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嗅覚補助具の悲劇

 猫宮氏は人工鼻の開発を進めている。

 古来、人間は、目には望遠鏡や顕微鏡、口にはマイクや拡声器、耳は集音器などを使って、本来の能力では見えない世界を眺め、声を伝え、音を聞いてきた。
 一方、嗅覚や味覚にはそういった補助器具は今のところ存在しない。

 もっとも、嗅覚に至っては人間の相棒である犬の能力が素晴らしいこともあり、彼等に頼ってさえいれば太古の昔から問題なかったこともあるだろう。が、やはり訓練は大変で、最近は動物愛護の観点から麻薬犬に反対する団体もあるという。

 そこで、猫宮氏は人工鼻の研究に目を付けた。嗅覚補助具である。これを使えば人間が犬並みの嗅覚で匂いをかぎ分けられるようになる。トリュフだって見つけられるのだ。

 警察犬ならぬ警察人である。麻薬人、災害救助人だ。お気づきの諸氏も多いだろう。言葉が元に戻っている。
 
 ある日、研究所の中で猫宮氏が遺体で発見された。彼が発明した、世界初の高性能嗅覚補助機器を装着した状態で倒れていたという。どうやら実験中の事故らしい。

 直接的な死因は不明だが、部屋から1匹のカメムシが見つかった。 

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