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韓国映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」

1980年韓国。タクシー運転手のキム・マンソプは幼い娘との二人暮らし。生活は苦しく、大家からの風当たりも強い。ある日、マンソプは他の運転手がドイツ人記者をソウルから光州まで乗せていく話を耳にする。報酬の高さに目をつけたマンソプは、機転を利かせてその仕事を横取りする。ドイツ人記者を乗せ、ご満悦のマンソプだが二人は言葉が通じない。奇妙なやり取りを重ねながら二人は光州へ向かうが、現地へ着くとそこには殺伐とした世界が広がっていた。

1980年に起きた光州事件の様子を世界に発信した日本駐在のドイツ人記者と彼を現地まで連れていったタクシー運転手との実話をベースに描かれた映画。

「光州事件」の名称は知っていたものの、その内容についてはこの映画を観るまで私は知りませんでした。民主化を求める市民が軍に暴力を持って制圧され、しかもそれが他の街にはまったく知らされないという事態が起きていたなんて。私は1976年生まれなので実際に自分が生きている時間に近くの国でこんなことが起きているなんて当時は想像もしていませんでした。ええ、四国の港町でおかっぱ頭にサングラスかけてベルばら自転車を走らせていた頃より少し前のことです。家でぼーっと炬燵に入ってたのきんトリオを見ていた頃でしょうか。

それはさておき、この映画を観てよく韓国の人たちがデモをする理由が何となくわかったような気がしました。市民が動くことによって政治を動かしたり、自由を手にしてきたりした歴史が割と近い時代にあったからなんだと。「自由」や「民主主義」を手に入れるために血が流されなければならなかったことを目にし、生まれながらにしてそれを持っており当たり前だと思っていた自分の生ぬるさが少し情けなくなりました。

マンソプを演じたのは、韓国映画好きにはおなじみの名優ソン・ガンホ。売れっ子俳優だから、たぶん私生活とかは華やかなんだろうなと想像してしまうのですが、本当にいつまでたってもおんぼろタクシーとかおにぎりとか寂れた食堂が似合いますねえ。「パラサイト」でもそうでしたが。

映画の展開は最初は明るいものの、どんどん薄暗くなり闇が立ちこめますが、そこに光州市民たちの温かな人柄が陽だまりを作って観る者の涙を誘っていきます。

脇役一人一人にいたるまで丁寧なお仕事ぶり。心をわしづかみにされる作品でした。

※観たのはだいぶ前ですが、「金子文子と朴烈」という教科書に載らない歴史上の人物が主役の映画レビューを書いたついでに思い出してみました。

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