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Nikola Tanhofer『H-8...』クロアチア、乗客たちの人生ここにあり

大傑作。1958年のユーゴスラビア映画。監督Nikola Tanhofer(ニコラ・タンホーファー?)はクロアチア出身の映画監督・脚本家・撮影監督であり、本作品は監督二作目である。事実に基づいた作品であり、プーラ映画祭で最高賞のゴールデン・アリーナ賞を受賞した。

1957年4月。ザグレブ→ベオグラード間を結ぶ長距離バスがザグレブを目指すトラックと大事故を起こす。別の乗用車がバスを追い越した際、バスに近すぎて避けたのに対して対向からやって来たトラックが乗用車ヘッドライトに目がくらみ、正面衝突したのだ。8人が亡くなった事故の報告書を読み上げる冒頭8分で状況を整理し、残りの100分でバスの乗客たちの背景を丁寧に説明する。ちなみに題名はついぞ特定できなかった不明の乗用車について観客が知ることの出来る唯一の情報、乗客が覚えていたナンバープレートの頭である。

・バス
出発時点で22人の乗客が乗っていた。途中サービスエリアで1人置いていった(スリ師であるとバレたためわざと乗らなかった)ため事故当時は21人が乗車していた。

・トラック
運転手Rudolfとその息子が乗っており、板金を運搬していた。途中のサービスエリアでルドルフの獄中での知り合いを乗せたため事故当時は3人が乗車していた。

この合計24人のうちバスの6人とトラックの2人の計8人が亡くなった。しかし、生き残った乗客たちも同様に何かを失っていた。好きになってしまった女学生はもう帰ってこない。子供が産まれた兵士も子供には会えない。刑務所から父親を迎えた子供も、もう父親には会えない。喧嘩別れした妻とはもう話せない。誤解した息子とはもう語り合えない。人物の背景を知れば知るほど、離れがたくなり、別れるのが惜しくなるが如く、もう戻ってこない8人と時間を共有した残りの乗客及び観客は、彼らの失われた人生を悔やむのである。

決して22人平等に語る訳ではないが、これまでになく平等に描き、口で語るしか無い身の上話を小気味の良いテンポと語らない描写でスパスパ捌いていくため、全く退屈しない。そして、最初に席番号2,3,4,5の人間が亡くなったと言っているのに、スリ師(席2)が降りたり、記者(席3)と友人(席4)が後ろの空いている席に移ったりして、最後に誰が死ぬのか分からない緊迫感さえある。

絶望的なラストへ向けてひた走るバスとトラック。その中の人間模様は様々に変化し、避けられない展開を度々迎えながら、亡くなる8人がまるで死神に選ばれたかのように、その席に座るまでを描く。医師と記者の関係とかはハリウッド・パニック映画っぽさがあるし、ラスト10分での伏線回収が早すぎる気もするが、これは控えめに言っても傑作だ。

・作品データ

原題:H-8...
上映時間:105分
監督:Nikola Tanhofer
公開:1958年7月15日(ユーゴスラビア)

・評価:98点

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