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SS【特別科目】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「卒業の」に参加させていただきます☆

お題「卒業の」から始まる物語

【特別科目】(2583文字)


「卒業の意味を知ってるかね?」
 と問われたので、ポカンとしてしまった。あたりまえに使っている言葉の意味なんて考えたことがない。他のことだって考えないけどさ。でも多分こんなところかな?と思って俺は答えた。
「次の日から学校に行かなくてもいい、ってことスか」

 おっさんは、ため息をついた。ハァ~……。ため息の見本みたいなため息だ。俺は可笑しくてアハハと笑った。
「笑いごとじゃないぞ、君。卒業とは『学校の全過程を学び終えること』だ。君の言った意味では、大事なところが抜けている」
「へー、そういう意味だったんスか。でも俺、小学校も中学校も卒業はしたけどなに学んだかなんて覚えてねぇなぁ。あ、高校は中退なんで卒業してないっス」

 おっさんは、またため息をついた。ハァ~~……。
「深い呼吸はカラダにいいって、うちのばあちゃんが言ってましたヨ」
「別に深呼吸をしているわけではない。困っておるんだ」
「そスか」

 それを言ったら俺の方が困ってる。ここがいったいどこなのかわかんねぇんだから。俺はとりあえず一服するかと胸ポケットを探ったがタバコがない。あれ?と思って視線を下げてさすがに驚いた。シャツが真っ赤に染まっているうえに…
「俺の足がないっス」

 おっさんはうなずいた。
「そう。君は事故で死んで今世を卒業した…はずだ。それで聞いたんだよ。さっきも言ったが、君はどうも人生学校の全過程を学び終えていないようでな」
「人生学校…?俺…死んだんスか」
 そうだったのか。

「人生とは学校だ。人は生まれてから死ぬまでが学びの日々なんだよ。人によって学ぶ順序は変わるが、誰もが全過程を学ぶのだ」
「でも俺が死んだってことは、卒業したってことなんでしょ」
「本来はそういうことなんだが。この記録を見るとだな…君、赤点もいいところじゃないか」
 おっさんは眉間に皺を寄せて俺を見た。そんな目で見られてもサ。
「俺が赤点取るのはアタリマエっスよ。それに俺だって死にたくて死んだんじゃない…」

 俺はだんだん事情がわかってきて、泣きたいような怒りたいような気分になった。俺、バイクで事故って死んだんだ。ミキちゃんの誕生日だから急いでて…。
「ミキちゃん、泣いてるかな…」
 俺はうなだれた。よく見ると胸はペシャンコだし、足がないからバイクにも乗れねぇ。
「まぁ、ちょっと待ってなさい」
 おっさんは部屋の隅の椅子を指さして、座っていろと合図した。俺は足もないのにどうやってあそこまで行くんだろうと思ったが、気づいたら椅子に座っていた。なんだかココは便利な所らしい。

 少し落ち着いて部屋を観察してみると、俺の後ろにも人が並んでいたらしく、誰もがいくつかおっさんに質問されてからドアの向こうへ消えていく。ふぅん、あれが天国のドアってやつかな。そういやミキちゃんの好きなユーミンの歌にもあったっけ…。
「これ、ジェットコースターの歌だけど、意味深だよね、うふふ。」
 俺にはさっぱりわかんなかったが、ジェットコースター乗りたいって言うミキちゃんのために遊園地行ったなぁ。俺ホントは、怖いやつ苦手なんだけどミキちゃんがすごく喜んでキャッキャ笑ってたの可愛かったな。
 俺はまた泣きたくなってうなだれた。すると再びおっさんに呼ばれた。

「君は死んだ時のことを覚えてるかね」
「ミキちゃんの誕生日だったんスよ…。ケーキ…、ケーキ屋が閉まる前に着きたくてサ。バイト終わるの遅れたから急いで…。せっかくの誕生日にコンビニケーキじゃいつもと一緒だから、予約してあったんスよ。なのに雨が降ってて、バイクが滑って転んで…」
 俺は泣けてきた。バカだな、なんで転んだんだよ。ケーキ屋にも間に合わねぇし、おまけに死んじゃうとかさ。もうミキちゃんに会えないじゃんか…。
しばらくして顔を上げると、おっさんが俺をジッと見て低い声で言った。

「君の評価は、概ね赤点ではあったが…、実はここさえクリアすれば卒業できるっていう特別科目がひとつだけあってね。でも普通、そこはなかなかクリアできないんだ。ほとんどの人は総合点でクリアして卒業ってことになるんだが…。さっき調べたら君、意外にもそこだけクリアしてるんだよ」

 意味がよくわからないので、俺はだまっておっさんを見ていたが、おっさんも黙って俺を見ている。気を持たせんなよ。
「結局、どうなるんスか。俺もうミキちゃんに会えないんスかね…」
「…戻ることもできるよ。戻りたいかね?」
「もちろん戻りたいっスよ!いいんスか?」
 俺は期待に胸をふくらま…せられなかったけど(ぺしゃんこで)、わくわくした。マジかよ、マジかよ。

「…しかしな、今回卒業すればすんなり天国に行けるし、来世もかなりイイ所に行けるんだぞ。だが、戻ったら今度は総合点で合格ラインに到達しないと卒業できないし、来世もどうなるかわからんよ」
 かまうもんか!来世なんてどうでもいい!ミキちゃんに会えるなら!

「おねがいします!俺、今度こそマジでがんばるんで!」
 おっさんは、やれやれという感じで首を振ったが、すこし微笑んでるようにも見えた。

……

「…そんなわけで、俺こっちに帰ってこられたんだ。会いたかったよ、ミキちゃん」
 ミキちゃんは俺の目をジイッと見ている。その目に涙があふれている。俺は胸がいっぱいになった。全身打撲と複雑骨折で動けなかったけど。足はあると聞いてホッとしていた。

 ミキちゃんは思っていた。
 かわいそうに、頭も打ったからちょっと変になっちゃったのかも。でもいい、生きててくれたから。世界一やさしいジュンくんはそのままだ。
「ジュンくん、大丈夫だよ。あたしが付いてる。ジュンくん大好き」
「うん。俺もミキちゃんが大好きだ」

……

「大丈夫ですかねぇ…」
「たまに、ああいうのがいるんだよ」
「でも、ああいうのが特別科目をクリアするんですよね」
「あれを、な」
「あれを」
「マハトマもテレサもクリアできなかった科目を、な」
「ふしぎなものですね」
「総合点クリアするのに何年かかるだろうな…」
「およそ百年ですね。予想ですと」
「やれやれ。まぁ、見守ってやろう…」

……

 そんな天界の会話を知る由もなく、ジュンとミキは「元気になったら新しくできたイオンに行こうね」などと無邪気に笑い合っていた。

 …さて、彼がクリアした特別科目って結局なんだったの?と思われるでしょうけれど、教えるわけにはいかないのです。
 みなさまはまだ在校生なのですから。


おわり


© 2024/3/10 ikue.m

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