見出し画像

古美術逍遙 ―東洋へのまなざし:1 /泉屋博古館東京

 初見で「いずみやはくぶつかん」と読んでしまったという人は、きっと多いのだろう。
 いま「いずみやはくぶつかん」で検索をかけてみたら、ちゃんと「泉屋博古館」がヒットするようになっていた。Googleとは、すこぶる優秀なものだ。
 正しくは「せんおくはくこかん」という。館名としては「いずみや」ではないのだけれど、「泉屋」は銅を商った住友家の屋号「いずみや」に由来しているから、あながち間違いともいいきれない。ただし、それを中国風に「せんおく」と読ませているところにもまた、深い意味はある。

 泉屋博古館は、住友家歴代当主の蒐集品を収蔵する美術館。
 哲学の道にほど近い京都・鹿ケ谷と、ホテルオークラから歩いて行ける距離の東京・六本木一丁目の二つの展示施設をもっている。
 東京のほうが遅れて開館し、長らく「分館」という扱いであったところ、この春に名称を「泉屋博古館東京」と一新、スペースを拡充してリニューアルオープンとなった。
 主/従の関係性を感じさせる出先機関的なネーミングが晴れて解消され、「東京」の名を尾っぽにつけて、ずっとスタイリッシュに。京都よりも東京にお世話になってきた身としては、報われたようでなんだかうれしい。

 質・量ともに住友コレクションの核となる部分を集めたのが、明治から大正期の住友家を率いた15代当主・友純(ともいと)。西園寺公望の実弟でもある。
 家業の近代化・多角化を推し進め、住友財閥を築き上げていくかたわら、友純は趣味の世界にも没頭した。友純の蒐集品の幅広さは、そのままこの館の収蔵品の多様性につながっている。
 3月19日から開催されていたリニューアルオープン記念展の第1弾は「日本画トライアングル 画家たちの大阪・京都・東京」だった。

 第2弾は「光陰礼讃 ―モネからはじまる住友洋画コレクション」。

 近代日本画、洋画を立て続けに攻めている。
 近代ものも、もちろんいいのだけれど、コレクションの中心はやっぱり古美術。リニューアル展の第3弾にして、満を持しての主役の登場である。この第3弾には、かならず行こうと思っていた(けれど、結局は閉幕前日の滑り込みになった……)。

 コレクション中の白眉、世界的に著名な古代青銅器の逸品の数々は京都で常設されているので来ていないが、同じく世界レベルの中国絵画に東アジアの仏教美術、茶道具、香道具、能道具、煎茶具といくつかの近世絵画が、本展では一堂に展示されていた。
 リニューアルのための閉館は、調べると2019年の12月からであったという。その間、わたしは京都の本館へはお邪魔していないはずだから、借用先での遭遇を除けばえらく久々の再会となる作品が多い。
 また会いたい作品があった。新たな出会いもあった。
 以下、印象に残った作品のことを、リニューアルの所感とともに述べたい。(つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?