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「黒に染まる世界」という話

世界は黒に染まる。決してアニメや映画の話ではありません。世界は本当に黒に染まりかけています。

暗黒の時代
皆さんは「暗黒啓蒙」という言葉をご存じでしょうか?
あまり有名ではないのでご存じない方も多いと思います。
「暗黒啓蒙」とはイギリスの哲学者ニック・ランドがまとめた思想のことを言います。
簡単に要約すると、「一部のエリート達が民衆をコントロールした方が世界は良くなる」というような考え方です。
暗黒啓蒙を支持している人達は民主主義は衆愚政治にしかならないので、エリートが社会をコントロールした方が良いと考えています。
確かに、近年、「ポピュリズム」「ポストトゥルース」というような大衆批判的な言葉が政治の世界でよく使われるようになっています。
失礼ながら、私から見ても大衆はあまり賢いようには見えません。
しかし、「大衆は賢くないから民主主義を捨てて、エリートが社会をコントロールしよう」という暗黒啓蒙には賛成できません。(理由は後述します)
暗黒啓蒙主義者たちは倫理や民主主義を否定し、科学や資本主義を発展させることこそが世界にとって良いことだと考えています。
科学の発展、例えば遺伝子操作の際に、「クローン人間は造ってはいけない」というような生命倫理を無視して、「科学が発展するのだから」とクローン人間を造ろうとしています。
また、暗黒啓蒙主義者たちは富の再分配にも反対しています。
暗黒啓蒙主義者たちは民衆に富の再分配をするくらいなら科学の発展や資本主義の発展のために投資した方が良いと考えています。
こうした暗黒啓蒙主義者たちはGAFAなどの巨大IT企業に多いそうです。
これまでは、科学の進歩は、人類の道徳的進歩とセットで考えられていました。民主主義や倫理は、理性を持った人間が進歩によって獲得してきたものだとされています。
「暗黒啓蒙」は、そのような科学技術の進歩と、道徳的な進歩の結びつきを切り離すところにあります。
暗黒啓蒙主義者たちはシンギュラリティ(AIが人間の知能を超えること)を迎えたとき、人類は資本主義やテクノロジーから解放されると信じています。
そのために、今は民主主義や倫理を棄ててしまっても良いと考えています。

もうひとつの暗黒
もうひとつ、暗黒の思想があります。
「インテレクチュアル・ダーク・ウェブ」(以下、IDWと表記)です。
IDWの支持者たちはリベラリズムを否定しています。
リベラルは人間には自由意志があると言いますが、IDWの支持者たちは人間に自由意志などなく、所詮、脳科学、進化論、行動経済学に従って動いているだけだと言います。
IDWの支持者たちはリベラル的な人間の自由を否定し、すべては科学法則に従っているだけと考えています。
IDWはある意味では科学至上主義的で、人権や自由という科学的根拠のないものを否定します。
しかし、私は人間は科学ですべてを説明できるとは思えません。
例えば、私たち人間は食事をしますね。
本来、食事は、科学的に見れば生存上必要なカロリーだけ栄養を摂取しておけば良い作業ですが、私たちは「美味しいものを食べたい」「料理を楽しみたい」というカロリーという科学的考え以外のところでも食事をしています。
他にも葬式なども科学的ではないですが、人間にとっては必要な文化であります。
科学的ではないからといって、人権や自由等を排除してしまうのは危険ではないでしょうか。

まとめ
確かに「暗黒啓蒙」が批判するように民主主義には衆愚政治という問題もあると思いますが、民主主義は主権者である国民が政治に関わりを持つことで、政治に対して責任を持つことが重要だと思います。
例えば、過去にドイツは民主主義が衆愚政治化してナチス政権を生み出してしまいましたが、国民達が有権者としての責任を感じ、同じ過ちを繰り返さないように過去の過ちを語り継いでいます。
民主主義は衆愚政治化しやすい反面、国民が政治に対して責任を持ち、衆愚政治を繰り返さないように学習する機能もあるように思います。
エリートによる独裁によって衆愚政治を防ぐより、国民達が政治に対して責任を持ち、同じ過ちを繰り返さないように学習することの方が大切ではないでしょうか?
「暗黒啓蒙」や「インテレクチュアル・ダーク・ウェブ」のような黒い思想が少しずつ世界中で拡大しています。
人間が進歩の過程で獲得してきた倫理や民主主義が脅かされていますが、私たちは世界が黒に染まらないように警戒し続けなくてはいけません。

参照
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59351?page=4

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