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朝ドラ「ブギウギ」の “山寺”

 放送開始からまもなく1か月を迎えようとしている、NHKの朝ドラ「ブギウギ」。10月2日の初回からこれまでずっと、ズキズキワクワクというよりはハラハラしながら見守ってきた。
 それはドラマの展開に対してばかりではなく、あの「事故」のシーンがいつ来るか、どう描かれるのかが、気がかりでならなかったからに他ならない。
 事故とは、4月26日に報じられた、重要文化財の建築をロケ中に破損させた一件を指す。「そういえばそんなこともあったな」というくらいの方が多そうだが、わたしはけっして忘れない。

 百済寺(ひゃくさいじ)は西明寺、金剛輪寺とともに「湖東三山」に数えられ、大伽藍に多くの古建築と宝物を有する古刹。6件ある重文のひとつが、慶安3年(1650)竣工の本堂。その縁を支える横木を、撮影時に折ってしまったのだ。
 20日(金)の放送回から、百済寺は登場した。梅丸少女歌劇団の面々が「桃色争議」と称されるストライキを決行、籠城した “山寺” としてである。
 放送シーンから察するに、大勢でラインダンスをしていたら床が抜けたのだろう。無茶というしか……
 にもかかわらず、最近できた百済寺のXアカウントでは好意的に反応している。さすがに百済寺さん、伽藍も心も広い。

 お寺さんはみほとけの慈悲で寛大にお許しになったかもしれないが、文化財は国民共通の宝であり、双方がよければそれでよいという話でもないと思う。NHKに対しては、文化庁から厳しい指導がなされていることを期待したいものだ(前科もあることであるし)。


  「桃色争議」というのは実際に起こった出来事で、主人公・福来スズ子のモデル・笠置シヅ子も当然参加している。
 ドラマ本編では単に「山寺」とされていたが、シヅ子たち松竹少女歌劇団の面々はどこの寺に立て籠もったのだろう? 
 朝ドラ関連のサイトでは「高野山」としか書かれていないものが多い。ご存知のように、高野山はあまたの寺院が寄り集まった総称であり、具体性に欠ける。
 そこで朝ドラ以前のサイトを調べてみると、次のページが引っかかった。大和さんや橘さんのモデルの写真もある。

 こちらや他の複数のサイトによると、シヅ子たちが籠ったのは高野山の「金剛三昧院」であった。
 北条政子が源頼朝の菩提を弔うため発願した高野山内の有力寺院で、国宝の多宝塔(鎌倉時代・貞応2年〈1223〉)で有名。切手にもなっている。

 史実どおりに金剛三昧院をロケ地にして、多宝塔を画面に映す手もあったのだろうが、百済寺の山深く、森深い雰囲気はたしかに「籠城」のイメージにはより近い。高野山だってもちろん山だが、盆地に建物が密集していて、存外に「街」なのである。
 それに、百済寺ではフィルムコミッションにも力を入れており、これまでもいくつかの映像作品のロケ地になってきた。受け入れ態勢が充分だったのだろう。
 子ども時代のシーンで少し登場した大城神社、花咲音楽学校こと豊郷小学校旧校舎群なども、車ならば遠くはない距離。「カムカムエブリバディ」でも使った大城神社を起点に、ロケハンをして決めたのかもしれない。
 琵琶湖南東・山沿いに連なる「湖東三山」は、紅葉の名所としても知られる。これらの場所とともに、訪ねてみるのも一興だろう。


 ※湖東三山から足を伸ばして、永源寺に行く人も多い。こちらも紅葉の名所。「湖南三山」もいいですよ。

 ※鎌倉とゆかりの深い金剛三昧院の展覧会が、鎌倉歴史文化交流館で現在開催中。金剛三昧院のみを扱う展覧会は、史上初とのことだ(12月2日まで)。


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