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カラーフィールド 色の海を泳ぐ:4 /DIC川村記念美術館

承前

 本展の最初に登場したジャック・ブッシュの作品は、出品作のなかでは最も具象的な絵であった。
 以降の8人の作品には、具象は見る影もない。つけられたタイトルには、抽象作品にありがちな《無題》こそ少ないものの、どれも煙に巻くようなもので、タイトルを後から確認しても「はて?」と反応にこまるばかりとなる。それもまた愉しい。

 ケネス・ノーランドの2点は、入れ子状の正円の線をそれぞれに色分けしたもの。一滴の雫を落とした先に広がった波紋、ともとれる。

 規則正しい円の連なり、異なる色の組み合わせを観ていると、どこか心が落ち着く。
 禅の「円相」などもそうだろうが、円という単純なかたちには「鎮静」の効果や、人を瞑想へと誘う力があるように思われる。
 ノーランドの絵はがきを机の脇に飾っておいて、ときおり眺めたらきっといいだろうなと、わたしは思ったのだった(が、残念ながら絵はがきは出ていなかった)。

 ステラについては前々回触れたので、今回は割愛。

  アンソニー・カロの立体もよかった(上の写真右の、青い造形物)。
 カロの作品は、鋼鉄の板や柱を組み合わせて絶妙なバランスで自立させ、表面を明るいモノトーンのペンキで覆った立体造形。その正体は工事現場で見かける建材と変わりないのに、見た感じは全体にとても軽そうに、そしてやわらかそうにみえる。
 けれども近づくと接合部分のボルトが確認できるなどして、軽重・硬軟のギャップが引き立つあたりに、おもしろみを感じた。
 前々回述べた、この会場全体のポップで「かわいい」雰囲気を決定づけていたのは、やはりこの、中央に配されたカロの立体だったのではなかったか。
 以前、東京都美術館の「イサム・ノグチ 発見の道」展について書いたとき、展示作品であるノグチ・デザインの遊具にお子さんが駆け寄って制止されているのを見かけた……という話をしたことがあった。

 じつは本展の会場でも、カロの立体に対して同様のことが起こっていた。またもや、わたしは居合わせてしまったのだ。
 ノグチの遊具と違い、カロの作品は、子どもを遊ばせることを前提としてつくられていない。いくら子どもとはいえ、体重をかけて乗っかりでもすれば、作品はバランスを失って崩壊してしまう危険性大。相手は鋼材である。今度ばかりはほんとうに危ない。

 しかし、あのお子さんが「本能のまま飛びつこうとした」という事実じたいは、重要な示唆を与えてくれそうだ。
 「楽しそうだ」「遊びたい」という衝動をかきたてる力が、カロの作品にはあったのである。
 それは、いい大人であるわたしたちにとっても、けっして意外に思えるものではないだろう。それどころか、「そうだよなぁ」と納得してしまわないだろうか。
 それくらい、楽しげで好奇心をそそる明るさが、この造形物からはにじみでて、隠しきれないのである。

――ここまでが、第1会場のもよう。
 展示は2部構成で、第2会場へ……
 (つづく



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