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HAIBARA Art&Design 和紙がおりなす日本の美 /三鷹市美術ギャラリー

 日本の美しい紙を各種取りそろえる、東京・日本橋の「榛原(はいばら)」。江戸から続く老舗のあゆみを、店に残された豊富な資料によってたどる展覧会である。
 榛原といえば、千代紙。本展のメインビジュアル、図録、会場デザインのいずれにも千代紙のパターンがふんだんに活用され、統一感のあるデザインとなっていた。

本展リーフレット。バックの市松模様は、傾けると鈍く光る

 中央の千代紙《重陽》は、河鍋暁斎による意匠。このように大きめのモチーフを密に配していくのが、暁斎の千代紙に共通する特徴といえそうだ。
 ただ、これなどはまだまだ、かわいいほう。もっと色みが強めで文様のより密な作が多く、そちらのほうがむしろ「画鬼」暁斎らしさが感じられたのだった。

 他にも梶田半古、川端玉章や不詳のデザイナーによる明治期の千代紙が並んでいたが、暁斎と同じく、モチーフそのものは雅やかながら、どれも派手派手。血気盛んな明治人の息吹を感じさせるのであった。
 こういった千代紙はさかんに輸出され、海外の美術館などに数多く残っているという。どぎつくも映る日本趣味は、外国人の求める日本の像であったのだ。たしかに、超絶技巧の明治工芸との親和性は非常に高そうである。

 対して、大正期の千代紙は、どれも穏やかなデザイン。現代の感覚により近い印象だった。
 竹久夢二《山みち》(写真右のぽち袋のデザイン)は、現在も定番の柄。明治も悪くないけれど、わたしは額装された大きな《山みち》を観て、正直、なごんだ。

 この頃になると、榛原と画家たちとのつながりはより顕著になり、さまざまなコラボ商品が生み出された。
 鏑木清方《納涼美人図》、川瀬巴水《雨の奥多摩》は、ともに団扇絵。たいへん涼しげで、品がある。展示品はどちらも、団扇の形に仕立てられていた(↓仕立てる前の状態)。

 川端龍子らによる12枚1組の短冊絵セットには、オリジナルの短冊掛がついている。毎月掛け替えて、季節の風物詩を楽しめる趣向だ。
 さらに、ぽち袋や熨斗、祝儀袋といった小物類もたくさん出品。思わず目移りしてしまうのであった。
 いずれも、木版の技術は高い。とりわけ、にじみ・ぼかしなどの微妙なニュアンスはよく表現されており、肉筆と見紛うほどだ。美を生活のなかに、気軽に取り入れることができるようになっている。

 榛原ゆかりの美術家として、もうひとり忘れてはならないのが柴田是真。
 榛原家は暁斎や是真の有力な支援者であり、さまざまな仕事を依頼するとともに、暁斎の弟子・暁翠、是真の弟子・綾岡有真とも引き続き深い関係を結んだ。彼らが手掛けた絵画やデザインは、現在も店頭でラインナップの一角をなしている。

 また、是真の代表作として挙げられることも多い《花瓶梅図漆絵》(明治14年〈1881〉 板橋区立美術館)は、榛原家旧蔵。こちらの作品も、本展の会場を飾っていた。

 ——江戸時代に創業され、明治、大正の需要に順応し、流行を牽引して、膨大なデザインを生み出してきた老舗・榛原。その底力を感じさせる展示であった。

井の頭公園の弁天様



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