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けっして会わなかったけど。

大学2年生の頃、Twitterで出会った男の人がいた。 

わたしはとある疾患を患っていて、その症状がひどくなった時、苦しくて病気専用のアカウントを作った。
そこには、同じ疾患で苦しむ人が溢れていて、気持ちが塞ぐたびに吐き出した。自分の体なのに思い通りにならないことが、悲しくて悲しくてたまらなかった。しかし、人には言いにくい症状だったため、友達にも親にも言えなかった。


そんなある日、同じ症状をもつ男の人からDMが来た。同じ疾患に苦しんでいること、理系としてしっかり勉強してきた人であること。すぐに意気投合した。

「しんどかったら、電話してもいいから」とその人は電話番号をくれた。
憎い症状のせいで恋愛をすっかり諦めていたわたしを、甘やかな気持ちにさせるにはその一行で十分だった。
出会い方がネットなので、警戒して絶対に電話をかけるまいと思っていたけど、しんどい時には何度も電話をかけそうになった。

いつのまにか、彼とメッセージのやり取りをするのが楽しくなった。他愛もない話、友人関係の悩み、大学での勉強内容。本当にいろんな話をした。
友達と水族館でマンボウをみた時、大学の講義室の固い椅子に座っている時、サークル合宿でみんなの寝息を聞きながら二段ベッドで天井を見ている時。あらゆる時に楽しかったことしんどかったことなどたくさんメッセージを送った。

しかし、長くは続かなかった。

サークルの先輩に映画に誘われたことをツイートしたら、ほのかに詮索と感じられるようなメッセージが来たこと。
会ってもいないのに、保育士さんとか合ってそうと言われたこと。
わたし自身に関わる情報が少しでも入っているツイートにだけいいねがつくようになったこと。
その人のツイートの言葉づかいが少し乱暴に聞こえはじめたこと。
わたしの愚痴のツイートから大学名がバレ、他の男性ユーザーからもDMがくるようになってしまった。

一つ一つは大したことがなくても、いろいろなことが積み重なって、疑念がどんどん膨らんだ。"この人たちは、本当は同じ病気なんて持ってなくて、病気で少し弱っている女の子を励まして口説きたいだけなんじゃないか。"
そう考え出すと、だんだん苦しくなってきた。その人がツイートするたびに怖かった。

ついにはアカウントを消すに至ってしまい、それっきり。

わたしの症状はなんとか寛解して、いまでは少しに治まっている。Twitterに頼らずにいられる。
あの時電話していたらどうなっていたかな、とか会っていたら、友達に相談していたらどうなっていたかなと今でもときどき思う。本当に純粋にわたしのことを想ってくれていた人だったら疑ってしまって、申し訳ないな、とか。

真偽の程は2度とわからない。それでも、あの時手を差し伸べてくれてありがとう。楽しい時間をありがとう。関わり続けることはできなかったけど、あなたが元気で過ごしていることを祈ります。
そして病気のせいでTwitterで吐き出さないとやってられないほどにしんどい思いをする人が減りますように。DMで不安な思いをする女の子が減りますように。

ちょっとしたむかし話を、読んでくださってありがとうございました。

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