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山の裾が、見馴れぬ獣のように、海へ躍り込んだ。泉鏡花作「草迷宮」

「妖しいもの」は見過ごせない、そんな方へ、小説の一片を!

ご紹介するのは、泉鏡花作「草迷宮」から。
ある修行僧は、旅の途中、長者の怪異が噂される別宅に、供養を兼ねて宿泊させてもらいます。僧は、そこで、「亡き母の数え歌を思い出すため、ゆかりのある娘を探している」という青年と出会いました。その夜、青年は、僧に、屋敷に現れる妖しいものの話をします。そして、青年が寝入ってしまうと、・・・・・。

まず、本作は、話のすじを追うことだけで一苦労をしました。そして、あらすじが理解できたと思えてからも、作品の面白さが感じられませんでした。「妖しいもの好き」力の不足に、自分でもがっかりしました。

それでも、私が、この作品を楽しめるようになりたい、と思ったのは、次の文章があったからです。

三浦の大崩壊(おおくずれ)を、魔所だという。
葉山一帯の海岸を屏風でくぎった、桜山の裾が、見も馴れぬ獣の如く、洋(わだつみ)へ躍り込んだ、一方は長者園の浜で、逗子から森戸、葉山をかけて、夏向き海水浴の自分、人死のあるのは、この辺では此処が多い。

この文章だけで、現実とは違う世界に、ポーンと飛ばされてしまいます。泉鏡花が思い描き、見ていたものを、少しでも感じたい!

「あらすじへのこだわり」を捨て、「脳内舞台の演目」として、もう一度読み返しました。

夥しい草木と花々から溢れる色彩、息苦しい草熱(くさいきれ)と微かに甘い香り、鳥の鳴き声に昆虫の羽音。少し先の海辺で、大小の波が寄せては、崩れ落ちる音。残念ながら、今は、ここまでです。引き続き、泉鏡花を修行します。

お立ち寄り頂き、ありがとうございました。

物語の一片 No.22 泉鏡花作「草迷宮」


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