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【レビュー】 荒井良二・著『あさになったので まどをあけますよ』

 きょうは、千葉市美術館「new born  荒井良二」展を機にわが家の書棚へと加わった絵本『あさになったのでまどをあけますよ』(偕成社  2011年)について、レビューしてみたい。


 ——朝になったら、窓を開ける。
 そうして見える風景は、当然ながら、人それぞれに違っているはずだ。おのおのが毎朝、一日のはじまりに、異なる風景を見ている……そのいっぽうで、他の人の「朝の風景」を共有させてもらう機会は、けっして多くはないだろう。
 本書は、さまざまなところに住む子どもたちをとおして、一様ではないが相通じるところもある「朝の風景」をみていく絵本である。

 朝の光が透け見える、閉ざされたカーテンの扉絵をめくると……見開き一面に、緑が広がっている。青々とした山並みの麓に数軒の小屋が散らばる、のどかな山村の風景だ。
 荒井さん一流のあざやかな色彩、素早いタッチにまずは魅了されるとともに、わたしなどは「窓を開けて、こんな景色が広がっていたら最高だな!」と真っ先に思ってしまうのだった。
 だが、よく観察すると、レモン色の屋根の家で、ガラス窓を開け放ってこちらを見ている子の姿に気づく。その子にとっては、こちら側の景色がいつもの「朝の風景」なのだ。
 またページをめくると、「その子」側に視点が切り替わる。あの子からは、こんなふうに見えていたのか……

 このように、此方と彼方を行き来することがあれば、そうでないこともある。
 さらに、風景は山だけでなく川や海、砂漠、あるいは、摩天楼が競うようにそびえる大都会も。
 このなかには、明らかに日本だと感じられる風景から、外国かなと思われる風景、どちらにもとれそうな風景も含まれる。
 すべてのページを開き終える頃には、大きな旅行から帰ってきたような気分になっていた。

  「田舎を飛び出したい」という願望をお持ちの方には、都会の風景を。逆に「都会から脱出したい」のならば、自然いっぱいの田舎の風景を。
 本書は双方のニーズに対応しているが、どちらかといえば後者、見晴らしのよい高台からの田園風景が多い。

 わたしがいま住んでいる家は、窓を開ければ隣家がすぐそこにあるような環境だけれど、実家の部屋の窓からは、すり鉢状の地形に住宅地の広がるさまが一望できた。
 ひとり外を眺めて、目を休めたり、将来を夢想したり。もちろん、朝になれば、かならずこの窓を開けていた。

 あれはあれで懐かしさはあるものの、ニュータウンの眺望には賑やかさはあっても、心休まるなにかを感じ取ることはむずかしい。わたしは「都会から脱出したい」派なのだ。
 もし、荒井さんが描いているような、飾らない里山の風景が、窓を開ければいつでもそこにあるのだとしたら……なんとすてきなことだろうか。

 次は、どんな場所で暮らしてみようか。
 どう生きようか。

 足もとの日常を、見つめなおすきっかけがもらえそうな一冊である。


写真は3枚とも、先日行ってきた青梅の風景


 ※朝、窓を開けたあと、眠い目をこすらせながら声に出して読むのもいいし、夜に、来たるべき朝や日常のことを想いつつ、黙読するのもいいと思う。

 ※荒井さんへのインタビュー記事。


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