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プレゼントはなんでしょう

サンタクロースを信じるのって、何歳くらいまでなんだろう。

長男は小2の時、

「ねえ、お母さん。サンタって親なの?」

と聞いてきた。友だちの間でそんな話になったらしい。なのでわたしは

「サンタを信じていない家には来ないから親が買うんだよ。うちは信じてるから来る!」

と言い張った。彼は納得したのかしないのか、それ以上きいてこなかった。だって、大昔の ニューヨーク・タイムズに「サンタはいるんですか」って子どもの投書があって、その返事に「いる」って書いてあったじゃないか。サンタクロースはみんなの心にいるんだよ。きっとやってくるんだよ。

でもその年のクリスマスイブ、わたしはダウンしてしまった。 胃が痛くてごはんが食べられない。疲れていたのだと思う。長男が小2なら次男は2歳で、40度熱があっても子育てに休みはない時期だった。「子どもがいるから」と言われたくなくて、仕事も全開でぶっ飛ばしていてそれがプライドだった。休みの日によく倒れたけど。

それでもその日はヨロヨロと起きあがって骨付きの鳥ももを焼いた。自分では食べる気がしないくらい調子が悪い。幸い子どもたちは早く寝たけれど、一緒に寝かしつけ当番のオットも寝てしまった。当時の日記には「胃が重くてゴムになったみたいで眠れない」と書いてある。

鉛のような胃を抱え、サンタさんのプレゼントを持ってそろそろと2階にあがった。 次男の枕元と、長男の足の先(枕元にはスペースがない)にそっと包みを置く。デパート名入りの クリスマス袋だけどまあいいことにしよう。サンタさんだって家中戸締まりしてあるのに入って来られないからね。プレゼントは外に置いてあったのだ。お母さんはそれを家の中に入れただけ……ということにしておこう。

その年の長男の「サンタさんへのお願い」は、「ポケモン金」だった。 でも当時、台湾で地震がありIC工場が被害を受けたため、ゲームソフトは軒並み品薄で、特に人気のある 「ポケモン金」「銀」はほとんど手に入らなかった。実は発売日の朝、開店前のスーパーに並んだが3人手前で「金」が売り切れて「銀」しか買えなかった。しょうがないので長男には「いくらサンタさんでも無いものは持って来られないよ。台湾で地震があったからねえ」などとさりげなく言い聞かせていたのだが。

その前の年、長男は「ポケモン図鑑」をお願いしていた。ところがサンタ代理の親はそれがそんなに人気あるものとは知らなくて、とうとう手に入らなかったという前科がある。その時、彼は別のもので納得はしたけれど、ちょっと悲しそうだった。

今年も去年の二の舞になるのか……と思っていたのだが、クリスマスを数日後に控えたある日、オットが駅前のおもちゃ屋で偶然にも「金」を ゲットした! お父ちゃんグッジョブ! 最初に買った方の「銀」は、そちらを所望されていたお友だちの家にこっそり嫁入りしていった。息子はそんなことはもちろん知らず、どきどきしながら当日を迎えた。

25日の朝、目覚めた彼は飛び起きて足下にあるプレゼントの包みを手に取った。包装紙を破り捨てて中を確認する。

「わーーーーっ! 『金』だ。金だ、金だった! やったーーーーーっっっ!  サンタさん、ありがとう!!」

ゲームソフトを胸に押し抱いて狂喜乱舞。昨年のちょっとがっかりした経験があるためか、もう涙を流さんばかりの感激である。こういう姿を目の当たりにすると苦労して探して良かったという気になってしまう。心なしか胃の不調も改善したようだ。子どもの喜ぶ顔って、なにものにも代えがたいところがある。


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当時2歳だった次男も、もちろん長男も、すっかり大人になってしまったので、もううちにサンタさんは来ない。きっと今夜は世界中をとびまわって子どものいる家にプレゼントを配るのに忙しいことだろう。

サンタさんは来ないけれど、そして相変わらず胃の痛む機会もたくさんあるけれど、うれしそうに踊っていた子どもたちの光景はこれからもずっと忘れないだろう。思い出すと胃のあたりがじんわり温かい。喜ばせようとして、永く続く喜びをもらったような気がする。


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