見出し画像

芹沢銈介と、新しい日々:1 /東京国立近代美術館

 金沢の国立工芸館には、染色家・芹沢銈介の作品や資料が豊富に所蔵されている。核となっているのは、2016年に民俗学者・金子量重氏より受贈した400点超。
 本展では金子コレクションを中心に、関連作家の6件を交えた82件を公開する。
  「東京国立近代美術館の所蔵作品展内の特集」という位置づけゆえ、館外で配布されるリーフレットや掲示用のポスターは製作されていないけれど、小規模の館ならば特別展扱いだろうなと思わせるほど、いいものが出ている。さすがは、近美。
 この展示について、数回に分けて紹介させていただくとしたい。

 タイトルの「新しい日々」。
  「どんな意味だろう?」と思ったけれど、芹沢最大のヒット商品ともいえる型染のカレンダーのことを指しているようだ。というか、メインの画像が思いっきりカレンダー。本展の主役は、カレンダーだ。
 終戦直後から40年ほど、毎年制作されつづけたマンスリーカレンダーのうち、1960〜70年代にまたがる10年分のフルセットが、黒バックの壁面にずらり展開されていた。
 展示室の入り口に立つと、こんな景色が広がっている。吸い込まれるように、この壁面へ向かっていった。

 1枚のサイズは、A4判よりひとまわり大きいくらい。12か月分を1列に4枚ずつ、それが10年分で30列……いやぁ、壮観。

 ※別の壁面には、1948年の古めのカレンダーから3点を展示

 その季節らしさを存分に盛り込みながら、これほどにバリエーションが生み出せるものだろうか? 違う年・同じ月のカレンダーを見比べながら、ため息が出た。
 たとえば2人連れで来館して、気に入ったもの、気になるものを順に挙げていったとしても、なかなか、かぶることはないだろう。それくらい多様だ。
 いつも、新しい……汲めども尽きせぬ芹沢の意匠力。この壁の前では、じつにさまざまな楽しみ方が許されよう。

 眺めているうちに、「いますぐ使える1枚を、探してみようかな」と思いついた。
 カレンダーには西暦が入っていないため、日付と曜日が同じ構成の場合、使いまわしができるのである。
 だが、今年はうるう年で、いまは2月。
 はたして、そんなに都合よくみつかるものか……と思いきや、ありました。

1968年2月の型染カレンダー


 芹沢の型染カレンダーは、現在も毎年復刻。卓上版もたいへんな人気だ。
 熱心なファンは枚挙にいとまがないが、なかでも女優・沢村貞子さんが印象深い。
 貞子さんは、日々の献立を書きとめたノートのカバーとして、型染カレンダーを再利用した。NHKの番組「365日の献立日記」のオープニングにも、カバーになったカレンダーが登場している。

 このカレンダーをきっかけに、染色の世界へと飛び込んだ作家もいる。
 先日、101歳で亡くなった、柚木沙弥郎さんである。

カレンダーが12枚、額に入れて大原美術館に飾ってあった。それを見て、今まで見たことのない、なんて綺麗なものだなと思って。それが型染めだなんてまったく知らなかった

『柚木沙弥郎のことば』47ページ

 柚木さんの作品は、本展にも1点だけ出品。アフリカのテキスタイルを思わせる《型染紬地団鎬壁掛布》(1982年)だ。
 師弟が、展示室で邂逅している。

中央が柚木さんの作品
キャプションには、没年のシールが貼り足されていた


 ——次回は、布を型染した芹沢の代表的な作品を、さまざまみていくとしたい。(つづく

会場で配布されている、16ページの小冊子。カレンダーに特化した内容+作品リストからなる。上綴じ、中央に画鋲の穴が打たれるなど、デザインもカレンダーを意識している。せっかくなので、壁に掛けてみた


 ※柚木沙弥郎さんの追悼記事。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?