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秀逸だが奇怪なキャラクター・スタディ、『イングリッド・ゴーズ・ウエスト』

★★・・。

2017年のサンダンス映画祭でオリジナル脚本賞を受賞、作品賞にもノミネートされたインディペンデント映画。フィルム・インディペンデント・アワードでも脚本賞、および最優秀初長編作品部門でノミネートされ、監督およびプロデュース陣の処女作として高く評価された。制作費は定かでないが、北米での興行収入は3億円(1ドル100円換算)ほど。公開館数は最大647館で、各館平均で1,200ドルの売り上げは多くないが、規模的に宣伝費も多くはかかっていない。この手の作品は、映画祭サーキットのみならず公開へ漕ぎ付けるだけでも儲けもの。作る側からすれば、配給元とクリエイター陣のコンビで探る、次回作への足がかり的な位置づけの一本と見て良い。

[物語]

"友人"の結婚式に呼ばれなかったことに腹を立て、披露宴パーティー会場に乱入、花嫁に催涙スプレーをかけて逃げる女:イングリッド・ソーバーン(オーブリー・プラザ)。案の定、施設へ放り込まれる彼女だが、入所中のエピソードはさらっと割愛。観客は退院の日の彼女に注目させられる。帰宅し、長らく禁止されていた携帯でInstagramに入れ込むイングリッド。気づけば、インスタ上で華やかなカリフォルニア生活を送るテイラー・スローン(エリザベス・オルセン)のアカウントに没入している...。折しも母親を亡くし、まとまった金を手にした彼女は、「テイラーと友達になるため」に、ペンシルバニアからロサンゼルスへ引っ越すのであった。

[評価]

キャラクター・スタディとしては、際立って特徴的。普段、主人公像として焦点が当てられることはないキャラクターが、つぶさに描かれる。その衝動的な言動の向かう先を、独特な脚本が行き着けるところまで追いかけていく。スタンダードなヒーローズ・ジャーニーに縛られず、その下り坂な行程を一直線に行く初志貫徹なストーリーがサンダンスで評価されるのも、わからなくはない。SNS依存症な女性の、狂気じみた執念と執着を描くことには間違いなく成功している。極めて現代的なトピックを、あえて痛々しく描く物語だ。

しかし、怪作だ。コメディというには、笑いどころは序盤に集中する。イングリッドというキャラクターの真髄に気づき始めた中盤以降は、笑うべきポイントにも引きつるような痛々しさが勝る。また、ドラマというには、アークと呼べるほどのアークがなく、主人公へ寄り添い切るには十分な起伏がない。イングリッドの痛々しさが、シュールな笑いの要素との繊細なバランスで成立している一方、オシア・ジャクソン・Jr演じる隣人ダン・ピントのキャラクターが物語的に都合よくお人好しな点に、作品総体として見た「コメディ」と「ドラマ」の調和不全が感じ取れる。

時代を反映させた、毒のある風刺劇。鑑賞には忍耐が必要だ。

[クレジット]

監督:マット・スパイサー
プロデュース:オーブリー・プラザ、ジャレッド・イアン・ゴールドマン、トレバー・ホワイト、アダム・ミレルズ、ロビー・ミレルズ、ティム・ホワイト
脚本:デビッド・ブランソン・スミス、マット・スパイサー
原作:N/A
撮影:ブライス・フォートナー
編集:ジャック・プライス
音楽:ジョナサン・サドフ、ニック・ソーバーン
出演:オーブリー・プラザ、エリザベス・オルセン、オシェイ・ジャクソン・Jr.、ワイアット・ラッセル、ビリー・マグヌッセン、チャーリー・ライト、デニス・アトラス、 マーティン・ガルシア
製作:スター・シャワー・エンターテイメント、141エンターテイメント、マイティ・エンジン
配給(米):Neon
配給(日):未定
配給(他):N/A
:97分
ウェブサイトIMDb: Ingrid Goes West (2017)

全米公開:2017年8月11日
日本公開:未定

鑑賞日:2017年9月2日(土)??:00〜
劇場:AMC Burbank Town Center 8 w/Y

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