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都営住宅への学生入居によるコミュニティ再設計の可能性

このnoteは、2023年11月9日の Voicy「【教育の明日をよむ】knockout の10分キャッチアップ」の配信内容をもとに作成したものです

前回は下北沢にレジデンシャルカレッジ「SHIMOKITA COLLEGE」を運営されている HLAB の家賃補助の新奨学金制度をご紹介しました。


工夫をこらした奨学金制度がカレッジという共同生活の場に一層の多様性をもたらし、コミュニティを強くすると同時に、地方に住む高校生にとっては東京に上京するチャンスを拡大すること。そして、コロナによって密な人間関係を奪われてしまった世代にとって、その回復につながるのではないかという話をしてきました。

今回は、そうした取り組みにちなみまして、東京都の住宅政策本部が行っている「大学と連携した学生入居による地域コミュニティ支援事業」を取り上げます。大学と連携し、学生を都営住宅団地に入居させ、地域コミュニティを活性化させていきましょうという取り組みです。


地域コミュニティの現状と役割

「地域コミュニティ」というワードを聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。

ことあるごとに「大事だよね」と言われますので、その重要性についてはおそらく誰も異論はないと思うのですが、それぞれが思い浮かべるものには違いがあるのかなという気もしています。

パッと思い浮かぶのは「町内会」じゃないでしょうか。地域の自治を司る、昔ながらの町内会組織を思い浮かべる人は多いんじゃないかと思います。

ところが、この町内会、今、すごく形骸化が進んでいます。地域によってまちまちなんですが、加入率が9割を超えている自治体は全国で1割ぐらい。一方で、加入率が5割を切ってしまっている自治体もまた1割ぐらいあるということです。

機能しているところもあれば、全く機能していないところもある。そこそこというところも、もちろんあると思うんですが、まあそんな状況らしいです。

おそらく皆さんの想像の通り、東京の都心部などでは十分に機能してないところも多いでしょう。

私自身、10年近く前、地元の自治体で教育や子育て、地域福祉に関する審議会に委員として参加していた時期があるのですが、その時にはすでに問題になっていました。

忙しくてなかなか地域社会に関われない共働き世帯もありますし、単身世帯の学生も非常に多く、町内会ですべての動きを捕捉することの限界が問題になってました。

「町内会なんてなくてもいいんじゃないの? 自治体が管理してればいいじゃん?」と思われるかもしれないんですが、意外と地域の “ラストワンマイル” は自治体でも把握が難しいのですよね。

あまり想像はしたくないのですが、何か大きな災害が起きた場合、その地域での避難誘導や生存確認、備蓄されている防災用品の配布等に関しては、自主防災組織のマンパワーに頼らざるを得ないのが正直なところです。

町内会が機能してない地域はそれなりのリスクを抱えてるというのは、もうここ5年10年、ずっと課題であがっているのです。


町内会に代わるもの

町内会に代わる枠組みとして何が有力なのかを考えた時に、しばしば話題に上がるのは「学校」です。なかでも地域の公立小中学校、ここが地域の拠点になり得るんじゃないかというのは、よく言われることです。

公立の小中学校は、地元自治体の管轄になってますので、そういう意味でもハンドリングしやすい面はあります。

あとは、例えば東京の場合、大学に進学するタイミングで上京して、その後、地域との繋がりを持たないまま結婚して子どもを産む。そして、その子が地元の小学校に上がるときに PTA に加わって、自然に地域コミュニティに加わるという流れがあったわけです。しかも持ち回りで役員をやれば、その紐帯は強まり、血の通ったコミュニティが形成される。このように学校をコミュニティ形成の核にする案には、個人的にも期待を寄せていました。

ただ、ここ数年、ちょっと風向きが変わってきてるのはみなさん感じているところかと思います。

よく知られているように、PTA 自体がやや機能不全と言いますか、ちょっとそこまで貢献できないよと考えて参加を躊躇するご家庭が増えています。労働で多忙を極める家庭だけでなく、様々な家庭事情の面から労力の捻出が難しい家庭も増えているんですね。

さらにここ2、3年、コロナ禍によって活動がシュリンクしてしまったことも影響は大きいでしょう。まさに今、コールドスタートでやっているところもあるのですが、先述の理由によりリソースを割くことのできる人は限られる。それなら有志だけでもやろうと、ボランティアベースに徐々になってきていると思うんですね。

それはそれで、その学校単体の活動としては成り立つのかもしれません。ただし地域コミュニティの拠点として学校を捉えた場合、そうしたやり方だと、こぼれていってしまう家庭が出てきます。

そして、地元公立小に上がるタイミングを逸してしまうと、そこから先、地域のコミュニティーと家族あるいは個人の繋がりを作り直す機会はそうないのが現状です。


東京都住宅政策本部のコミュニティ支援事業

前置きがかなり長くなってしまいました。東京都の住宅政策本部によるコミュニティ支援事業に話を戻します。

この事業は、東京都が都内の大学と協定を結び、その大学の学生が都営住宅に居住すると安く住まわせてもらえるというものです。その代わりとして、団地の自治会が行う活動には、できるだけ積極的に参加することが求められます。


都営住宅の団地の自治会も、昨今高齢化していますので、かつてほどの活力が見られなくなっているところが大半でしょう。そこに新しい風を吹き込む若者が入ってくることによって活性化が期待できるというメリットはあると思います。

そして学生の側から見ると、HLAB の記事から繰り返しお伝えしているようなメリットがあるわけです。地方から上京するときに大きなネックとなっている住宅費を大幅に下げることができる。かつ、コミュニティとの密な繋がりを持つことができます。しかも、世代を超えた繋がりです。

“異文化交流” ではありませんが、なかなか知ることがない相手を知るのはやはり良い機会になります。相手を知らないと相手の悪いところばかり目についてしまうのは人間の性ですからね。

若者から見たら、高齢者はもしかしたら社会保障費をたくさん取っていってしまう相手に見えるかもしれません。逆に高齢者からしたら、子どもや若者は公園でうるさくする存在に見えてしまうのかもしれない。

それを、相手をより深く知ることによって、少し相手の立場に立って理解できるようになると思います。

最近では「エンパシー(Empathy)」という言葉がしばしば使われます。比喩的に「相手の靴を履く」とも表現しますね。相手の立場に立って物事を考える力のことです。このエンパシーを育む意味でも、良い取り組みだなと感じます。

そして、大学生という比較的若い時期に、地域のコミュニティと密につながる体験を経ておくは、後の人生においてその重要性を肌で理解するという意味において特別な価値を持つと思うのです。


協定を結んでいる大学

今現在、東京都はすでにいくつかの大学と協定を結んでいます。

東京都立大学、情報経営イノベーション専門職大学、武蔵野大学、昭和薬科大学、法政大学、東洋大学、昭和女子大学、東京未来大学、そして、先月には東京工業大学もこの枠組みに参加しますよとニュースになっていました。今後さらに広がっていけばいいなと思います。

「どんな物件に住めるの?」
気になるところですよね。ひとつだけ例を見てみます。

法政大学生向け学生募集資料より

これは法政大学の学生を対象とした物件になるんですが、 間取りがですね、3DKで55~60平米ぐらいの部屋があるようです。

築年数はもちろんかなり経っています。1978年とか84年とかに建てられたアパートになるんですが、、、この物件、いくらだと思いますか?

2万円前後ですね。2万円前後で住めるみたいです。

3DKですから1人で住むにはもったいないぐらいですね。大学までの距離は徒歩10分ほど。学校近くで飲んで帰るのにも便利です笑


学習者にとっての地域コミュニティの価値

コロナという、人類史上でも稀にみる大きな厄災をここ2~3年で経験してきました。

教育分野で考えると、どうやって個人の学びを継続していけるのか、制限のある環境でも学び続けていくためのシステム面に非常にフューチャーされていたと思いますし、それは当然のことと思います。

そのためのハード面での支援は GIGA スクール構想によって推進されました。児童生徒ひとりひとりにハードウェアが配られましたね。ソフトの面でもオンラインで勉強するような環境は整ってきました。そうした学び方に対する抵抗感もなくなってきたのかなと思います。

個人で学ぶ面については、十分ではないながらも手当てはなされてきたと言っていいでしょう。

一方、同じコミュニティの仲間とともに学んだり、地域の人々と協働しながら学ぶ面に関しては、やはりオンラインでは手当てしきれないところがあるのは、多くの人が感じているんじゃないかと思います。

「コロナ明け」と言われるフェーズになってきた今、改めてコミュニティをどのように捉え直すのか、作り直していくのかというところにスポットライトが当たっていくように思います。面白い取り組みが増えていってくれればと期待しています。

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