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Vol.25 藤原麻里菜さんインタビュー「今、無駄に思えるものでも、視点を変えて見ると将来的には価値あるものに変わるかもしれない」【12月3日(日)キヅキランドワークショップ開催】

今年はコロナ禍の前のように、各地で対面のイベントやワークショップが開催されました。私たちも夏の「こども科学博2023」(8月4日〜6日・京都)に参加して、たくさんのこどもたちにキヅキランドを体験していただきました。そして、12月3日(日)には、ひさしぶりにオンラインならではの楽しみをお届けするワークショップを開催します。キヅキセンパイには、コンテンツクリエイター・文筆家の、藤原麻里菜さんが登場します。「無駄づくり」というコンセプトでユニークなマシーンを発表している藤原さんと一緒にキヅキを見つけながら、自分ならではのものの見方や考え方を膨らませてみましょう。今回は「無駄づくり」が生まれたきっかけや「無駄づくり」を続けてきた藤原さんの視点を探るインタビューをお届けします。

藤原麻里菜さん/コンテンツクリエイター・文筆家。1993年生まれ。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。Forbes Japan「世界を変える30歳未満の30人」 2021年入選。青年版国民栄誉賞TOYP会頭特別賞受賞。https://fujiwaram.com/


「下手だから」を理由に自分の頭の中にあるアイデアを諦めてしまうのは良くない

——藤原さんは、プロフィールにあるように「無駄づくり」と題して、頭に思い浮かんだ不必要な、あまり役には立たないようなユニークな発明を行ってSNSで発表し続けています。たとえば、「インスタ映え台無しマシーン」は、スマホで写真を撮ろうとすると指(の模型)が必ず写り込んでしまう仕掛け。あるいは「服がめちゃくちゃ引っかかるドアノブ 」。ドアの前を通るときにノブに服が引っかかってしまうとイラッとしてしまいますが、それを解消するのではなくてもっと引っかかるようにしたもの。どれもアイデアが、「こうあるべき」とか「これが良し」とされていることをあえて疑うように発想するものが多いような印象です。

藤原さんの「無駄づくり」より「インスタ映え台無しマシーン」
藤原さんの「無駄づくり」より「服がめちゃくちゃ引っかかるドアノブ」

藤原:そうですね、基本的に私は天邪鬼なんです。例えば「三日坊主」って世間では良くないことだとされてますけど、私はいいじゃんと思っていて。三日で飽きたとしても、それを繰り返していっぱいやればいろんなものが習得できる! と思うんです。なんでも始めた最初の三日って一番楽しいから、それを繰り返すの最高じゃん! って。一般的に価値がないとされているものや、世の中でいじめられている存在を見ると、助けたくなっちゃうっていうか、「ちょっと待って、本当にそうなの?」と立ち止まって考えたくなるんですね。

——そういうふうにものを考えるのは、こどもの頃からですか?

藤原:そうかもしれないですね。学校の全校集会の時にみんながまっすぐ前を見ているときに、ちょっと振り返って後ろを見てみたりとか、みんなが体育座りしているときにわざと正座して、頭一個分ちょっと違う目線でみんなが見ていない景色を見ようとしたりしていましたから。

——「無駄づくり」が生まれたのも、人とちょっと違った目線でものを見たいという気持ちから始まったんでしょうか?

藤原:私、昔からものを作るのが好きだったんですけど、工作がすごい苦手だったんですよ。こどもの頃って、何かを作ったり描いたりするとそれだけで褒められてたじゃないですか? でも高校生くらいになってくると、仕上がりがきれいだったり繊細だったり緻密だったりしないと褒められなくなりますよね。私はそういうのが苦手でうまく作れなくて、それで自分の作りたいっていう気持ちとすごいギャップを感じてものづくりから離れちゃったんです。でもやっぱり何かを作りたいという気持ちがあって、そのときに「無駄なものを作る」というコンセプトにしてしまえば、私みたいに不器用でうまく作れない人が作っても広い心で受け入れてもらえるんじゃないか、そういうコンテンツができるんじゃないか、と考えて始めたんです。

——なるほど。ものを作ることについて藤原さんはよく「とにかく手を動かすことが大事」とおっしゃっていますが、それでも「下手だから」というのをやらない理由にする人がどうしても多いんじゃないかなと思いますが、どうですか?

藤原:たいていの人は下手なんですよ(笑)。それでも手を動かせば何かできるのに、私自身がその「下手を理由」に作ることをしなかったんです。でも、何かを作るって楽しいし、精神にもいいし、下手だからということを理由にして、自分の頭の中にあるアイデアを諦めるのって良くないと思うんです。

——自分で考えたものを作るってもしかしたら純粋な人としての欲求、みたいなものかもしれないですよね。その欲求にただ「下手だから」という理由をつけて蓋をするのはストレスなのかもしれません。

藤原:そうですね。私は今3Dプリンターやプログラミングや電子工学を使って「無駄づくり」をしていますが、どれも学校で学んだことはなくて全部独学なんです。頭の中に思いついたものをどうやったら実現できるか、ネットで調べたり友達に教えてもらったり。そういうふうに自分の理想というか「こういうものを作りたい」という妄想をちゃんと考えて実現することで、自己表現ができると思うんですよね。

——無駄づくりは自己の解放、とも言えそうですね。

藤原:そうかもしれません。私はそれをSNSで発表しているんですけど、あんまり人のリアクションとか評価を気にしてなくて、本当にただ自分の考えたものを作ってアップしているだけなんですよね。みんなに面白いと思ってもらえたほうがうれしいですけど、自分的には、作って発表してすごい満足なんです。

10年以上にわたる藤原さんの「無駄づくり」でこれまでに発明した無駄なマシーンは、
およそ300作にのぼる。


発信や発表をすることで、人に影響を与えるし、自分も成長できる

——作ったものを発表する、発信するということも大事なプロセスなのではないですか? キヅキランドも動画を見ていて気づいたことや思いついたことを書き込んで発表する、誰かに発信するということが大切だと考えているんですが。

藤原:そうですね。自分が考えていることを世界に知ってもらうことって、自分の世界を生きやすくすることだと思うんです。「自分ってこういうことに気がついて、こういうふうに思ってるんだよ」っていうことをみんなに共有することで自分の名刺代わりになるっていうか、これから生きていく上での道を作ってくれるんじゃないかな。

——選択肢や可能性を広げる、というようなことでしょうか?

藤原:例えば「虫が好きだ」と発信すれば、きっといろんな虫の情報が集まってくるでしょうし、「これって何の虫?」と聞いてくる人もいるだろうし、……自分の知識も仲間も増えるし、やりたいこともクリアになってくると思うんですよね。発信したり発表したりすることは人に影響を与えるし、また自分にもそれが返ってきてどんどん成長していくんだと思うんです。

——藤原さんが「無駄づくり」を発表し続けることで変わったことや見えたことってありますか?

藤原:今振り返ると、最初の3年くらいは自分でも訳のわからないものを作っていたんですけど(笑)、作り続けて表現して発表していくことで、本当は自分がこういうものを作りたいんだということが、だんだんわかってきたような気がします。役に立たないもの、無駄なものを作るということは変わっていないんですが、その「無駄づくり」という枠の中で自由に形を変えてきている。そしてそれを続けている、という感じ。私、音楽が好きで、特に長く続けているバンドがすごい好きなんですけど、ずっと活動を続けているけどアルバムごとに全然違う音楽を作っているバンドがいいなあと思うんです。そういうふうに「無駄づくり」を続けていきたいな、って。

執筆活動も積極的に行なっている藤原さん。こちらはこどもたちに「無駄づくり」の考え方やレシピを紹介する『無駄なマシーンを発明しよう!』(技術評論社)。


視点を変えたり寛容な心で愛したりすることで、無駄なものに価値が生まれるって、すごい幸せで豊かなこと

——藤原さんは常々「無駄って悪いことでしょうか?」という問いかけをされていますが、藤原さんご自身は「無駄」という言葉をどんなふうに解釈していますか? 辞書(デジタル大辞泉)には「​​役に立たないこと。それをしただけのかいがないこと。また、そのさま。無益。」とあったのですが……。

藤原:もちろんそういうネガティブな無駄もあると思うんですけど、捉え方次第だと思っていて。私は無駄が未来の価値だと思っているんです。今、無駄に見えるものでも、ちょっと視点を変えて見ると将来的にはいいものや便利なものに変わるかもしれない。もし価値があるものに変わらないとしても、存在するだけでもいい。

——無駄は未来の価値のタネ、みたいなものですか?

藤原:うん、そうかもしれません。私は石が好きなんですよ。石っていっても宝石とかじゃなくて道端とかに落ちているような石。すごく気に入って海でひろって持ち歩いてる石があるんですけど、それって海辺に落ちていたときはただの石ですよね。でも、もし今、強盗がこの石を盗んだら、返してもらうために5000円くらいは払うと思う。私が見つけて気に入って丁寧に扱って愛情を注ぐことで、無料だった石にそれくらいの価値が生まれたわけなんです。そういうふうに、視点をちょっと変えたり、なにか物事に寛容になって広い心で愛したりすることで、無駄や無価値なものに価値が生まれるって、すごい幸せだし、豊かなことだと思うんですよね。

みんな目先のわかりやすい価値を求めてしまいがちですが、私たちを形成しているものってそういうわかりやすい価値なんかじゃなくて、もっとどうでもいい思い出や時間だったりするじゃないですか。友達が言ってくれた一言、ネットで見かけた名前も知らない誰かの言葉にけっこう救われたりとか。だから自らそういうものに気づいて価値を見出せるような人になってほしいな、と思います。

——そうですね、本当にその通りだと思いますし、キヅキランドの何気ない動画から「!」や「?」を見つけて膨らませるという体験もそういう考え方を育むきっかけになるといいなと考えています。さて、今度のワークショップでは、そんな藤原さんのものの見方でこどもたちと一緒にキヅキを見つけたり、キヅキにリアクションしたりしてほしいなと思いますが、今、ワークショップの構想はありますか?

藤原:キヅキランドは、インターネットでつながっていろんな視点を共有できるのが新しいですよね。人って誰しもみんな全然違う視点でものを見ているじゃないですか。例えば虫に詳しい人は、道を歩いていても虫を観察しているし、植物に詳しい人は同じ道を歩いていても植物を見ているし。それらの視点を融合したらいろんなことに気づけるし、いろんな発見があるんじゃないかな、と思って楽しみにしています。

あと、今回のワークショップ用に動画を新しく作ろうと思っています。なんかわかりやすいというか、キヅキが得られやすい動画にしようかな……と。これから具体的に考えていきますね。

——キヅキセンパイにオリジナル動画を作っていただくというのは、キヅキランドワークショップ初の試みです! とても楽しみです。どうぞよろしくお願いいたします!


Illustration: Haruka Aramaki

ワークショップの詳細、応募はこちらから!
https://kizuki-ws2023winter.peatix.com/

藤原さんからのメッセージはこちら!


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