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激しく動き始めた彼の世界!それは私の世界 その2

再読の部屋No8. 夏目漱石作「それから」 明治42年(1909年)発表

夏目漱石「それから」の主人公長井代助は、友人の妻を奪ったことから父から絶縁され、それまでの高等遊民生活から、いきなり現実に突き落とされます。それは、属していたコミュニティからはじき出され、自らの力で食べていかねばならない世界です。

彼の世界は、激しく動き出したのです。そして、ラストの場面、いきなり現実世界を突き付けられた代助は、大きな驚きで、思考停止しているように思われます。

そう感じるのは、とんでもない驚きで、一瞬息が詰まり、何も考えられない、という経験をしたことがあるから。本当に考えられないのです。考えようとしても「あわあわあわ・・・・・・」となるばかり。

代助が、彼の頭を中心に焔が息を吹いて回転するように感じる様子は、まさに「考えることが難しい」と読みました。

しかし、最終行の「自分の頭が焼け尽きるまで電車に乗って行こうと決心」します。いずれ自分の頭が焼け尽きれば、思考が戻る、そんなことを期待しているように感じ、さらに、一片の冷静さがあるように思いました。勝手ながら、そこに救いを感じています。

代助は、職探しに苦労するのかもしれないが、適性に合った職を得ることかもしれない。
友人から奪った三千代の体調は悪いままかもしれないが、二人の時間を心から楽しんでくれるかもしれない。
親兄弟、親族、友人たちからは二度と受け入れられないかもしれないが、新しい人間関係に感激があるかもしれない。

代助の「三千代を選ぶ」という決断は、父からの絶縁という結果を招きました。彼が決断をする時点で、想定された結果だと思われます。そんな決断を、以前は、「心のままに進むか、理性に従うか、その決断にゾッとした」と書きました。

今は、決断して進んだから、世界を広げてしまった、と考えています。

その世界は、望んだものばかりでなく、嫌なこと、不快なこと、悔しいこと、情けないことなど、ネガティブな感情を引き起こすことが一杯あるかもしれない。

しかし、これまで経験したことのない、喜びや嬉しいこと、楽しいことが混じっているかもしれない。そして、自分で自分の世界を受け容れることができれば、何かを見つけることができるかもしれない。

代助の「一片の冷静さ」を、そのための鍵のように思いたくてなりません。以前読んだ時は、代助の決断に怖さしか感じられなかったのに、今は、彼を応援したい!

ここまで、読んでくださり、どうもありがとうございました。

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