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Vol 1. ファッションと陶芸。作ると売るの心地よい共存のためにできること

オンライン空間のちいさな器の商店街「ソーホー」による、ポッドキャストシリーズが始まりました。

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陶芸家が土と向き合いゆっくりと器に形を与えるように。「手の速度」で地域や業界に向き合い、自分らしいスモールビジネスを育てる皆様にお話を伺いしながら、止まらぬスピードで前進し続ける様々な業界の今と、スモールビジネスがもたらすポジティブな変化について、考えを巡らせていきます。

記念すべき第1回目は、ファッションブランドMURRALのデザイナー村松祐輔さんと、株式会社CEORY取締役としてMURRALのマネジメントを行う三浦信太郎さんをゲストに迎え、ソーホー代表清水大介を聞き手として、ファッション業界の今や、クリエイターとビジネスの共存、そしてスモールビジネスの行先についてお話を伺いました。本記事では収録内容の一部を抜粋してお届けします。

MURRAL
2013年よりデザイナー村松祐輔と関口愛弓のデザイナーデュオにより発足されたブランド。“平凡な日常に少々のドラマチックを”をコンセプトに、日常に溢れる題材を落とし込んだアイテム作りが特徴。ブランド名の「MURRAL」は「MURAL = 壁画」に由来。「壁を彩る壁画のように飾られた状態でもヒトを魅了し、ヒトの日常の中にある壁を彩っていきたい」 という思いから名付けられた。https://murral.jp

(最新のコレクションでは、"AWAKE"をキーワードに躍動感ある洋服を展開)


クリエイターと忍耐。洗練された世界観の裏に潜む「昭和感」

「着て美しいだけでなく、壁画のように飾った状態でも美しい」。現代的感性で次々に情景を切り取り、見たまま・感じたままを瑞々しくファッションへと変換するMURRAL。一見軽やかな印象を見せるブランドの舞台裏には、外からは決して見えない「忍耐の連続」があるといいます。


村松さん:
三浦と出会うまでは少し時間があるんですけど、食えない時もありながら、のらりくらりとブランドを続けていました。でも、続けていればいつかどうにかなるだろうという、根拠のない自信はどこかにあって。今までずっと続けてきていて。

実はそれは今でも変わっていません。止まることとかやめることは簡単だけれど、続けていった先にきっと何かがあると思っているので。そんな感じで、2013年にスタートして、ずっと頑張って続けていますね。


三浦さん:
いや、デザイナー二人ともしぶといんですよね(笑)多分、村松さんと同世代のファッションブランドは色々あると思うんですけども。やはり金銭的な問題だったり、モチベーションも含めて、続かなくなってしまっているブランドさんってたくさんあると思うんですね。特にコロナが最後の決め手となって、やめてしまったブランドさんもたくさんあると思います。

もちろん僕たちも日々たくさんの課題があって、毎日その課題をどう乗り越えれば良いのか、お客さんにどう届けることがよりベターなやり方なのか、そういうことを常に考えています。そういう中で、MURRALのデザイナーである村松さんと関口さんの二人が誰よりも優れている点っていうのは、それは「しぶとさ」にあると思うんです。デザイナーの中でも世界一のポテンシャルがあるのではないかな、と。

清水さんも前におっしゃっていましたが陶芸と同じく、(ファッションも)やはり忍耐なんですね。実際にものを作って、焼いてみて、失敗することがあるように、洋服も同じことが多いと思うんです。半年前からデザインして作って、結局お客さんにあまり理解頂けないこともあります。そういうことがある一方で、僕たちが思ってもいなかった売り上げとなる場合もある。それらを含めて、やはり「忍耐」はクリエイターとして、とてつもなく大切な資質ではないかと考えています。


村松さん:多分僕たちは「粘り勝ち」なんです。もちろん成功も大切なのですが、僕らデザイナー二人にとって大切なことは「いいものを作る」ということが根本にあって、そのためだったらどんな努力でもするという気持ちがあります。それで食べていくことができなければ、もちろんバイトもしていたし。でも、それでも、ものを作ることを止められなかったし、それでしかやれなかったので、多分そこ一本でなんとかやってきたのではないかなと思っています。


三浦さん:
もちろん村松さん・関口さんのデザインチームもそうなのですが、うちのブランドはある意味「昭和的」というか。見て頂いているクリエイションの背景には、やはり村松さん関口さんを含めた、生産や販売を行うチーム全員の忍耐がかなり強いのではないかと思っています。


「作って終わり売って終わり」から「日々使ってもらうまでのデザイン」へ

チーム全体の忍耐が形となり成果となり、2013年に始動したMURRALは、今や多くの人々に愛されるブランドへと成長しました。クリエイションと運営方法が日々磨かれていく社内では、MURRALらしいデザインを育て貫くための「共通言語」があるそうです。


三浦さん:
これはファッション業界全体に言えることだと思うのですが、ある種のアーティスト気質があって、「作って満足している」という側面もあると思います。それはもちろん一理あって、しっかりと作ったものをお客さんに理解して頂くかどうかに関係なく、これは作品であるという考え方ですよね。そういう考え方はもちろんあって当然だと思います。だけどMURRALに関しては、「お客さんに届けるまでがデザインである」という風に考えていて、それをチームの共通言語としてもっています。

例えば、配送される時のダンボールの色味や、それを開けた時にお客さんがどう思うのか?その服を着てみてどう思うのか?箱を開けて試着した時に素敵と思ってくれるのか、思わないのか?または、クリーニングに出したり、自宅の洗濯機で洗濯して、日常的にずっと使ってみてお客さんがどう思うのか?そのような全てのタイムラインを「デザイン」という風に捉えていこう、と考えています。そんな風にデザインを捉えると、決して洋服のサンプルが完成して、そのサンプルの良し悪しだけが、デザインを考える上での答えではない、という風になっていきます。

「お客さんに届けるまでがデザイン」を究極に言うと、「お客さんに届かなければデザインは完結していない」ということでもあると思うんですよ。だからこそ、僕らはお客さんに手に取ってもらうまでの全てのプロセスに信義を注ぎ込んでますし、お客さんの買いづらさや買いやすさについては常に敏感に感じとるようにしています。


クリエイター思考とビジネス思考の共存は「場に応じたチューニング」から

小さな気づきと改善の積み重ねを通して、お客さんの日々に届くブランドとなったこMURRAL。しかし、オンラインでの成功の裏側には、オンラインならではのつくり手の苦悩もあるそうです。クリエイションの質とビジネスの継続性、クリエイターとしてのオリジナリティーとお客さんへの応答。つくり手たちが直面するこれらの難題を、MURRALではどのように乗り越えているのか?最後にその秘訣を伺いました。


清水:
(オンラインで販売していると)売れなかったときに、それが数字となって目の前に提示されると思うんですが、その時にデザイナーとして村松さんはどんな気持ちになるんでしょうか?僕なんかは、割と平気なタイプで。「あ、売れへんかったんだ〜」という感じで割と消化できてしまう方なんですよ。というのも、僕のものづくりの入り口として建築を勉強していたというのもあって、自分のクリエイションというよりも、お客さんの求めるものに答えながら作るという感覚を持っているので。そのあたり、村松さんはどういう風に感じるタイプですか?


村松さん:
僕の場合は、引きずります(笑)ただ、そこはもちろん三浦さんもいるので、なぜそれが売れなかったのか?例えば、そもそも商品の魅力が足りなかったのか、それとも発売前までの導線が全然できていなかったのか?とか。色々な理由を探って解決しながらやっていくので。もちろんものが売れなかったというのは直接的にしんどい部分もありますし、もちろん売れてくれたら素敵だなとは思いますけど。でも、結局その売れなかった経験や売れなかったディテールは、絶対に次の売れるものに活かされると思うので、そこをポジティブに見るように気をつけています。とはいえ、めちゃめちゃヘコみますけど(笑)


三浦さん:
なんというか、ミュージシャンに例えるとしたら、一つのコレクションを作るのってアルバムを作るような話だと思うんですよね。どっぷりスタジオに入って、歌詞書いて、音つけて、収録して、統合して、リリースする。それは僕らの業界でいうコレクションを作る行為と似ていて。それは半年以上かけてやっていくものなので、もちろん世の中に響くといいなとは思っています。ただ同時に、(こういうアルバム制作的な)ゼロイチを生み出すミュージシャンのような考えも必要な一方で、DJ的な考え方も必要だと思うんですね。それは、今の世の中の風潮やお客さんの求めるものを適切に感じ取って、その感覚をベースにものをアレンジして、パーティーやクラブのイベントをを盛り上げていく感覚です。そういう風に、場の空気を見て、お客さんを見ながらものづくりをしている部分も、僕らにはあるんですよ。

今のファッションブランドや、ものづくりをしている人たちに必要な要素っていうのは、ゼロイチで音を作っていく「ミュージシャン的感覚」と同時に、その場の空気やオーディエンスの欲しているものを見ながら、自分のスパイスを加えていけるような、そんな「DJ的感覚」も持つことなんじゃないかな、と思っています。

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お客さんと直接対峙し、自らの手で作ったものを、自らの手で届け、前進し続けるブランドMURRAL。デザイナー2人が独自の感性を存分に発揮し、ブランドとしての圧倒的な個性を放つ一方で、いつでもお客さんに向き合い、その要望に耳を傾ける真摯な姿勢が共存する。

「衣服」を通して新たな視点や感性を発信するファッション業界において、MURRALが成功を収めるその最大の理由は、時代・顧客・ブランドの美学を、絶え間なく行き来し、自らの発する音を変化させる「絶妙なるチューニングの技能」にあるのかもしれません。

どの要素が欠けても立ち行かなくなってしまうからこそ、チーム全員は場に流れるわずかな音色に耳を澄まし、瞬間に応じて、共鳴する音、突出する音を、即座に繰り出す。連続的に変化する音色の根底には、いつも同じMURRALらしいリズムが刻まれ、チーム全員は同じ速度で求めるクリエイションを目指してゆく。時に早まったり、緩やかになったり、一定ではないテンポの中で、MURRALはMURRALらしいクリエイションへと、一歩ずつ確かな歩みを進めている、そんなことを感じる収録でした。

MURRALのお二人とも、ありがとうございました。

▼収録内容の全編はポッドキャストから
Vol 1. ファッションと陶芸。作ると売るの心地よい共存のためにできること
Spotify:https://open.spotify.com/show/5rI2OubflZWO1kfTpVnVwa
Google:https://bit.ly/3mxVN8y

▼ソーホーWebsite
https://so-ho.shop/


テキスト:高橋ユカ

(本記事は2021年7月26日に「Zoom」を使用して収録された内容を元に記事化しています)

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