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「老い」の科学を展望する3

前回に続いて、老化の科学をお届けしています。

前回は、老いの原因を10タイプに分類して、それらのプロセスの総体が老化であることを主に伝えました。(特定の作用ではないということです)

今回は、そういった分類に対して、1回目から節々に露出した「セノリティクス」を中心に、どのように老化を防げるのかについて紹介します。

セノリティクスは、漢字で書くと「老化細胞除去薬」となります。

老化細胞を除去する、という極めて分かりやすいアプローチです。(が、実はそんなに単純でないことが分かってきます。後述にて)
老化を防ぐ方法は他にも、「作り変える」というやり方もありますが、今回は「除去」にスポットライトを当てます。

まず、これは特定の薬をさすものでなく、老化細胞を除去する薬を指す総称です。
念のために老化細胞の定義ですが、ざっくりいうと、時間が経過してDNA損傷したり(細胞分裂回数に影響を与える)テロメアが短くなるなどして細胞分裂を行わなくなった細胞のことです。
単に自分だけでなく、周囲にも悪い影響を与えるため(ゾンビ細胞と比喩することも)、身体にとっては害悪と言えます。

2011年にその初となる除去実験が行われ、結果としてマウスの老化細胞は減少し、体力面での増強が確認されました。
下記がそのときに投稿された論文です。関心があるかたはぜひ。

ただ、2つ突っ込みを入れると、長命化までは確認できなかったのと、今回実験で使ったマウスは遺伝子改変を施したものでした。

次に2015年に、正常のマウスで同じような実験が行われて、ついに画期的な薬の開発につながります。こちらでその論文にアクセスできます。

ここで、老化細胞の内部で起こっていることを補足しておきます。

細胞は本来細胞死(アポトーシス)と呼ばれる元々プログラムされた自死的行為でその人生を終えます。
が、老化細胞では、その自死作用を食い止める遺伝子もあり、文字通り生死を賭けた攻防を繰り広げており、結果としてとどまり続けます。
2015年の実験では、その自死抑制遺伝子の活動を抑える薬品を探し出すことに成功します。

それによると、下記2つの既存の薬をブレンドすることで効用が確認されました。これが、史上初の「セノリティクス」の誕生です。
ダサチニブ
ケルセチン

この成果もあってか、このころからIT系ベンチャー創業者(GAFA系)・投資家など富裕層がアンチエイジング領域への投資を行います。それを紹介する記事を引用しておきます。

実は、以前の投稿で紹介したマンモス再生プロジェクト(下記投稿参照)をリードしたジョージ・チャーチ博士もその一人で、主に犬の健康寿命を延ばすことも目指しています。

そしてついに、動物実験を経て、2019年にヒトへの臨床実験が実現します。
紹介記事を1つ取り上げておきます。

最後に、老化細胞の別の動きについて触れておきます。

今までの話では、老化細胞は絶対悪として扱ってきましたが、実は別の顔もあります。

例えば、我々の5本指が形成されるプロセスにおいて、初めは河童のような水かきが付いた状態なのですが、その水かき部を取り除くのに老化細胞は貢献しています。

また、負傷したときにそれを修復する際にも老化細胞は活躍しており、さながら老兵がピンチの時に長年の経験で緊急対応をするかの如くです。

ですので、これは薬共通の考え方ですが、単に除去することによるプラスの効果だけでなくマイナスの効果も含めて総合的に判断する必要があります。

老化防止の取り組みは、今回紹介したセノリティクス以外にもあり、まさに今実用に近づいた黎明期に差し掛かっています。

最後に、今回主に参考にした書籍「Ageless」では、どうすれば(高額な)薬を買う以外に老化を防止できるのか、著者なりの処方箋がのっていますので、ぜひ関心を持った方はアクセスしてみてください☺


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