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独裁者の統治する海辺の町にて(12)

「見せてみろ」
平良主席は執務室に入ってくると大きなエグゼクティブ机に豊満な尻を乗せ足を組んだ。
おれは、携帯を渡した。
「6月の東京行きの時に会ってるな」
湯上がりの麝香(じゃこう)の匂いでおれは目まいがしそうになった。
「安倉次席秘書とは意外でした」
「まあな で 九鬼には伝えたか」
「伝えるわけがありません」
安倉は九鬼直属の秘書官だ。そして、アサシン養成所の教官でもあり、なおかつ、九鬼の愛人だ。じつに込み入った「対象」だったのだ。
「それで その記者は何を調べようとしていたんだ」
「鯨です」
主席は顔を歪めた。動揺しているとおれは思った。

「いまいましいな」
「始末しますか?」
「もちろんだ」
「でも、なぜですかね」 おれは、分かっていたがあえて聞いた。
「外の世界がよくなったか その記者の色仕掛けにひっかかったか 一年前から会ってるしな」
「なるほど」
「いい男だったか?」
「それなりに」
「ふん」主席は唇の右をあげ、薄く笑った。
「書記長には伝えますか」
「君からな 明日、07:30に ははは、九鬼の顔がみたいな」
「逃亡しませんか」
「九鬼が言わないかぎりは」
「その保障は?」おれはおそるおそる聞いた。
「言ったなら 九鬼を処刑するまでだ」
「いいのですか」おれは驚いたふりをして聞いた。
「変わりはすぐ派遣される なんなら推薦してやろうか」 彼女は俺の目を上目遣いに見つめた。
「冗談はやめてください(迷惑です)」と後の4文字は心で言った。
彼女は愉快そうに笑うと、「飲むか」と言った。

寝室に入ると、主席はバスローブを脱ぎ、俺の手をとり、ベッドに引き込んだ。おれは彼女のあしらい方を知っている。

「汗臭くありませんか」
「若い労働者の汗と体臭は私の好物だ」
彼女はそう言うと自分の言葉に発情した。

主席は全くの牝と化し、俺に尻と背中を向けた。こういうのは幾たびかの交情の果てにできあがった習慣で、お互いの安全性は保障されている。だが、その夜の彼女は、いつにもましておれに激しさを求めてきた。おれは、今なら、という殺意の誘惑をやっとのことで抑えた。それは、彼女を殺っても、九鬼の野郎が主席に就任するのは分かっているからだ。取り入っているだけ、今の方が事を運びやすい。この二人を同士討ちにさせるのが、この組織を壊滅するためには一番の方法だ。それに、さっき判明したが、この二人には亀裂がある。うまく利用する方法を見つけねば。

主席は もっと もっと と 尻で命じた。おれは主席を打ち倒す革命戦士のように自分を鼓舞し、突いた。主席は果て、シーツにアメーバのようにひろがった。そして この夜の不快な奉仕は、おれにもう一つの収穫をもたらした。
                              (続く)

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