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2023年映画感想No.70:ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー ※ネタバレあり

組織の末端に生きる世知辛い殺し屋たち

キネカ大森にて『ベイビーわるきゅーれ』との二本立てで鑑賞。
このシリーズの魅力である「殺し屋なのに生活が大変」という現代人っぽい悩みを抱えた殺し屋像をより突き詰めたような続編。極端に描かれている部分はあるけれど生きているだけでいつの間にか貧しくなる主人公たちや社会的立場をなんとかするために危ない橋を渡ってしまう敵役など、超人的能力があっても観ているこちらと同じように生きるのに苦労している殺し屋たちが世知辛くも面白い。
能力はあるのに評価されない、と殺し屋業界に対して同じような不満を持つ主人公コンビと敵の兄弟が上手く対比されていることでラストに殺し合わなければいけない展開がちゃんとライバル関係としてドラマチックになっていて良かった。
良い試合をしようぜ、的なタイマンが熱いし、お互いが戦いを楽しんでいることや終わった後の会話が「違う出会い方なら仲良くなれたんだろうなあ」という皮肉と切なさを際立てる。

現代っ子キャラの解像度の高さ

主人公コンビのだらしない現代っ子キャラの解像度の高さが本作でもすごくフレッシュ。殺しをしてない場面は心配になるくらいの社会をナメてるのだけど、主人公二人と同じように「労働」に対してモチベーションが無くひたすら楽して生きたいという思考の若い子は本当にめちゃめちゃいっぱいいるのだろうなと思う。
正直彼女たちは金銭感覚も社会性も全く地に足がついてない割にお金の問題はなんだかんだなんとかなる立場にいるので、実は結構恵まれているのではと思ってしまうところもある。定食屋の会話であったり『花束みたいな恋をした』に言及されるやりとりであったりギャンブルで金を溶かして豆苗を買うという描写であったり、本作には彼女たちを通じて「金が無いとはどういうことか」について描かれる部分があるのだけど正直「お前らに何がわかるんだ」と思ってしまう自分もいた。

若い世代によってアップデートされる組織の在り方

主人公たちの意識の低さと同じくらい殺し屋業界のシステムが酷くて、心当たりのない請求とか正当防衛なのに処分されたりとか、搾取的で頭の固い体制のあり方もまた現実にたくさんある古臭い組織のそれという感じ。チサトとマヒロの二人は頭を使って上手くやったりはできないタイプなのでいつもそういうシステムの中で損をしてしまうのだけど、そうやって自己責任だと切り捨てられてきた実働部隊の現場の仕事を肯定してくれる中井友望演じる宮内さんのキャラクターがとても痛快だった。
殺し屋の仕事をかっこいいと褒め、ヘラヘラした事なかれ主義はダサいと一刀両断して、最後には制度の抜け穴をスマートに突く。若い世代が柔軟な発想で組織の風通しを良くして、優秀な人材がきちんと能力を発揮できるようにするという極めて現代的なアップデートが描かれていて良かった。まあ須佐野や田坂にもそれぞれの立場なりの苦労はあると思うけど、明らかに能力がある人材を上手く使えていない組織のルールには未来は無いと思う。

アクションシーンの意識の高さ

前作同様アクションシーンは本当にずば抜けて面白い。「面白いことをやろう」という意識の高さにちょっと感動すらしてしまうレベルだった。アクションシーンの加点要素だけでお釣りが来る。
銀行強盗を退治する場面、着ぐるみキャットファイトの場面とアクションとして見応えがあると同時に描写がユーモラスで楽しい。しかもそれらの場面がちゃんと既存の社会と殺し屋という職業の食い合わせの悪さという部分に着地するのも上手い。彼女たちの能力が彼女たちの直面している問題において役に立たないことで物語が前に進んでいく。
一方で冒頭の場面や襲撃失敗の場面など神村兄弟の殺し屋としての能力が主人公たちとは対等には見えなくて、クライマックスにいきなり良い勝負になるのが唐突に思えた。まあそれによって映画が盛り上がるから良いのだけど、それまでの場面でそこまで強いことに説得力を持たせる描写が全く無いので描き方としては一貫性が欠けているように感じた。

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