神津

旅と匂いと身体感覚

母の実家である、伊豆諸島の神津島(こうづしま)へ帰省してきました。

以前に、ブログ企画【繋】第68回「わたしの故郷(ふるさと)」の記事の中でも書いたけれど、今回はもっと旅行記(帰省記?)のような感じで、神津島で過ごした短い夏を書きとめたいと思います。


📷調布飛行場
神津島まで約40分の20人乗りの直行便。
機体までは誘導員さんのあとを着いて
みんなでトコトコ歩く。
機体に到着して名前を呼ばれたら、
はしごのような階段を上り機内へ乗り込む。
わたしは生まれて初めて乗ったのが
この飛行機だから、
こんなふうに搭乗するのが一般的なんだと
長いこと思っていたのだけれど、
いつか羽田空港を利用したとき、
搭乗手続きを済ませて促されるままに
掃除機の管みたいな中を歩いたら、
いつの間にか機内に乗り込んでいて、
ポカンとしてしまった。
ああ、罠に捕まる動物たちって、
こんなきもちなのかなって思った。

📷神津空港
窓からの景色を食い入るように眺めていたら、あっという間に到着。
小型機ならではの揺れと浮遊感が
なかなかスリリングで楽しい。
でもね、
わたし、夢の中では頻繁に空を飛んでいて、
むしろ夢の中での移動手段は
専ら飛行ってくらいのフライヤーだから、
もうね、空中を飛んでいる状態の
身体感覚への慣れがすごくてね、
「ああ、うんうん、そうそう、知ってる、
そういう感じよね」
って
ひとりこころの中で相槌打ってた。


📷母の実家の和菓子屋さん
あんこの香りとともに、
母の姉のおばさんたちが出迎えてくれた。
お店の人気商品、
アンドーナツづくりの真っ最中。
見よ、このはみ出さんばかりの
ずっしりとしたあんこ。
衣がきつね色に揚がったら、
お砂糖をまぶして完成。
さっそく出来立てを頬張る。
3個も食べた。
ちなみに、壁に貼りつけられた注文メモも
いい味出してるよね。
おばさんが作るアンドーナツも好きだけれど、おばさんが書く字も同じくらい好き。
読みやすくて、意志がある字。


おばさんの知り合いの方から
ヤリイカをいただいた。
こうやってあたりまえのようにテキパキと
捌けるのはかっこいい。
この台所のシンクまわりからだけでも伝わる
溢れんばかりの生活感が
とてもいとおしいのだけれど、
汚い台所載せないでよ!
とかって怒られそうだな。
イカ刺しに焼きイカ、
それから
じゃがいもと和えた煮物にして食べた。
「ちい(中1のいとこ)が好きだしかい、
たくさんもらったときはいつも煮物にする」
って言っていたのが、
島での暮らしが垣間見えてよかった。


📷物忌奈命神社
鳥居をくぐり提灯をたどって行くと、
境内では神津島マリン太鼓フェスティバルが
始まるところだった。
島の芸能保存会の方々が
踊りや神津島太鼓を披露する。
役場に勤めるわたしのいとこも
島の伝統的な踊りを踊っていた。
それから、
栃木県の那須拓陽高校の和太鼓部の
部員たちも特別出演していた。
太鼓っていいなあ。かっこいい。
太い音がズンと腹に響く感じ。
士気が上がる。
わたし最近さ、
気合いを入れて取り組まなくてはならない
作業をするときに、
「東京音頭」とか「炭坑節」とか
「八木節」あたりの祭り音楽をBGMにして
お祭り感を演出しながら
士気を上げて乗り切っているのだけど、
そのプレイリストに
太鼓の音も加えようと思った。


📷中1のいとこの部屋
川の字に並んで母と妹と眠った。
いつも自宅ではひとりで寝ているから、
誰かの寝息が聞こえるなかで眠るのは
かなり久しぶりだった。
わたしは夏でも布団に全身包まって
寝たい派なんだけれど
(手とか足とか出して寝たらなんか食べられそうで怖いじゃん)、
おばさんに用意してもらった
ドラえもんのタオルケットが
小さめだったから、
体を折りまげて脇にきゅっと力を入れて
小さく縮こまって寝たら、
翌朝、脇の下が筋肉痛になっていた。

神津島は東京よりも
10度近く気温が低くて、
さらに爽やかな海風が吹き抜けて
とても快適だった。
下手するとさ、
神津島の最高気温が
東京の最低気温だったり
するんじゃなかろうか。
大変良心的な夏。


📷前浜海岸
家から歩いて海へ行けるっていいよなあ。
島で暮らしていた母の学生時代、
友だちとの放課後の待ち合わせは
「とりあえず前浜集合ね!」
だったらしい。
生活の中に海が根づいている。
待ち合わせ場所って、
その地の暮らしや文化が
反映されたものなんだな。

📷海のそばのおみやげやさん
うきわやゴーグル、ライフジャケットなんかの
レンタルもやっている。
この色とりどりのビーサンは
「ぎょさん」というもので、
神津島だけではなく
伊豆諸島の他の島でも流行っているそう。
もともとは漁師さんたちが履いていたサンダルだそうで、それゆえに丈夫で水にも浮く。
島人の夏の足元はほとんどこれ。
わたしも持ってるよ。

おいそれ海入る格好なんか!
腕とか足とか諸々出さないんか!
とかって言われそうだけれど
(誰も言わんよ)、
神津島で海水浴している人たちは
ラッシュガードなんかを着ている人が大半で、ビキニいっちょで泳ぐねぇちゃんとかは
ほとんど見ない。
そういうこともあってか、
テレビで熱海とか江ノ島の海水浴場の映像を
見ていたりすると、
本当にみんなビキニいっちょでいらしていて、ああ、みなさん海ではそのような布を
お召しになるのですね
とかって、
いつも初めて水着見た人
みたいなきもちになる。


この日は「遊泳注意」の黄色い旗がはためいていて、それなりに波があった。
それでさ、
スピッツの「運命の人」という曲の冒頭に

バスの揺れ方で
人生の意味がわかった日曜日

アルバム「フェイクアワー」より引用

という一節があるんだけども、
次々と押しよせる波をうきわにつかまって乗り越えていたら
これに近いきもちになった。

ちょうど、この前浜海岸は、
行きの飛行機の窓からも見えたんだ。
海に入っていると
これだけ身体に波を感じるけれど、
飛行機から見下ろした海は
波のひとつひとつなんて
ほとんど見えなかった。
けれども、
上下する波のでこぼこに太陽の光があたると、
海全体が意思を持って動いているように見えた。

上空から見下ろしたときの海と
今身体を預けているのは同じ海。
けれども海の中にいると、
次々迫り来る波を
ひとつひとつ乗り越えていくのが精一杯。
たまに波をかぶってしまって
波打ち際まで押し戻されたりして、
そうこうしていると、
目の前に迫る波、
次にわたしへ向かってくる波のことしか
見えなくなってくるけれど、
でもそれも空から見下ろせば、
広大な海を構成する
ほんの小さなひと波でしかなくて、
しかも、
どこにだって平等に
波は押し寄せているんだよなあ。
それでも、
空からは見えないくらいの
小さな波だったとしても、
その海に浸かる人たちにとっては
それなりに大きな波で、
それをひとつひとつ乗り越えたり
揉まれたりするさまは
“あ、もしかすると、
人生ってこういうことなんじゃないか”
ってね、
太平洋に浮かびながらふと思った。
そう思ったら、
目の前の日々に必死になっている
今の自分に愛しさを感じた。

これまで何度も
この海で泳いだことはあるのに、
今年に限って、次々と押しよせる波と対峙しながら乗り越えていくという身体感覚が強く残ったというのはおもしろいな。
特に何をしたわけでもないけれど、
身体感覚の感受性が高まっている気がする。
旅とは、
身体感覚を刺激する体験でもあるんだな。


↑妹・わたし・いとこ

↑いとこ・わたし・いとこ・妹

毎日中学のサッカー部で頑張っているいとこ。
自転車通学だからって、日焼け止めクリームを塗るのに10分かける妹。
そして
だてに毎日引きこもっていないわたし。
それぞれの夏が現れていて、
みんな違ってみんないいんじゃないか。


日が暮れたら、
昼間海水浴を楽しんだ海へふたたび向かう。

例年は8月のお盆の時期に帰省するから、
この花火大会を見られるのは20年ぶり。
開始5分前に会場に到着したのに、
浜のそばのベストポジションに
余裕で座れてしまうあたり最高。

近くの港から打ち上げているらしい。
花火って、
きれいに写真に収めるの難しいよね。
↓これとか、この世の終わりってかんじ。

しばらくしたら、
なんの予告もなくいきなり目の前の浜で
ショワ〜〜〜〜!!!!
って始まってかなりびっくりした……


花火大会が終わると、
海のそばの個人商店のアイス屋さんは大混雑。
「みんな考えることは同じだしかいね〜」
とか言いながら、
注文の順番待ちの間に、
島に住む同級生と会って話し込む母や、
学校の先生に会って照れくさそうに挨拶するいとこの姿がとてもよかった。
てんやわんやの店員さん。
(ちなみに母の姉の同級生)
「え〜っと、あとはなんだっけ?
ダブルベリーとラムネだっけか?
復唱してないとすぐ忘れちゃうしかい」

ちなみに島には、
カラオケ(1階は居酒屋で2階がカラオケ)や
ケーキ屋さんも1軒づつある。
島唯一のケーキ屋さんだなんて大儲けじゃん!
っていつも思う。
この日はちょうど、
母のいちばん上の姉の誕生日だったから
ケーキを買いに行ったんだけれど、
どうやら昼間に行われていたお神輿を担ぎに
行ってしまったらしくお店は閉まっていた。
カラオケの方も、この日はお店の人たちみんなで花火大会へ行くから休業らしい。
そうだよね、
年に一度のお神輿や花火大会だもんね。
そりゃ行きたいよね。
別にそれを誰も責めないであろう空気感とか、イベントの日だからこそ稼がなきゃ!とかって
メラメラした商売っ気が
あまりなさそうなのがいいなあ。
そう考えるとアイス屋さんはがんばっていたなあ(笑)


📷よっちゃーれセンター
(「よっちゃーれ」は神津島の方言で「寄って行きなよ」みたいな感じ)

最終日。
予定では行きと同じ飛行機で
ひとりで帰ってくるつもりだったのだけれど、
急遽空港から連絡があって、
「天候調整中のため飛ぶかわかりません」
という話になった。
しかしどうしても今日中に確実に帰らなくてはならなかったので、空席状況の兼ね合いもあって熱海行きのジェットホイル船で帰ることに。

行きは上空から見下ろして、
滞在中は海水浴をした海の上を、
今はこうして船に乗って
高速で移動しているんだなと思いながら、
神津島での短い3日間を回想していた。

2時間弱で熱海港へ到着。
あまり揺れずに快適な船旅だったのは
よかったのだけれども、
わたしの席の付近が
なぜだかすごく機械の匂いが強くて、
うわこれずっと嗅いでいたら酔うと思って、
神津島での3日間を共にしたタオルの匂いを
2時間弱嗅いでいた。

ハイジャック犯かよ。
(わかる人にはわかる、PerfumeのPPPPPPPPPPタオル)
しかも、
経由地の大島に着くまでは
周りに誰もいなかったのをいいことに
この下でもぐもぐスルメイカを食べていたことをここに告白します。
でもさ、それがさ、
大島からはわたしの隣や前後にも
人が乗ってきたのだけれど、
誰も機械臭のことなんて言い出さないどころかみなさんふつうに素顔を晒してらっしゃって、
ハイジャック犯はわたししかいなくて、
(ハイジャックするつもりはない。
むしろあの匂いがハイジャックしてた)
ただただわたしだけが怪しい女みたいな
旅の終わりだった。
解せぬ。

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


さて、ここからはこの記事のタイトルにもある「旅と匂い」について。
神津島へ旅立つ前日に、こんなツイートをした。

たぶん、船の中でのハイジャックエピソードからもそれがうかがえるかと思うのだけれど、たぶんわたしは人よりもすこし鼻がきく人間なのかもしれない。

でもさ、味覚や聴覚が優れているっていうと、ハイセンスな選ばれし人間感があるけれど、嗅覚が優れてるっていうとどこか変態っぽさがつきまとうのはなんでなん?

「繊細な味の違いがわかる」だとか「絶対音感があって雨音に音階を感じとれる」とかはカッコイイー!ヒュー!ってなりがちなのに、
「職場の人の姿を見ずとも匂いで嗅ぎ分けてその人の行方を追うことができる」だとか「“なんでにおい嗅ぐの!”ってそこらの人が生涯言われる回数を現時点ではるかに凌駕していると思う」だとか「誰かに会えなくなるということは、その人の匂いをもう二度と嗅げなくなるということでもある」とかいうとさ、ほら、たちまち画面そっ閉じの危機でしょ。

そんなこともあって、わたしは日々「場の匂い」に注目(注鼻?)して生きているわけなのだけれど、そのなかでも神津島の匂いはこの地球上の場所のなかでいちばん好き。
24年間ぶっちぎりの暫定1位。
なんなら自分の家の匂いよりも好き。

そう、だから、今回の旅のいちばんの目的は「神津島の匂いを嗅ぎに行くこと」だったと言っても過言ではなかったのだ。

旅の価値って、その地にしかないものを見たり食べたりだとかいろいろあると思うのだけれど、その地特有の匂いを嗅げるというのも大きな価値だと思う。

現地での体験には敵わずとも、食べ物は取り寄せたり、風景や観光名所の写真なんかはガイドブックやネットを開けば見ることができる。
けれど、匂いだけはその地に身体を運ばなければ得られないものだ。
そう考えると、匂いを嗅ぐって、身体体験なんだなと思う。


でも、肝心の神津島の匂いは、結局なんの匂いなのかいまいちわからなかった。

「神津っていい匂いするよね」って母に言ったら、
「そう?磯の匂いが好きなの?」って返ってきた。
うーん、磯の匂いも成分としてはかなり含まれてはいるだろうけれど、でも確実にそれだけじゃないんだよなあ。

太陽の匂い?木々の匂い?風の匂い?古い木の匂い?
匂いの調合のバランスがとにかくいい。でも、東京みたいな、いろんな色を混ぜすぎて何色かわからないみたいな情報過多な匂いじゃないんだ。

でも、都内に住んでいてもたまに神津島に近い匂いがするときがある。とくに大雨や台風通過後の空気には、すこし神津島が香る。


気づけば、わたしは普段の東京の生活のなかでも、神津島の匂いを探している。
なんの匂いなのか簡単にはわからせてくれないからこそ、こんなにも惹かれつづけているのかもしれないね。


今年は例年より早く帰省したから、いつもよりも夏が長く感じる。


しばらく、写真を見返しながら神津ロスに浸っていようと思う。





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