見出し画像

ギヨーム・ブラック『みんなのヴァカンス』あの娘を追っていざバカンスへ!

昨年のベルリン映画祭パノラマ部門に出品されたギヨーム・ブラック最新長編劇映画。主人公フェリックスはある夜に出会ったアルマのことが忘れられず、彼女がバカンスに行った街まで行くことにする。ここまでで5分。フェリックスは友人シェリフを誘い、ライドシェアをやってる見ず知らずの男エドゥアールを半ば騙すような形で旅へと連れ出す。ここまでで10分。残りは旅に出た一行の緩いバカンス旅行の顛末をゆるゆると描いていく。アルマのいる街で自分が世界の中心であるかのように自信に満ち溢れるフェリックスを尻目に、シェリフとエドゥアールは振り回されているようにも見えるが、その実乗り気でなかった彼らも彼らなりの楽しみ方をしていて、フェリックスに付いてきたからこそ発生する物語を全力でエンジョイしているのが面白い。逆に、自信に満ち溢れていたフェリックスは、勝手に来たことに苛ついているアルマからはぞんざいに扱われ、地元の川でライフセーバーをしている白人イケメンが自分とアルマの間に入るんじゃないかと苛つき始める。そんな不穏な空気を流し去ってくれるのがシェリフとエドゥアールの存在であり、彼らのコミカルなシーンを挿入することで全体的な空気感を中和している。

本作品の真の主人公はシェリフとも言えるだろう。映画はフェリックスとアルマのワンナイトで幕を開けるのだが、その関係性はバカンスを通してシェリフに受け継がれるからだ。ワンナイトが終わりを迎え、それが発端となって別のワンナイトが生まれる。あれだけ我々まで引っ張り回したフェリックスの挿話を程々の時間で終結させ、残りの時間で各人がそれぞれの物語の主人公であることが提示されるのが心地よい。冒頭の関係性が見事に受け継がれて円環構造を形成するラストによって、回り続ける円環がそのうち我々にも受け継がれるだろうという気がして、少し笑顔になった。

シェリフがキャンプ場で出会った赤ちゃんをあやす場面で、『おおかみこどもの雨と雪』のTシャツ着てたのが記憶に残っている。

画像1

・作品データ

原題:À l'abordage!
上映時間:95分
監督:Guillaume Brac
製作:2020年(フランス)

・評価:70点

・ギヨーム・ブラック その他の作品

ギヨーム・ブラック『7月の物語』『宝島』至高のバカンス、過ぎ去りし美しき日々

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!