安室奈美恵_NEW_LOOK_

「NEW LOOK」、それは核心たる自分らしさ

ある日曜日の夜、NHKで安室奈美恵さんのドキュメンタリーを観ていた。

安室奈美恵と言うと、J-POP全盛の1990年代中盤、沖縄から彗星のごとく現れ、「10代、20代、30代、40代の4年代連続ミリオンセラー」という前人未到の偉業を成し遂げた「国民的スター」であり「日本の歌姫」だった。

私が生まれた1996年をピークに、街は安室さんのトレードマークである厚底のブーツにミニスカート、茶髪のロングヘア―と細眉といったファッションを着飾る女性たちで街は溢れかえる。これを「アムラー現象」と言う。

2019年では、あの米津玄師も、星野源も、椎名林檎も、西野カナも、あいみょんも、彼・彼女たちの名前がつくほどの現象は起こしていない。今のどの日本人アーティストも到達できないことから、安室さんのすごさがわかる。

番組の内容は、引退前の昨年8月にインタビューを行い、25年間のアーティスト生活の胸中を語るものだった。

デビュー当時、小室哲哉さんプロデュースのもと「平成の歌姫」へと駆け上がる一方で、「敷かれたレールの上をきちんと走っていくことにとにかく集中していた。自分はこうしたいと考える余裕すらもなかったかもしれない」と振り返る安室さん。

また、2000年代の低迷期に作詞・作曲などに挑戦して味わった挫折と苦悩、その後いろんなアーティストと協働する中で気づいた「音楽を楽しむ自由」、そして引退決断など、ファンでなくても平成の音楽史とともに安室さんのアーティスト生活を追体験できる、情緒豊かな番組だった。












私は安室さんについては、ネットやテレビでたまに見る程度だ。

だが、実は一つだけお気に入りの曲がある。
それは、2008年にシャンプーのCMソングとして登場した「NEW LOOK」
(↓ぜひ、30秒観てから続きへ...!)

「NEW LOOK」は、三曲で構成されるシングル「60s 70s 80s」の一曲で、1960年代アメリカの黒人女性グループThe Supremesの楽曲をリメイクしている。それゆえ、衣装やMVなどは1960年代を意識したものになっている。

そして歌詞からも、凛とした芯の強さが感じられる。

シネマの中のTwiggyのミニ・スカート真似して
短い髪はTom Boyって言われているけど
だけど I wanna get a new look
このキャラに似合ったファッション
気になるカバー・ガールのような yeah
How do I look?
Baby, baby tell me?

※Twiggy:1960年代のミニスカートブームを巻き起こしたイギリスのモデル
※Tom Boy:おてんば娘。ボーイッシュな女性のこと

曲中で6度も繰り返されるこの一節を、私は「トレンドを取り入れて、皆には『おてんば娘』って言われるけど、私は私なりのファッションを表現したいの。ねえ、私ってどんな風に見える?」という意味で解釈している。

当時小学生だった私にとって、安室さんは「よく知らないけど、物心ついた時から世間に一目置かれているスター」的な存在だった。

狭い大阪の住宅街で育ち、テレビと漫画、ニンテンドーDSしか視界に入っていなかった小学生の私からしても、そんな何をやってもカッコいいし、どんな時もかわいい安室さんが「自分らしさ」を歌う姿には、トキメキを感じたに違いない。

The Supremes

先ほど述べた通り、「NEW LOOK」はThe Supremesの楽曲のリメイクだ。
(CMで使われている「You Can't Hurry Love」が有名かも。)

当時のアメリカは、キング牧師の演説「I have a dream」で有名なアメリカ公民権運動や、ウーマンリブ(女性解放運動)が起こっていたような、今よりずっと差別と偏見に満ちた世界だった。

でも、「女性」で「黒人」の彼女たちは、世間に媚びることなく、等身大で恋や夢を歌う。そんな姿に、安室さんは心打たれたのかもしれない。

このnoteを書く前と後、つまり、The Supremesの曲を聴いたり、アメリカの人種差別や女性差別の歴史について振り返る前と後で、安室さん(とプロデュースチーム)の「NEW LOOK」に込めた意味が、より色鮮やかに見えるようになった気がする。

「国民的スター」であり「日本の歌姫」でもある安室さんが、誰かに媚びへつらうことなく、「私は私」という姿を見せてくれたことに、どれだけ多くの人々が勇気づけられただろう。

彼女が26年間、日本の音楽シーンの象徴として存在してくれたことに、どれだけ多くの人々が歓喜し、いろんな色の涙を流してきただろう。

一つの時代が終わることに、ちょっぴりの寂しさと大いなる称賛を込めて。

「NEW LOOK」、それは核心たる自分らしさ。

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