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東近美「重要文化財の秘密」の秘密 〜あと17件。なにが出ていないのか〜:3

承前

  近代の重文は、東京国立近代美術館が17件(+寄託1件)、東京国立博物館が15件、東京藝術大学が9件を所蔵しており、じつに61%が都内の国立の施設にある。各館の所蔵品展示でみかける機会も多い。
 したがって本展の出品リストは、関東住まいの美術ファンにとっては「垂涎」というより「おなじみ」の顔触れが多いともいえようが、なかなかお目に掛かれない作品も散見される。

・荻原守衛《北條虎吉像
 (長野・碌山美術館)
・竹内栖鳳《絵になる最初
 (京都市京セラ美術館)
・福田平八郎《
 (大阪中之島美術館)
・富岡鉄斎《阿倍仲麻呂明州望月図円通大師呉門隠棲図
 (兵庫・辰馬考古資料館)
・山本芳翠《裸婦
 (岐阜県美術館)
・関根正二《信仰の悲しみ
 (岡山・大原美術館)
・小出楢重《Nの家族
 (岡山・大原美術館)

 ※永青文庫の近代日本画5点(うち1点は不出品)は、国元の熊本県立美術館に寄託されている。とはいえ、東京での展示機会も少なくはない。
 ※鈴木長吉《十二の鷹》(国立工芸館)は、所蔵先の移転前は東京で観られたので除外。

 このなかから2つほど、選ばせてもらうとしたら……まずは福田平八郎《漣(さざなみ)》(大阪中之島美術館)。
 長いこと気掛かりであったものの、未見の作品である。水面のみクローズアップとし、一面にさざ波を描くという着想のおもしろさ。昭和7年(1932)の作とは思えない現代性を、誰しも感じるのではないだろうか。

 とりわけ、技法に着目したい。
 絹本に「白金地着色」。つまり地の白は、絹や紙の白でなく、白金=プラチナ箔の白なのだ。じっさいに観ると、かなり印象が異なると思われる。
 白金は、銀とは違って酸化して黒ずむということもない。どんな輝きをみせるのか、そしてどのように揺らめいてみえるのか、この目で確かめてみたい……(※3月17日~4月16日に展示)

 富岡鉄斎の大作《阿倍仲麻呂明州望月図円通大師呉門隠棲図》(兵庫・辰馬考古資料館)。
 西宮にある辰馬考古資料館は、灘の酒蔵・白鷹の辰馬家のコレクションを展示する施設。銅鐸などの考古資料にも、重文指定品が多数ある。

 鉄斎唯一の重文である本作は、辰馬家への滞在時に描かれたもの。鉄斎と辰馬家の関係は深く、いまも多くの作品が遺る。逆にいえば、よほどの関係性がなければ、これほど渾身の作は描かないだろうとも思われる。鉄斎は好古趣味があったから、辰馬家所蔵の考古遺物にも非常に興味をもったのではないか。
 スケール感・色彩ともに、実物でなければ感じえないものが大きそうだ。上方にゆかりが深く、関東の美術館ではほとんど観られない「本気の鉄斎」を、ぜひ拝見してみたいものだ。(※5月2日~14日に展示)

 ——いま「※」に書いたように、会期はおおむね前後半に分かれ、さらに細分化されて展示替えがおこなわれる予定。油彩画はともかくとして、ナイーブな日本画は会期の頭と末とでほぼ総とっかえとなる。《漣》と鉄斎の2点の展示期間は、みごとに重複しない。
 こうして作品リストとにらめっこしながら、どのタイミングに行くべきか思案するのも、大規模展示の楽しみのひとつでもあるのだが……非常に悩ましい。(つづく



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