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人の精子を笑うな。②

初めて精子の検査に行ったのは、2015年、約4年前の春。妻も35を過ぎる頃となる結婚後3年目、一応自分の精子も調べてみようと近くの産婦人科に朝採取した精子を持って行く事になった。

HIV(エイズ)診断の血液検査をした時にも感じた、「まさか自分は大丈夫だろう、でも、もし万が一そんな事があったら!?」という、得も知れない背筋がぞくっとする感覚。男なら誰もが思う、「自分に限っては大丈夫だろう」、この時にもし万が一そんな事があったら?等という余裕はない。自分の精子なのだから、絶対的に信じているのだ。自分の精子は元気良くまっすぐに泳いでいるのだと。

禁欲日数は約3日、自慰行為を一切せずに、自分が好きな妻が隣で寝ていたら、どうやって性欲を抑える事が出来るものだろうか?ましてや、初めての精子採取なのだから、少しでも良い結果を残したいが為に、食事も心なしか精力をつけるものを率先して食べてしまう。そんな事なのだから男性によってはどれくらい自慰を3日間、禁止する事が大変なものか理解してほしい。それはつまり妻の事をどれだけ好きなのか?という事なのだから、女性側としてはポジティブに捉えてほしい。

正直この辺りまでは、精子の検査結果を少し楽しみにしているくらい余裕がある。どんなに事前に情報を仕入れていても現実味が全くないのだから、体験してみるまで分からない。リラックスして望むべきだ。自分の精子が入ったケースを受付の女性看護師に渡すのは謎めいた緊張の瞬間だが、何故か男の人には自分の精子を直折渡したくないと生理的に感じるのだから、女性であって然るべきだとも考える。

精子検査についてはもっとポジティブに望めるものでならなければいけないのだから、男性側が生理的に受け入れられない可能性が高い条件であれば、その原因は排除するべきでもある。例えば、セクハラだとか男女差別だとか主張して、男性看護師も受け取るようにする、というような男女平等を訴える事が正しい事であるとは限らない。しかし、男性に渡したい男性がいるのであれば、男性看護士に渡すというオプションはあってよい。

どんな形であれ、まずは男性側が積極的に精子検査をしたくなるような環境を作る方が大事なのではないだろうか?例え、それが多少不道徳的であっても、皆が能動的に動くようにならないと始まらない。

産婦人科に妊婦達に混じり座り、しばらく待つと自分の名が呼ばれる。結果報告を医者からうけるとさらり、「IVFをした方が良いんじゃないかな」と言葉をかけられる。決して早いわけではないらしい。口説いようだが、まっすぐに直進している精子が少なく、曲がってしまったりしているそうだ。

バカみたいな話だが、本当の話だそうだ。

矢継ぎ早に、専門用語を交え説明される。このままじゃ着床する可能性は高いから、夫婦の年齢を考えるとすぐに体外受精や人工授精にした方が良いんじゃないかという事だった。私はもっと準備をするべきだったのだろうか?そうすれば、きっと心的なダメージは少なかったかもしれない。

一方でインターネットには膨大な情報が乗っているからあんまり見るなと言う医者もいる。

今になれば分かるのだが、精子はまっすぐではないものが多くても、精子洗浄技術によって精子を濃縮して、運動率の良い精子だけを集める事が出来るそうだ。精子に問題がある場合は、まず質の良い精子を取り出して、その精子を直接女性側の膣にスポイトで注入し前後のホルモン注射や薬等で着床を促す。この作業が人工受精(IUI)といわれるものだ。ここでのポイントは精子洗浄であり、精子の質を良くする事によって着床率を高める。そして女性側は卵子をより多く、より大きく育てる為、数々のホルモン注射を打つ。卵子の状態、精子の状態、お互いを最高の状態で引き合わせる。

軽い気持ちで検査を受けにいった産婦人科で急に言われた体外受精の話。奥さんと良く話し合って下さい、だと言われる。妻にとっても寝耳に水。自分だって簡単に信じる事はできない。頭にはセカンドオピニオンという言葉がよぎる。きっと次の精子は良いはずだ。妻に励まされる。