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純文学と大衆文学 小泉和裕/九州交響楽団の東京公演

サントリーホールで、九州交響楽団の東京公演を聴いてきた。70周年記念演奏会。

ベートーヴェン/交響曲 第2番 ニ長調 作品36
R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」作品40 TrV190

指揮:小泉和裕

唐突だが、芥川賞と直木賞の違いをご存知だろうか?

簡単にいうと、芥川賞は純文学、直木賞は大衆文学(今でいうエンターテイメント小説)に授与される文学賞である。

小説フリークでなくても知ってる人は多いと思うが、林真理子が直木賞を受賞したとき、知り合いのおばちゃんに

「次は芥川賞ですね!」

と言われたという話もある😅

それはさておき、今日の小泉和裕の音楽(芸術)を聴いていて、小泉和裕の芸風って案外エンタメ寄りなんじゃないの?と思った。

こんなことを言うと、

何バカなこと言ってるんだ!
小泉ほど格調の高い指揮者はいないだろ!

と言われそうだが、名古屋フィル、神奈川フィル、都響、そして今日の九響と、小泉と深い縁のある4つのオケで聴いてきた上での感想だ。

純文学とエンタメの違いは、私が思うに

純文学……どう物語るか(文体、技法)
エンタメ……何を物語るか(ストーリー、セリフ)

である。

私が読む小説は圧倒的に純文学が多い。文章に粗さを感じると読み進められない。
物語が面白ければ構わない、という発想にはならない。

文芸評論家の福田和也だったと思うが、

純文学……劇薬
エンタメ小説……栄養ドリンク

に例えていた。

言い方を変えれば、読み手の期待に応えて満足させてくれるのがエンタメで、読み手の人生観を揺さぶって不安や恐怖まで感じさせるのが純文学ではないだろうか。

小泉和裕の芸術に4回触れてきて、この人って「聴衆の期待通りの音楽をする人」ではないかと思えてきた。

ベートーヴェンを聴くのは名古屋フィルとの1・3番、神奈川フィルとの8番に続いて4曲目。今回もテンポは颯爽としている。

晩年の小澤征爾やブロムシュテットのベートーヴェンは「若々しい」という印象だが、小泉和裕は「若い」。

若作りしてる感じではなく、小泉さん自身の中で流れてるテンポ感が速そう。

ステージマナーもいつもあっさりしてるし(何度もしつこく出たり入ったりしない)、淡白な性格の方なんだろうか。

テンポはほとんどインテンポではないだろうか。
タメや伸び縮みがないので、途中から単調に感じてくる。
「一本調子」とも言える。

音色は毎回ゴージャスというか、煌びやか。
金粉をまぶしたようなサウンドである。

小泉の芸風が好きな人は大船に乗った気持ちで安心して聴けるのだろうが、私には変化が乏しく感じられた。

先の小説の例で言うと、大植英次なんかイメージはエンターテイナーそのものだと思うが、やってることは純文学だと思う。

大植/神奈川フィルの「ラ・ヴァルス」「幻想交響曲」なんて、初めて耳にするようなフレーズが頻出した。

それも、大植の十八番であるアゴーギク(テンポの揺らし)があってこそ、という気がする。

今日の演奏会、私の満足度は

ベト2   70
英雄の生涯 80

だった。

演奏の完成度で言えば、

ベト2   85
英雄の生涯 95

くらいは行ってたと思う。

繰り返すが、芸術に求めるものが違ったのだ。

私はもともと演劇にもよく行っていた。演劇なんて、再演を除けば初めて見る演出が大半だから、観客を安心させる演出より、観客の度肝を抜く演出が評価される。

クラシックは再現芸術なので、「期待通りの演奏を聴かせてほしい」というお客も多そうだ。

カラヤンの「英雄の生涯」が好きで、そんな演奏を生のオーケストラで聴きたい、みたいな。

私はまったくそういう嗜好がない。芸術は度肝を抜かれてナンボと思っている。

今日の「英雄の生涯」は、助っ人含めて100人強?のオーケストラならではの迫力はさすがだと思ったし、小泉和裕と九響の集大成感も十分に感じた。

曲のラストより、「英雄の伴侶」の最後の2、3分が美しかった。

涅槃へと続く金色の道が見えた気がした(そんな音楽ではないにしろ😅)。
ブルックナーのアダージョにも似た悠久を感じた。

フライングブラボーもなく、満場の聴衆の熱気は凄かったが、私の気持ちは沸き立ってはいなかった。

小泉和裕は4回聴いたが、最初に聴いた名古屋フィルとの「エロイカ」が一番凄かった。

特に「葬送行進曲」以降から音楽の深度がさらに深まり、「ゾーンに入った」とでも言いたくなるような神がかりな名演だった。

それまでは「小泉和裕は地味で堅実なだけ」というイメージだったので(ほんとすいません😅)、それが覆されたショックによる感動も大きかったのだろうが、「小泉和裕、好きですか?」といま聞かれると困る。

「凄いとは思うけど、私の好みとは少し違うのかな……」というのが正直な感想である。

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