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下総龍角寺:2 /早稲田大学會津八一記念博物館

承前

 早稲田大学の所蔵品には、會津八一旧蔵の古瓦残欠やご本尊の石膏型などがある。
 本展ではこれらに加え、龍角寺の所蔵品はもちろん、栄町・八千代市、千葉県の教育委員会から借用した考古資料を駆使。龍角寺と、その創建の前提をなした古代豪族の輪郭像を描いてみせた。
 展示資料のうち、軒瓦は山田寺系統の笵(はん=瓦の型)、堂内を荘厳した塼仏(せんぶつ)は橘寺や川原寺出土のものと近い傾向を示しており、飛鳥の大寺院との深い関係を感じさせる(塼仏の出土例は、いまのところ千葉県で唯一)。
 また、周辺の遺跡からは唐三彩の陶枕が出土しているなど、古代の龍角寺の格式高さが随所に偲ばれるのであった。

 ここまでが、2階の第1会場。
 1階の第2会場は、この館で最も小さな展示室。ふだんは寄贈品の富岡コレクションが展示されている一角だ。
 この一室をまるまる使って、重文の白鳳仏《銅造薬師如来坐像》を展示。
 上の階は考古学の独壇場、下の階は打って変わって美術史の出番というわけだ。

 お薬師さんはご本尊であり、文字通り龍角寺の “顔”。
 ところが、本展の開催が初めて周知された時点では、このお薬師さんの出品は明らかにされていなかった。もし出品が決まっていれば、いちばん目立つように画像が載りそうなものである。
 龍角寺展と聞いて「これは行かねば!」と反応した奇特なわたしであったけれど、お薬師さんがお出ましにならないのであれば、少々片手落ちの感は否めないかな……と、正直のところ思っていた。その1か月ほど後だったか、追加で告知があり、杞憂だったと判明。肝心要の、真打登場である。

 切れ長の目、口許にたたえたやわらかな微笑み――わたしのすきな白鳳仏の若々しさ・瑞々しさを体現している。
 どんな仏像がすきかと問われれば、やっぱり白鳳仏。法隆寺の《夢違観音》、龍角寺像と同じく関東に伝来した貴重な白鳳仏・深大寺のお像、加古川・鶴林寺のわが最愛の観音さん……みな、奈良博の「白鳳展」(2015年)でお目にかかっている。
 龍角寺のお薬師さんとは、それ以来の再会となった。

 上に挙げた白鳳の他のお像に比べると、金属の表面がなめらかでなく、地肌がただれている。江戸は元禄の頃に、火災に遭ってしまったのだ。右の耳たぶは熱で融け落ちている。
 そればかりか、焼け残ったのは頭部のみで、首より下の身体はその後、鋳造されなおされたものだ。
 体部の再鋳造と時期を同じくして、壮麗な本堂が建立された。展示されていた復元模型をみるかぎりかなりの規模で、禅堂ふうの意匠など、細部も興味をひかれる建築であった。戦後に取り壊されてしまったのが惜しまれる。
 それでも、こうしてすばらしいお顔が遺ってくれたことだけでもよしとすべきであろうし、白鳳の仏頭に少しでもそぐうよう継ぎ合わせた元禄の鋳物職人の苦心惨憺ぶりに、頭が下がるばかりだ。

 本像は、国指定の重要文化財。
 早稲田大学會津八一記念博物館で学外の指定文化財を借用して展示する機会は、意外にも初だったという。展示環境に制限があるなか、文化庁との折衝を重ねて今回の展示にこぎつけたとのこと。お薬師さん出品の発表が遅れたのも、そのためであろう。
 ご担当者のご苦労がありつつ、入場無料。ありがたくもあり、申し訳なくもある。会期終了までまだ日があるので、ぜひ。



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