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クレーや紫紅や非水 所蔵作品展 MOMATコレクション:2 /東京国立近代美術館

承前

 東京国立近代美術館のコレクション展示は、2階から4階まである。とにかく広い。
 国立館らしく、そのすべてを日本近代美術の通史を提示することに費やすかというと、そうでもない。下の階に行くほど新しい作品にはなっていくから、たしかに「うっすら」とはそのようになっているが、教科書的な形式とはいささか異なる。
 4階の各室では、多種多様なテーマ展示がおこなわれている。目移りしてしまうほどだ。逆にいえば、興味のあるところだけつまみ食い……なんてことも許される。広大なフロアをもつゆえの、フレキシブルな楽しみ方が可能である。
 わたしが訪れた3月17日〜5月14日の期間にも、各部屋ごとに多種多様な展示が開かれていた。訪問の決め手は、3つの「一挙公開」。


・パウル・クレーの新収蔵品と、クレーの所蔵作品全15点

・今村紫紅《熱国之巻》(東京国立博物館  重文)のもとになった、インド・中国の旅のスケッチ帳

・杉浦非水《非水百花譜》の、春の花

 どれかひとつでも……というカードが、よりによって3枚もそろってしまった。特別展の「ついで」でなく、コレクション展示に焦点を定めたのはこのためである。

 4階の1〜4室までのテーマは、1階で同時開催中の特別展「重要文化財の秘密」と連動。特別展がお目当ての来館者にとっても、見逃せない内容となっている。こういった企画が組まれるのは、コレクション展示の楽しみのひとつ。

 1室は「ハイライト」。館を代表する有名作品がいつも並んでいる部屋だが、今回は仕掛けがある。作者の男女比を同数にし、美術におけるジェンダーバランスを問うているのだ。このテーマで三岸好太郎・節子夫妻は起用しやすいなとか、古賀春江は紛らわしいな(男性です)……とかいったことを思う。
 この部屋でのお気に入りは、ピエールす・ボナール《プロヴァンス風景》。お披露目展以来の再会。


 2室は「重文作家の秘密」。教科書などでおなじみの有名作品が、最初の部屋にも増して、わんさか登場。
 しかし、もし重文指定を受けていれば、この4階展示室ではなく、1階の「重要文化財の秘密」のほうに展示されているはずだ。
 「あら、これは重文じゃないのね!?」という反応をしてしまう、意外な作品をセレクト。下村観山《木の間の秋》、平福百穂《荒磯》、新海竹太郎《ゆあみ》……キャプションのなかでそれぞれ、評価史に照らして「重文ではない」理由が考察されていた。
 観山《木の間の秋》。琳派の受容、西洋の画法、写生の意識、土台としての狩野派など、この1点に、じつに多くの要素が詰まっている。重要作品には違いなく、いずれ、重文になる日が来るか。

 3室「からだをひねれば」では、荻原守衛《女》を起点に、からだをひねるポーズをした裸婦や曲芸師などの作品を特集。
 この《女》も、先ほどの《ゆあみ》も、重文の指定は石膏原型に対してのもの。そこから成型した完成作品であるブロンズ像は重文ではなく、したがって4階の展示室にあるわけだ。

 4室の小部屋にて、今村紫紅によるインド・中国旅行のスケッチ帳にご対面。帳面はバラされ、1枚ずつ額に収められていた。この作品に、会いたかったのだ。

 この旅に材を取り、半年後に《熱国之巻》(東京国立博物館  重文)が描きあげられた。
 スケッチ帳がもし同じ東博に収蔵されていれば、附(つけたり)指定で重文の仲間入りをしていたのだろう。

 スケッチではあるが、「線を探す」ということがなく、実景を前にして、紫紅はすでに自分の線を見つけている。
 たどたどしく、マンガチックと受け取ることもできよう。写実的であるよりも、自分の受け止めたありのまま、見つけたおもしろみを線として起こし、形にしているのだ。
 本画ともまた違った、魅力たっぷりのスケッチであった。(つづく



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