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「動物の意識」という話

まえがき:動物の意識

 「(人間以外の)動物は意識を持っているのか?」と聞かれた場合、あなたなら何と答えるでしょうか。「そんなものあるに決まってる」。「種によって差はあれ意識はある」。「意識のような高度なものは人間しか持っていない」。「そもそも『意識』って何?」など様々な回答があるでしょう(「意識とは何か」という問いにはあとで触れることにしておきます)。

 哲学者のルネ・デカルトは、意識とは人間にしかないもので、ほかの動物は機械仕掛けのようなものだと認識していました。所詮、動物は「意識」という高次元のものは持っていないと思われていたのです。

 しかし、近年、科学研究によって動物たちの意識が解明されようとしています。本稿では、そういった研究をいくつか紹介したいと思います。そのうえで、動物に意識があるのであれば、動物に対して私たちはどのように接すればいいのか、動物福祉や倫理的な問題についても考えていこうと思います。


第Ⅰ章:魚の痛み

 まず最初に、魚は単なる機械仕掛けではなく、意識を持っていて、痛みを感じているのかという研究を紹介しましょう。動物行動学者のヴィクトリア・ブレイスウェイトたちは、「魚が痛みを感じるのか?」という興味深い研究をしています。その内容は次のようなものです。

 私たちは、痛みの検出に必要な受容体や神経線維を、魚が備えているかどうかを問うことから研究をはじめ、その次に痛みを引き起こす可能性のある刺激の適用によって、神経系に活動が引き起こされるかどうかを調査するという手順をとった。以上の二つの問いに対して肯定的な検証結果が得られた場合にのみ、痛みを引き起こす可能性のある刺激を与えると、魚の行動と決定にどのような影響が及ぶのかを調査する最後のテストを行うことにした。

(ヴィクトリア・ブレイスウェイト 『魚は痛みを感じるか?』)

 調査の内容は上記のようなものです。内容について細かな点は順番に説明しましょう。

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