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福島県立美術館のコレクション展:2

承前

 続く展示室Bは「50年前の美術 1970年代の姿かたち」。岡本太郎にはじまり、野田哲也、靉嘔、オノサトトシノブ、山田正亮など。
 そのかたわらで「没後10年  河野保雄コレクション」という小企画が組まれていた。
 河野保雄さんは、福島市内に「百点美術館」という小さな美術館を開いていたコレクター。旧蔵品は現在、福島県立美術館と東京の府中市美術館に分けて所蔵されている。
 展示の9点は青木繁、長谷川利行、麻生三郎など粒ぞろいで、個人宅で楽しむに適したサイズの小品ばかり。
 三岸好太郎《風景》(1927年)などはその代表といえそうで、名品・名作とは異なるけれど「ちょっといい」絵。心が安まる佳品だ。

 展示室Cは、海外の作品。
  「フランス美術の名品」と称し、コロー、ピサロの風景画、ルノアールの人物画の3点が並ぶ。やや唐突だが、このあたりの分野はたいへんな人気。とくに印象派は、日本の公立美術館にとっての必須アイテムである。どこかしらに常設しておく必要はあろう。
 カミーユ・ピサロの明るい色彩は、個人的にも好むところ。《エラニーの菜園》(1899年)はまさに好みに合致するもので、魅了された。

 いっぽう、同じ室内のベン・シャーン、アンドリュー・ワイエスといったアメリカの画家の作品は、この館の最も個性的な収蔵品といえよう。
 ベン・シャーン《ラッキードラゴン》は、ビキニ環礁の水爆実験で被曝した第五福竜丸が主題。1984年の開館に先立って購入されたものだが、3.11を境として、福島県がこの作品を所蔵することに、より重大な意義が生じたのであった。

 展示室Dは「創作版画の世界」。
 入って右側の壁では、山本鼎から恩地孝四郎、川上澄生、谷中安規、平塚運一まで、戦前の創作版画の系譜が示される。
 福島県美は、戦後を含めた創作版画の分野で国内有数のコレクションを誇る。
 ここに至るきっかけは、斎藤清の存在。「会津の冬」シリーズなどで根強い支持を集める斎藤は、県下の会津坂下町出身だ。
 斎藤の版画は、左側の壁一面を占めていた。やはり「会津の冬」がすばらしい。墨色の調子、白のボリューム感などは、画像ではどうやっても再現がきかない。
 叙情とモダンが同居する、福島の厳しい冬の情景を見届けて、鑑賞を終えた。

 ——館内は、木材を基調とした温かみのある内装。展示室の隅には、ところどころに窓際の休憩スペースが設けられ、椅子に座って外を眺め、緑を眺めながら、目を休めることができる。

 教育普及にも、力を注いでいるらしい。
 なかでも、展示室の壁に用意された「質問電話」には驚かされた。
 受話器をとれば、すぐさま内線につながり、質問を受け付けてもらえる。なんとも職員泣かせのサービスだなと思いつつ、わたしなどは遠慮して掛けずじまい。案外、そういう人は多いのかもしれない……

 ショップも含めてじっくり観てしまい、結局、飯坂温泉まではたどり着けず。
 そんな行き当たりばったりも、ひとり旅らしくてよい。

館を出る頃、ちらついていた雪はやみ、青空が広がっていた



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