏璃   よろしくお願いします、三年生の方だったんですね
松姉   そうなの~、今年で引退だったんだけどね
おはじき 僕は二年の木本大介です、おはじきって呼ばれてます!
ベンチ  そういやなんでおはじきなんスか?
おはじき え? あの~去年、合宿参加届を部長に出そうと思ってカバン漁ったらなぜか小学校の算数の授業で使うおはじきセットが出てきたのよ。気づいたらそれがそのままあだ名になってた
ベンチ  どういうことスか?
松姉   あれ何回思い出しても笑えるわ~
杏璃   合宿届は出せたんですか?
ベンチ  気になるのそこ!?
おはじき それはちゃんと出せた! 安心して
杏璃   よかった~
ベンチ  変っスよこの人たち
松姉   今に始まったことじゃないでしょ
杏璃   そういえば火上くんはなんでベンチって呼ばれてるの?
ベンチ  え? 俺? いや、バレーボール部でベンチだから…
おはじき あまりに暇すぎるからほぼ演劇部一筋だもんな!
ベンチ  そんなことないっス! とも言い切れないかぁ…
松姉   まあこちらとしては人手が増えてありがたい限りだけどね
ベンチ  ほんとスか?
杏璃   演劇部の皆さんあだ名で呼び合ってるんですか?
松姉   あ~言われて見ればそうかも。自然とあだ名が出来てたわね
おはじき 杏璃ちゃんのも作ろうか!
杏璃   え、いいんですか?
松姉   いいよいいよ、もう演劇部員だし!
ベンチ  どんなのが良いんスかね
松姉   そうねぇ…
四人   う~ん

【シーン③ 最後の公演開幕】

 りっ君、パソコン持って登場

りっ君  ただいまです~!
松姉   お、りっ君おかえり
おはじき おかえりなさい!
りっ君  もうすぐ部長たちも戻って来ますよ~! て、あれ、その子は?
杏璃   土井杏璃です。これからお世話になります。
松姉   ベンチのクラスメートで、文芸部の子なんだって。
りっ君  へぇ、ベンチの友達なの?
ベンチ  あぁまあそういうとこもあるかも
おはじき 正直に言えよ
りっ君  僕、氷室凛久! よろしく! 
杏璃   よろしくお願いしますりっ君さん先輩!
りっ君  あ、気軽にりっ君って呼んでくれていいよ~

 部長・田中・先生登場

先生   重いぃ
田中   そうでもないですよ先生…
部長   お待たせしました! 台本印刷できたよ
りっ君  おかえりなさ~い! ねえ部長、新入部員ですよ!
部長   え? こんな日に?
松姉   杏璃ちゃん、一緒に台本読ませてあげてもいいでしょ?
部長   もちろんよ! 人数足りてなかったはずだし、ちょうどいいね
杏璃   本当ですか! ありがとうございます!
部長   いいえ! あ、三年の水口勇人です。以後よろしく! 
田中   うい! 俺も自己紹介! 同じく三年岩田鉄平! 田中って呼んでください!
杏璃   はい! え、なぜ田中…?
松姉   一年の時に演じた役が田中だったのよ
部長   あ、先生も一緒に読んでくれます? それだとぴったりなんですけど
先生   え? 私も? いやいや私そういうのほんとやったことないし…
おはじき 桜子先生の演技見てみたいな
ベンチ  そういう印象ないっスもんね
りっ君  絶対上手ですよ~!
先生   ほ、本当~? じゃ、やっちゃおうかな
部長   よし。じゃあ配役を決めようか。りっ君! お願い。
りっ君  は~い! 登場人物は、高校生の仲良し四人組ノゾム・タイガ・アカリ・フミコ、地球滅亡を求めるゲンキ・ズミ、謎多き人物ヒミコの七人!
おはじき あれ? 七人?
りっ君  僕はナレーター兼演出! ほら、役選んでくださ~い!
部長   俺タイガ!
松姉   じゃあフミコやる~。
田中   ゲンキやり~!
おはじき ズミやります! ベンチはノゾムな!
ベンチ  え? 主人公スか?
部長   こんな時じゃないとなかなかできないぜ
杏璃   私はアカリですかね
りっ君  はい、お願いします! じゃあ桜子先生はヒミコね!
先生   え! 謎多き人物…ヒミコってあの卑弥呼?
りっ君  それはやってからのお楽しみです! さ、点呼しますよ~! ノゾム!
ベンチ  はい…
りっ君  タイガ!
部長   はい!
りっ君  アカリ!
杏璃   はい!
りっ君  フミコ!
松姉   はーい
りっ君  ゲンキ!
田中   はいよぉ!
りっ君  ズミ!
おはじき へい!
りっ君  最後にヒミコ!
先生   頑張ります!
りっ君  よし、さっそく始めますよ~! 最初は高校生四人のシーン! はいこれ!

 古文書を渡す

りっ君  じゃあ部長、キュー出しお願いします!
部長   うし。よーい…あい!

 りっ君の語りに合わせて音楽かかる

りっ君  「巨大隕石の衝突が目前に迫った地球で、明日への希望をまだ諦めていなかった高校生ノゾム・タイガ・アカリ・フミコの四人は、隕石衝突を回避するための手がかりを見つけた。」
松姉   フミコ「これ見て。うちの古い倉庫の奥底から出てきたの。」
ベンチ  ノゾム「これは古文書…?」
部長   タイガ「相当古いな。文字かどうかも怪しい。」
杏璃   アカリ「でも、この絵…。隕石を表しているのかも」
松姉   フミコ「やっぱりそう思う? 私、これは予言書なんじゃないかって思うの」
ベンチ  ノゾム「よ、預言書?」
杏璃   アカリ「どうしてそう思うの?」
松姉   フミコ「私の勘!」
三人   「はぁ…」
部長   タイガ「でもフミコの家って結構由緒正しい家系だろ? ありえなくはないんじゃないか?」
ベンチ  ノゾム「確かに。それにどの道このままじゃ地球が滅ぶんだ。解読しない手はないよ」
杏璃   アカリ「これが最後の希望ね」
松姉   フミコ「よっしゃ! 地球を救うためにがんばるぞ!」
四人   「おーー!」
りっ君  「フミコが見つけた古文書が地球を救う手がかりであると信じて解読を始める四人。しかし、それを陰から盗み見る人物がいた…」
田中   ゲンキ「地球を救う…だと?」
おはじき ズミ「聞き捨てならないっスね兄貴」
田中   ゲンキ「もう少し様子を見るぞ」
先生   お~! みんな上手ねぇ
りっ君  いったん止めま~す

 音楽止まる

部長   やればできんじゃんベンチ
ベンチ  あ、あざす…
松姉   杏璃ちゃんもいいねぇ…。話の流れがわかってるって感じする
杏璃   ま、まあはい! 
おはじき これ先生の出番結構後ですね
先生   え、やっぱり重要ポジション…!?
田中   大丈夫ですよ、それっぽくやれば
先生   そ、それっぽく?
りっ君  じゃ、そろそろいい? もう止めずに最後まで行っちゃいますよ~?
みんな  (各々返事をする)
りっ君  よーい…はい!

 音楽開始

松姉   フミコ「うーん…大昔に隕石の接近があったこと、それを回避したことはわかったけど…」
杏璃   アカリ「肝心の方法の部分がわからないわね。この神殿ってのもどこかわからないし」
りっ君  「古文書の解読を進めていた四人だが、ここで壁にぶつかっていた…。そこに現れたのは…」
ベンチ  ノゾム「誰だ…!?」
部長   タイガ「どうした?」
ベンチ  ノゾム「誰かいる…!」

 不穏な音楽

田中   ゲンキ「ばれちまったら仕方がない」
おはじき ズミ「お前たち、隕石を止めようとしてるらしいな」
ベンチ  ノゾム「何者だ」
田中   ゲンキ「これから世界が滅ぶのに名を教える必要なんてない」
杏璃   アカリ「隕石を止めたら何が悪いって言うのよ」
田中   ゲンキ「悪いに決まってるだろうが…。ようやくこの腐った世界がなくなろうとしているのに」
松姉   フミコ「はあ?」
おはじき ズミ「生きてても希望なんてありゃしない、こんな世界なくなった方がいいって言ってんだよ!」
部長   タイガ「生きてる限り希望はある! 最初から諦めてどうするんだ!」
田中   ゲンキ「常に選択肢に溢れている恵まれた環境にいるお前たちにはわからんだろうなぁ!」
杏璃   アカリ「何言っても無駄みたい」
おはじき ズミ「それはこっちのセリフだぁ!」

 激しめの戦闘曲、組み合う田中・部長、おはじき・杏璃

田中   ゲンキ「やめないなら力づくで止めてやる。墓くらいは立ててやるよ。誰も墓参りには来ないがな!」
部長   タイガ「ぐっ!!! 墓だと…?」
松姉   フミコ「タイガ! アカリ!」
杏璃   アカリ「そうか、墓だ! フミコ! 学校裏にある古墳、きっとあれが古文書に書いてある神殿の跡だ!」
松姉   フミコ「学校裏の古墳…行ってみれば何かわかるかも」
部長   タイガ「ノゾム! フミコを連れてそこに向かえ!」
ベンチ  ノゾム「お前は!」
部長   タイガ「俺はこいつらの相手を引き受ける!」
杏璃   アカリ「私も残る! 二人は行って! 隕石の衝突まで時間がない!」
田中   ゲンキ「勝手な真似をぉ!」
部長   タイガ「こっちだおら!」
ベンチ  ノゾム「行こうフミコ!」
おはじき ズミ「待てぇ!!」
杏璃   アカリ「邪魔はさせない!」

 戦闘曲止まる

りっ君  「地球滅亡を望む者たちの襲撃を受けるも辛くも逃げ出し、古墳にたどり着いたノゾムとフミコ。そこで二人を迎えたのは…」
ベンチ  ノゾム「ここが古墳の中か…」
松姉   フミコ「見た目よりもずっと広い…」
先生   ???「待ちわびたぞ。我が末裔よ。」

 神秘的な音楽

松姉   フミコ「…誰!?」
先生   ヒミコ「我はかつてこの地を治めていた女王…ヒミコである」
ベンチ  ノゾム「ヒミコ? 末裔ってどういうことだ」
松姉   フミコ「まさか…」
先生   ヒミコ「我の血をひく子孫であるということだ。フミコよ。あの大岩を止めたいのだな。」
松姉   フミコ「はい。教えてください。あなたは過去に同じように隕石の衝突を止めているはず。いったいどうやって?」
先生   ヒミコ「その預言書を読み解いたのだな。よかろう。あの大岩を砕く方法は一つ。特殊な呪術をかけるのだ。ただしこれには条件がいる。」
ベンチ  ノゾム「どんな…?」
先生   ヒミコ「愛する者同士二人で術をかける必要がある。そして、どちらかが命を捧げることになる。」
松姉   フミコ「命を…」
ベンチ  ノゾム「死ぬってことか…」
先生   ヒミコ「左様。それだけ強大な力が必要である。かつてはこれを生贄と呼んだ。我もそうして命を捧げた。」
松姉   フミコ「……嫌だ…」
ベンチ  ノゾム「フミコ…?」
松姉   フミコ「そんなの嫌だ! 地球を救えても、ノゾムと一緒にいれないなんて…」
ベンチ  ノゾム「…生きている限り希望はある。それに俺たちを信じてここに送り出してくれたタイガやアカリはどうなる? 俺たちがやらなきゃ誰がやる?」
松姉   フミコ「でも…!」
ベンチ  ノゾム「ヒミコ、どちらが命を捧げるかは選べるのか?」
先生   ヒミコ「その祭壇の左側に立った者が命を捧げることになる…。我は先に奥で儀式の準備をしよう。」
ベンチ  ノゾム「ありがとう。…大丈夫。僕が左側に立つよ。君が死ぬより何でもない血筋の僕の方が向いてるさ」
松姉   フミコ「なんで…」
ベンチ  ノゾム「生きてる限り希望はあるけど、明日が来なかったら希望も何もないだろ?」
松姉   フミコ「…そうだね。私だけのわがままで地球を終わりにできないよね…」
ベンチ  ノゾム「僕のわがままでもあるよ。じゃあ行こうか」
松姉   フミコ「うん…」
先生   ヒミコ「覚悟を決めたようだな。では始めるぞ」
松姉   フミコ「…ノゾム……」
ベンチ  ノゾム「今まで…ありがとう。…だいs…sss……」…

 音楽フェードアウト

田中   ……ベンチ? どうした?
ベンチ  すううぅ、やっぱ無理だあああ
松姉   あ、ちょ! どこ行くの!!!
おはじき おいベンチ!

 逃げ出すベンチ、追う松姉

【シーン④ 公演中断、最後の語らい】

田中   そんなに恥ずかしいセリフだった?
りっ君  「今まで…ありがとう。大好きだよ。」だって
部長   なんだよぉ、それくらいスッと言わんかい!
おはじき まあベンチには恥ずかしいかもですね~、相手が松姉なら特に
部長   ?
先生   でも気持ちはわかるなぁ。役でも大好きとか恥ずかしくなっちゃうの。甘酸っぱいなぁ。いいなぁ若くて
りっ君  桜子先生もまだまだ若いですよ~。ミステリアスな演技もばっちりでした!
先生   ほんと~? 照れちゃうな~
杏璃   火上くん…演じづらかったですかね…
部長   そんなことないさ。ベンチの実力不足だよ。
田中   まあ、あいつも初めての演技でこれは荷が重かったんじゃない?
部長   一年だしな、態度でかいけど…。それに杏璃ちゃんが気にすることじゃないだろう。君がこれを書いたわけでもないんだから
杏璃   ……。
部長   はぁ…どうしてこうもうまくいかないかな
田中   公演にトラブルは付き物だろ?
部長   たしかにそうだけどな
おはじき 今までだって完璧な公演はなかったですよ
先生   そうなの? 毎回すっごい面白かったけど?
りっ君  結構失敗だらけですよ~。小道具があるはずの場所になかったり、衣装の着替えが間に合わなかったり、なんならキャラの名前間違えちゃったり!
先生   へ~。いつもすごい練習してるから完璧なのかと思ってた
部長   毎回アドリブだらけです。どんなに練習してもトラブルは付き物、それに対応するのも公演の楽しみですよ
田中   トラブルも楽しめるのは部長だけだよ。俺なんかセリフ間違えないかいつもひやひやしてるのに
りっ君  杏璃ちゃんはどう? 演技してみて楽しかった?
杏璃   は、はい! とっても、不思議な感覚でした
りっ君  うんうん、わかるな~。お客さんがいるともっと不思議な感じがするんだよ!
杏璃   そうなんですか?
りっ君  そうだよ~。自分じゃない誰かを演じて、だけど自分のセリフで観てるお客さんは心を動かしてくれるの!
おはじき 結局自分の演技観てくれてる人が笑ったり、泣いたりしてくれることが一番嬉しいよね。
部長   演劇の醍醐味だからな。それに笑顔になるのはお客さんに限らないしな。
田中   どんなにミスしても公演が終わったらみんな笑顔だもんな!
杏璃   …なんだか、皆さんが部室に集まっている理由が分かった気がします。地球最後の日に演劇をしている理由…。
田中   …あ…すっかり忘れてたや…はは…
先生   そうだ…! まだまだやること山積みだった…。私職員室に戻るね!
おはじき 仕事あるんですか?
先生   先生って本当に本当にブラックだからならない方がいいわよ~! こんな日まで働きづめだもの! じゃね!

 先生退場

りっ君  なるとかならないとかじゃないですよ、先生…。
部長   最後の公演だからこそ最後までやり遂げたかったな
杏璃   ご、ごめんなさい…。そんなつもりじゃ…
田中   いやいや、君は悪くないよ。人生の最期も演劇して迎えようって俺と部長が言い出してみんなを巻き込んだんだ
おはじき 巻き込まれたわけじゃないですよ。みんなやりたくてここに来たんです。
りっ君  そうですよ。宿題やるよりよっぽどみんなといた方が楽しいです。
部長   …みんな優しいな。自慢の後輩たちだわ。俺も最後の最後まで誰かの記憶に残ってたかった。だからこんな日にわざわざ部室に来たんだ。
田中   楽しく過ごすために部室に来たのに静けさに包まれててほんと不安だったんだから!
部長   はいはい、ありがとう。お前のおかげだよ。
杏璃   誰かの記憶に…
部長   君もそうだろ? 死ぬってわかってても家でじっとしてられなかった。
田中   犬も歩けば棒に当たる! 何かが起こるのを期待してなきゃ外になんか出ないもんな
杏璃   私は…居場所を求めて…
おはじき この状況じゃ居場所っていうか死に場所だけど
りっ君  ちょっと! 冗談キツいよ! そういう意味では杏璃ちゃんも演劇向いてるかもね! もう少し早く出会えてたらな…
田中   おい、今更悲しいこと言うなって!
杏璃   ありがとうございます。私も皆さんと一緒に演劇出来て嬉しかったです。
部長   こちらこそありがとう。そう思ってくれて俺たちも嬉しいよ
おはじき ところで……あの二人はいったいどこに?
田中   あ、忘れてた
おはじき 忘れすぎですよ
りっ君  確かに、遅いですね
部長   しゃあねえ、みんなで探しに行くか。ったく、たかだが「大好きだよ」が言えないなんて。男らしくもない!
おはじき あんまりそういうこと言わない方がいいですって。彼にも深い事情がありましてね…?
りっ君  どんな事情だよ!
田中   ほら杏璃ちゃんも行くよ!
杏璃   は、はい!

 五人退場
 
 ベンチ・松姉登場

【シーン⑤ 玉砕】

ベンチ  ひいいい
松姉   コラ! いい加減止まらんかぁ!
ベンチ  はぁはぁはぁ…
松姉   全く。校舎中走り回ったくらいで息切れしてんじゃないわよ。だからベンチなのよ情けない
ベンチ  ごめんなさひいい
松姉   はぁ…。ってあれ? 誰もいない? どこいったのかしら
ベンチ  帰っちゃったんじゃないスか?
松姉   まさか~。この程度で帰る奴らじゃないわよ
ベンチ  そうなんスか…
松姉   で、何でさっき逃げ出したの
ベンチ  え、いやぁ…
松姉   ごまかすんじゃないわよ。ほら。
ベンチ  ……、大好きって言うの恥ずかしくて…
松姉   演劇ならよくあることよ。あなたのセリフじゃなくて、この役のセリフなんだから
ベンチ  そうかもっスけど、初めてですし…
松姉   初めてでもそれが演技ってもんでしょ! 恥ずかしくて逃げ出すなんて、男らしくもない!
ベンチ  そ、そんなぁ…
松姉   だいたいそんなんでどうして演劇部入ろうと思ったのよ
ベンチ  それは…

 おはじき戻ってくるが机の影に隠れる

おはじき お!?
松姉   何よ。はっきりなさいよ。
ベンチ  ……先輩のことが大好きだからです!!!
松姉   …え?
ベンチ  初めて公演で演技観た時から一目惚れでした! 少しでも近づきたくて、入部しました…
おはじき おおおお!!
松姉   あ…そう…
ベンチ  こんな日にごめんなさい! でも言わなきゃ後悔すると思って
松姉   あんたにしては堂々として良かったじゃない
ベンチ  はい。
松姉   でも答えは、ノー。
ベンチ  え…
おはじき あちゃあ…
松姉   ごめんね私、付き合ってる人いるから
ベンチ  え、誰ですか。
松姉   水口勇人。我らが演劇部部長だよ
ベ・お  えええええええ!?
松姉   あれ、意外とばれてないんだ。私ね、もともと演劇部じゃなかったんだ。前の部活で色々悩んでてね。その時相談にのってくれたのが勇人君なの。今日ここに来たのもほんとは勇人君がいると思ったからなの。みんないてびっくりしたけど。楽しかったからまあいいや。
ベンチ  あ、あ…
松姉   あ、ちょっとショック受けすぎでしょ
おはじき ちょちょちょっとそれ以上は言い過ぎやめといたってください…

 ベンチ倒れる、おはじき飛び出し支える

松姉   おはじきいたの!?
ベンチ  …あは…
おはじき ああもう隕石が落ちる前に死にそう! ものすごく死にそう!
松姉   いやごめんってほんと…
ベンチ  いっそ言わなければよかった…
おはじき いやそんなことはない! お前はよくやったぞベンチ! 
松姉   他のみんなは?
おはじき 二人がいつまでも帰ってこないから探しに行ったんですよ。どこ見てもいない
から僕だけ先に戻ってみたらこんなことに
松姉   そうだったのね…手間かけさせたわね
ベンチ  死ぬか…
おはじき 早まるな!!! どうせすぐ死ねるから!!
松姉   嘘でもイエスって言ったらよかった?
おはじき いや逆に傷つきますよもう…。てか部長と付き合ってるってほんとですか?
松姉   本当よ。隠してはなかったんだけど
おはじき 全く気付いてませんでした…
ベンチ  あ、あ、う
おはじき あ、もうこの話やめよう! やめよー!

 部長・田中登場

田中   あれ? 戻ってきてるじゃん!
部長   なんだよもう。探したぞ! あ、あれ、どうしたベンチ?
ベンチ  …あっ…(気絶)
おはじき ベンチーーーーーー!!!
部長   な、なに?
おはじき いやぁ話すと長くなるんですが…
松姉   ベンチに告白されて断っちゃったらこうなったの
部長   ええ!?
田中   あええ!?(部長と同時)
おはじき 田中先輩は知ってました? 部長と松姉が付き合ってるって
田中   知ってた。
おはじき 知ってたのぉ!? ご、ごめんなぁベンチ
部長   なんだ、お前知らなかったのか。
おはじき 言われてないですから!?
松姉   まあ付き合い始めたの随分前だし?
部長   まあ表立ってベタベタしてないし?
田中   俺が部活ではやめろって言ったし…
おはじき 意外とまともなアドバイスできるんだ
田中   今バカにしたよね?

 りっ君・杏璃登場

りっ君  なんだみんな戻ってたのか~
杏璃   そこで倒れてるのって…?
おはじき あ、うん気にしないであげて…
松姉   で、どうする? 台本の続き読む?
りっ君  うーん、ベンチがこんな状態ですし、先生戻っちゃいましたし…
部長   流れをぶった切られたからな
田中   そうだなぁ
おはじき かといってやることも…

 爆発音・照明暗くなる

【シーン⑥ 終焉】

全員   !?
田中   なんだ…?
部長   まさか…

 部長窓を開ける
 轟音

松姉   隕石が…
りっ君  勢いが増してる…
部長   いよいよ終わりが近いということか…
杏璃   そんな…
田中   楽しい時間はそう長く続かない…か…

 先生登場

先生   みんな無事?!
松姉   桜子先生…
部長   大丈夫です。いや、一人無事じゃないけど、これは関係ないです。
先生   そう、良かった…。今、親御さんたちから連絡があったわ。君たちを探し回ってるって。最期の時を一緒に過ごしてあげて。…もうお家に帰りなさい。
みんな  …。
先生   …みんなの気持ちもよぉくわかる。でも…私も先生だから、無責任なことできないよ。
全員   …。
先生   …ちゃんと伝えたからね…

 先生退場

おはじき ………僕帰ります。ベンチを家に届けないと…。こいつとは家が近いし…。
部長   おはじき…
おはじき みんなと最後まで一緒にいたかったですけど…。やっぱり親には逆らえないです…。じゃあ、お疲れ様でした…

 おはじき、ベンチと退場

りっ君  みんなで演劇出来て楽しかったです。でも…ちゃんと最後までやりたかったな…。でもでも! 悔いはありません! それじゃ、またいつか! …宿題置いてっちゃいますね。ばいばい~…

 りっ君退場

部長   最後までやりたかったな…。
松姉   私たちも帰ろう。お母さんに怒られちゃうよ。
部長   いいじゃないか、もう終わるんだし…
松姉   ダメよ
部長   …わかったよ…
田中   俺は残るよ。どうせ家には誰もいないから。
部長   …そうか。
松姉   杏璃ちゃんは?
杏璃   私も…残ります。家は居心地が悪いので…
松姉   わかった。気を付けてね。
田中   お前らもな
部長   ああ。帰る時、部室の鍵ちゃんと締めてな。
松姉   じゃ、さよなら…。

 部長・松姉退場

田中   …もう鍵締める必要なんてないだろ…
杏璃   …。
田中   はぁ。
二人   …。
田中   …ほんとにいいのかい?
杏璃   え?
田中   最期に過ごすのがここで。というか、俺と一緒で?
杏璃   全然いいです。一人じゃないだけで安心します。
田中   そうか…。ならいんだけど。
杏璃   田中先輩は…どうして家に戻らないんですか?
田中   …あぁ、家に誰もいないんだ。親がいたんだけどね。地球が滅ぶって聞いて、おかしくなっちゃってさ。
杏璃   …ごめんなさい…辛いこと話させちゃって…
田中   いや、いいんだよ。すごく明るい人だったんだ。でも、未来を奪われるだけでこんな簡単に壊れるのかって思った。
杏璃   …。
田中   だから、俺はせめて最期まで楽しくいようって決めたんだ。それでこの部室に来たし、みんながいつも通り明るくなってくれて楽しかったし、嬉しかった。生きている限り希望はある。死ぬまでは生きてなきゃいけないんだから。
杏璃   生きてる限り希望はある…。…先輩、この台本やってみてどうでしたか。
田中   え? そうだな…。状況が重なるのもあって、「生きてる限り希望はある」ってセリフは、やっぱり響いたかな。でもゲンキたちの言い分もわかる。生きててもしょうがないって思っちゃうのも。どうせなら死んじゃいたいってさ。
杏璃   そうですか…
田中   杏璃ちゃんはどうだった?
杏璃   …実は、これ書いたの私なんです…
田中   そうなの!?
杏璃   はい…。ネットの脚本サイトに投稿してたんです。まさか演劇部で使ってくださるとは思ってなくて、嬉しかったです。
田中   そうだったのか…。
杏璃   私、家に居場所がなくて。前からずっと居場所を探してて。隕石落ちてきたらいいのにとか、特別な力持ってたらいいのにとか考えて。その欲望を文字に起こしてたんです。そうやって現状に絶望してたけど、前を向かなきゃって思い直して、でも書いた内容が現実で起こって、私のせいなのかなって勝手に落ち込んで…。
田中   うん…わかるよ。でも、辛くても前を向こうとするのすごいよ。強いんだね杏璃ちゃんは。きっとみんな誰でも少しは考えてたことだよ。世界が滅べばいいのにとか。杏璃ちゃんのせいなんかじゃないよ、絶対。
杏璃   …ありがとうございます。優しいんですね、田中先輩。
田中   みんなに笑顔でいてほしいだけだよ。
杏璃   素敵な考えだと思います。見習いたいな。
田中   今からでも遅くないさ。一緒に演劇したじゃない
杏璃   えへへ。もっと早く出会いたかったです…。
田中   また次でも会えるさ
杏璃   そうですよね…。
田中   うん…

 先生登場

先生   はぁ、やっと帰れる…ってうわぁ!?
二人   うわぁ!?
先生   なんだぁ、まだいたの…
田中   すみません…
杏璃   帰りたくなくて…
先生   そう…君らがいるなら帰れないじゃない、まったくもう…。今日は職員室に泊まるかぁ
田中   いいんじゃないですか? 今日くらい
先生   いいえ! 先生として、演劇部顧問として、生徒がいる限り責任を持つのが先生の役目です! じゃ、良き終末を!

 先生退場

杏璃   先生、しっかり者過ぎですね
田中   良い先生だよ、本当に
杏璃   …改めて、居場所を求めてここに来て良かったです。自分の台本を面白いと言ってもらえて。面白い人たちと楽しい時を過ごせて。
田中   俺も君に出会えて良かった。最期まで幸せだった…
二人   ……。

見つめ合う二人。
暗転。田中・杏璃退場

【シーン⑦ やってきた「明日」】

音声 速報です! 地球への衝突が予想されてきた巨大隕石の軌道に変化があったようです! これにより、隕石は地球に衝突する軌道から外れ、人類の滅亡は、免れました! 専門家によると突如活発化した太陽活動の影響による可能性が高いとのことです。しかし、地球の至近距離を隕石が通過する影響は予測がつかず、依然として地球環境に注意が必要との見方を…

音声フェードアウト

 明転。ドタドタと走ってくる部長
 窓を開ける動作
 のどかな小鳥のさえずり

部長   ……青空だ…。いつもの空だ…

 松姉登場

松姉   ちょっと勇人君! 慌てすぎ!
部長   そりゃ慌てるだろ! 来るはずのなかった明日が来てるんだから!
松姉   明日が来てるってことはもうそれは今日でしょ!

 りっ君・おはじき・ベンチ登場

りっ君  おはようございます!!!
松姉   おはようりっ君
部長   おはよう
ベンチ  昨日からの記憶がない…
おはじき お疲れ様です。これはいったいどういう…?
りっ君  なんだかよくわからないんですけど…ひとまず大喜びしていいですか?
部長   ああ、いいぞ
りっ君  いいいいやったああああ!!!
ベンチ  痛い痛いっス…
松姉   田中と杏璃ちゃんは?
部長   さあ…
おはじき あの二人ここに残ったんですか?
部長   うん…。まさか心中でもしてないといいけど
おはじき あの田中さんに限ってそんなこと…

 田中・杏璃登場

田中   あ…!
おはじき ん? 今手繋いでました?
杏璃   お、おはようございます皆さん! 朝早いですねぇ!
おはじき ねえってば
部長   ふーん
松姉   まあそりゃそうなるか
田中   な、なんだよ…
ベンチ  いい加減離してくださいよ…
りっ君  いやだね! ベンチ! 一緒にこの喜びを分かち合おう!

 先生登場

先生   ふぁ~朝からうるさいな…って朝……?
部長   桜子先生おはようございます
先生   って朝あああああ!? 隕石は!? 地球滅亡は!?
松姉   隕石の軌道がなぜだか逸れて助かったみたいです
先生   そうなの!? よっしゃああ生きてるぅう! ってちょっと待って…
杏璃   どうしました…?
先生   今日が来たってことは明日も来るってことでしょ…? 明日から…二学期じゃなーい! もおおまた仕事だよおおおお、わあああん!

 先生退場

りっ君  明日から二学期…?
田中   席替えだ、修学旅行だ、文化祭だ…!
部長   文化祭!!?? やれるのか俺たち…!
松姉   まるでこの台本みたいな奇跡ね
おはじき じゃあ真面目に稽古しないとですね!
田中   その前に! この台本、書いた人を紹介するぜ!
りっ君  え…?
杏璃   実は…これ書いたの私なんです…!
りっ君  ええええ!? 何ですかその偶然!? もはや運命!
部長   本当か!? たいしたもんだな
松姉   今回からさっそく演出とかしてみる?
杏璃   いいんですか?
松姉   もちろん! あ、そうだ、あだ名考えなきゃ!
おはじき あ、結局考えられてなかった!
田中   それなら、「アカリ」でいいんじゃない? 昨日読んだ役名で
部長   えー安直すぎるって
田中   待て待て待て! じゃあ俺のあだ名は!? なんだよ田中って!!
松姉   まあまあ…
りっ君  一緒に色々やってくうちに自然と決まってくるよ~!
杏璃   あ、ありがとうございます!
部長   改めてよろしく、杏璃ちゃん。ようこそ演劇部へ!
杏璃   よろしくお願いします!

 音楽流れ始める

田中   よし! じゃあさっそくホールの予約を取ってきますか!
部長   それは俺の仕事だ! おいこら!
杏璃   あ、ちょっと田中先輩! 置いてかないでください!
松姉   ほら、ベンチ! いつまでぼーっとしてんの!
ベンチ  生きている限り希望はある…希望…希望…?
りっ君  はあああああ! 宿題終わってない!!!!! どうしましょーこれ!!
おはじき そんなんもうあとでいいだろ! 稽古だ稽古! 普段より時間ないぞ!

 わちゃわちゃしながらみんな退場
 

 終


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