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宇宙誕生で行方不明になった「反物質」捜索(その2)

前回に引き続き「反物質」捜索の歴史です。

反物質とは、自然に存在する物質を電気の量だけ反転させたものです。
なぜか自然に存在せず、宇宙誕生時にそのバランスを崩す何かがあったのではないか?というのが犯行タイミングの当たり付けです。

その有力候補が「CP対称性の破れ」で、当時未発見のクォークがまだある、という瑞々しいアイデアに基づく小林・益川理論の登場(&クォーク発見)で、そのメカニズムの説明には成功しました。

ただ、理論が認められるためには実験による検証が不可欠です。

苦難の道のりでしたが、結果だけ書くと、日本(KEK)とアメリカ(SLAC)の高エネルギー実験施設が、検証に成功します。

これで一見、事件解決、と思いたいところですが、今まで話したのは対称性が崩れるメカニズム、事件に例えると「どのように殺害されたか」です。(ミステリー業界用語を使うと「ハウダニット(How Done It ?)」)

つまり、「動機」(ホワイダニット(Why Done It ?))が不十分なわけです。

対称性を崩すきっかけとなった背景、実はそれにも有力な仮説が出てきています。

「幽霊」による仕業です。

ふざけているわけではなく、あまりにもその振る舞いが近いため「幽霊粒子」とも呼ばれる「ニュートリノ」がその動機を作ったのではないか、ということです。

ニュートリノは、なんでも透過(すり抜ける)してその痕跡を見つけることが難しい存在です。
上記Wikiにも歴史的経緯が書いてますが、はじめは不思議な物理現象を説明するために「苦し紛れに」唱えたもので、1950年代にはじめてその観測に成功しました。
ちなみに、太陽系外でニュートリノを発見した功績で、日本の小柴 昌俊もノーベル賞を受賞しています。

なぜ「苦し紛れ」かといえば、その実験結果を説明するには、幽霊粒子が「質量ゼロ」でなければならず、それは当時の物理界隈ではある意味タブーな雰囲気が漂っていました。

1998年になってニュートリノも質量をもつことを発見し、梶田隆章がノーベル賞を受賞しています。(小柴氏の愛弟子です☺)

実はこの質量をもつことが反物質の消失にもつながるのではないか?と考えられています。

質量を持つには、回転対称性(専門的にはカイラル対称性)の破れが必要です。ざっくりいえば、右・左巻きという物理量がありその左右バランスが崩れることで素粒子が動きにくくなるわけです。(質量とは動きにくさという意味合いです)

もし仮に質量がゼロなら、右巻き・左巻き等しく存在するはずですが、なぜかニュートリノは「左巻き」しか見つかっていません。

ここからは結果だけにしますが、このニュートリノの偏りが宇宙創成初期に物質・反物質の偏りを生んだのではないか?という推理です。みようによっては、動機を生むどころか犯人ともいえるかもしれません。

もう少し詳しく知りたい方は、過去の投稿記事または参考リソースを楽しんでみてください。

話がどんどん大きくなってきましたが、宇宙初期には我々がまだ知りえない謎が潜んでいます。

それを解明すべく、今回のニュートリノだけでなく重力波など従来の(電磁波に頼った)天文学を超えようという試みが進められています。
これを総称して「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれます。

いずれにしても、この反物質消失という宇宙最大級の事件を解いたら、ノーベル賞受賞は間違いないでしょう☺

<参考リソース>


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