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社会性、多少ゴリ押しの佳作『Wind River(原題)/ウィンド・リバー』

★★★・。

「サンズ・オブ・アナーキー」でデビッド・ヘイル役を務めるのみならず、ドゥニ・ヴィルヌーヴの監督作『ボーダーライン』や、『ヘル・オア・ハイ・ウォーター』の脚本を執筆してアカデミー賞にノミネートされたフィルムメーカー、テイラー・シェリダン。彼の監督第2作となった本作は、主演にジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンの『アベンジャーズ』組を揃えるスター・ビークルとなった。ネイティブ・アメリカンたちへの知られざる迫害の歴史に触発された同作はサンダンスでも好評を得、カンヌでは「ある視点」部門で監督賞を受賞。性犯罪問題で今や風前の灯火となったワインスタインの配給により、制作費11億円(1ドル100円換算)のところ全世界40億円の興行で成功を収めている。

[物語] 

ワイオミング州、ウィンド・リバー・インディアン居留地。アメリカ合衆国魚類野生生物局の職員、コーリー・ランバート(レナー)は、パトロール中の雪原で「裸足」の女性死体を発見する。身元は、18歳のネイティブ・アメリカン、ナタリー・ハンソンと判明。現場の要請に応じたのは、新米FBI捜査官のジェーン・バナー(オルセン)。しかし検死の結果、レイプと虐待の事件性が明らかな一件にも関わらず、当局は刑事事件として扱うつもりがない。真相を突き止めるため、ジェーンは土地勘の鋭いコーリーに協力を仰ぎ、たった2人の犯人探しに挑む。

[評価]

インディアン居留地では、貧富の差や人種差別に根ざした不条理が横行している。長年の社会問題でありながら、特区であることによる連邦と州のしがらみが事態の解決を許さない。

そんな土地に伝わる数々の「実話」に基づいていると謳う本作は、その不条理をあえて描こうと設計されている。良くも悪くも、社会問題のショーケース的な物語だ。また、怒りに燃えた男が暴力をして懲悪を成す筋書きは、現代アメリカらしい「目には目を」な価値観に倣う。何がなんでも銃撃戦で解決させるのが、ビジュアル・ストーリーテリングの求めるところなのか。サスペンス・スリラーからアクション映画へとシフトしてしまうシーンが作中、目立つ。もちろん、十数人が銃を向け合いながらこう着状態に陥るという、緊迫感溢れる見せ場は見事だ。いわゆる現代の西部劇的なジャンルを意味する「ネオ・ウェスタン」の名に恥じない、無法地帯の暴力がよく描かれている。痛々しい性暴力のシーンについても、トピックを描く上での必然性を感じて、なんとか受け入れることができる。

一方、どうしても白人が手を差し伸べる物語にならざるを得ないのは、残念なことでもある。ネイティブ・アメリカンたちの救われない実情を救済するのは、彼らを居留地へ追いやった当の白人たちでなければならないのか?こうした疑問は議題に上げておいて良い。

演出面では、空撮を利用した雪原のスケール感、距離感が効果的に表現されている。一方、トーンやテンポ面では、プロデュースに名をつらねるピーター・バーグの影響かと思うほど、メロドラマ調に間延びするディレクションが目につく。メッセージ性を押し出す割に、メジャー志向なアクションも混ざる、バイオレンスの多い「濃い」味付け。ネオ・ウェスタンにこだわるシェリダンならではの、アメリカらしいサスペンス映画であることは間違いない。

[クレジット] 

監督: テイラー・シェリダン
プロデュース:マシュー・ジョージ、バジル・イワニク、ピーター・バーグ、ウェイン・L・ロジャーズ
脚本:テイラー・シェリダン
原作: N/A
撮影:ベン・リチャードソン
編集:ゲーリー・D・ローチ
音楽:ニック・ケイブ、ウォーレン・エリス
出演: ジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン
製作: アカシア・エンターテイメント、サヴィ・メディア・ホールディングス、サンダーロード・ピクチャーズ、フィルム44
配給(米):ワインスタイン・カンパニー
配給(日):未
配給(他):N/A
:111分
ウェブサイト(IMDb):http://www.imdb.com/title/tt5362988/

北米公開:2017年8月4日
日本公開:未

鑑賞日:2017年9月1日22:00〜
劇場:AMC Burban Town Center 8 w/Y

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