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古本愛と読書について

こんにちは。就労支援員のサイトウです。


新年度になりました。昨年度末からはじめたnoteも、たくさんの方に見ていただき嬉しい限りです。

さて、今日はいつもとかなり嗜好を変えて、サイトウの趣味である読書、古本愛について語っていこうと思います。


果たして需要はあるのでしょうか…。

はじめに

最近は活字離れ、読書離れが進んでいるといわれています。専門家の方々にも、専門書以外は読む習慣がないという方が少なからずいらっしゃると思います。

ショート動画や切り抜き、まとめサイトなど、いわゆる"タイパ"の時代に、読書は効率の悪い活動なのかもしれません。

それでも、音楽好きがわざわざLPを聴いたり、ゲーム好きがあえてスーパーファミコンをやるなど時代性を無視した「変人」は一定数存在します(ごめんなさい)。

わたしどちらかというとそのタイプで、様々な意味で古本がだいすきです。
今回は古本が好きになった理由、経緯を振り返ります。その中で、わたし自身の読書方法が変わってきたことについても触れたいと思います。

第一期:コレクター時代

高校生の頃、人の心や社会の不条理、影の部分に興味を持ち、筒井康隆と心理学にハマりました。筒井康隆の小説は比較的安価だったので、新刊書店で入手できましたが、心理学の本はそこそこ値が張るので、地元のブックオフで入門書を100円買いしていました。

大学に入学すると、正式に心理学を学ぶわけですが、そうなるといわゆる「必読書」や「古典」に触れる必要があります。当時はお金がなかったため図書館で借りて読んでいたのですが、返却期限を忘れ迷惑をかけてしまうこともしばしば。なので出来るだけ購入することにした結果、バイトで稼いだお金はほとんど書籍代に消えました。
もっとも高価だったのは『ヒルガードの心理学』で、お値段は2万超え。同期の友人と「困ったら枕代わりにしよう」と笑ったくらいの分厚さでした。


この頃からなんとなく古書店通いを始めたいと思っていたのですが、あのなんとも言えない入りにくさ、一見さんお断りと言わんばかりの店主の視線が怖くて、なかなか立ち入ることができず、ブックオフとアマゾンマーケットプレイスを駆使して本を買い続けていました。


そんなある日、百貨店の催事場で古本フェアが行われることを知り、催事なら行けるのではないかと勇気を出して会場へ足を運びました。そこには、催事なのでそんなにやる気のない店主たち(催事に出す本は、だいたい売れない安価な本が多いからだと思われます)と、掘り出し物を探そうと必死になるお客さんがたくさんいました。

鷹の目のような形相で本を手に取る人たちの熱気と根気強さに魅力を感じ、気づいたら3時間ほど滞在していました。この面白さに魅せられてからは、催事があるたびに通い続け、その結果本棚の書籍は増える一方でした。

当時家にあった本棚(カラーボックス)の数は6段×6棚。本を買い続けた結果、1段の前後に約20冊入っていたので、40冊×6段×6棚で1440冊はありました。本当のコレクターからすればまだまだ未熟者でしょうが、アルバイト学生が買う量として考えれば、決して少なくはないでしょう。

岡崎武志さんという人が読書エッセイを書いておりよく読んでいましたが、その中で串田孫一さんというエッセイストが、蔵書が多すぎて本で床が抜けたというのを聞き「うちもいつか抜けるのではないか」と恐怖したものです。

当時のわたしはとにかく本の状態にこだわっていました。出来るだけきれいで、帯があって、書き込みがない。そんな本を探していました。なので読むときも書き込みは一切せず、大切に保管していました。
今思えば、本を読むものではなく飾るものとして扱っていた感があります。まさにコレクターです。

第二期:痕跡本と速読時代


大学を卒業し、バイトに明け暮れた時代。念願の古本屋アルバイトの職を得ました。
仕事の内容は、顧客から買い取ってきた本を磨き、書き込みの有無や状態を調べてインターネットに出品するというもの。
毎日見たことない書籍に埋もれる仕事は、まさに至福の時間でした。

ここで得られた知識や技術はたくさんあるのですが、中でも今活きているのはブックオフの値付けシールを綺麗にはがすことと、書き込みを容易に見つけることです。あと、メルカリに出すときは「傷有り」より「キズ有」の表記のほうが買ってもらいやすいとか…(根拠はありません)。


当たり前ですが、古本は一度誰かの手にわたっています。その方がその本とどう向き合ったのか。書き込みを見るとよくわかります。
最初数ページだけしっかり線引きがされているのに、その後は全く綺麗な状態。読者は途中でその本の難しさに読むことを諦めたのだと想像できます。ヴィトゲンシュタインの『存在と時間』などは、まさにそんな感じでした。
また、びっしりと入念な書き込みがされている本。かなり格闘されたのだろうなあと推測します。
さらに遠くの書店で買ったレシートや、自作のしおり(落ち葉とか!)が入っているときなども「飛行機に乗る前寄った書店で買ったんだろうなあ」とか「公園で読んでいたのかなあ」とか、蔵書印を見て「〇〇大学の先生が読んでいたんだなあ」とか、感慨深くなります。

さらに全く意味不明なメモ書きが入っていたときもあり、思わず笑ってしまいました。

星新一の文庫に入っていた謎のメモ

これらを見て、本そのものへの愛着よりも、前の持ち主の工夫や楽しみ方に興味が湧くようになっていきました。
汚すこと、使うことに価値を見出すという、コレクターの時代を脱皮し着実に変人の域へと向かっていったのです。


ちなみに章題にもあるように、この頃鍛えられたのは速読です。古本屋バイトで本の状態を確認するために、ひたすらページをめくり確認する。毎日これを繰り返していると、自然と本の概要や伝えたいことがなんとなく頭に入ってくるようになりました。プライベートでも一冊の本を読む速度が上がったので、多読ができるようになりました。すると本と本のつながりが見えてくるなど、読書の楽しみ方も変わっていきます。

たとえば、臨床心理学の本で森田療法に興味を持ったとき、偶然持っていた大槻ケンヂさんのエッセイに森田療法で救われた話が書かれていたり、90年代のダブポップバンド「フィッシュマンズ」のボーカルである佐藤伸治さんの『ロングシーズン 増補版: 佐藤伸治詩集』を読んだ後に全く毛色の違う橋本努さんの『学問の技法』を読んでいたら、フィッシュマンズメンバーの茂木欣一さんが親友として登場したり等々。本棚が一つの大きな脳みそで、本同士がシナプス結合していくようなイメージです。まさに本棚がわたしの「第二の脳」になりました。

第三期:使う時代

コレクター時代、速読時代を経て至った境地は、書き込みは付加価値であるということ、そして本棚を第二の脳として活用するということです。ここからは本を使うこと、本を買えば極力帯を外し、目次に書き込みをし、気になったところにどんどん印をつける読み方へと変わっていきました。最初はコレクター時代の汚したくないという思いが抜けきれずにポストイットを使っていましたが、ポストイットを毎回取り出すことが面倒くさく、またいつでも取り出せるようにと部屋中に置いたため、妻に激怒され、ポストイットを使うことは少なくなりました。かわりに今はドッグイヤーを活用しています。

ドッグイヤー。折った形が犬の耳に似ているため。
重要であればあるほど深く折り込みます。


部屋中といえば、本を''使う''ようになってからは本棚に入れることが面倒くさくなり、様々な場所に積読するようになりました。居間、寝室、水回りやカバン、上着のポケットの中など…。先ほども書きましたが、妻は怒り心頭です。

一度、すべての本が回収され、一列に高く積まれていたことがありました。

妻の怒りの痕跡

「使う読書」の実践者ならばお分かりかと思いますが、この状態では自分の「本物の脳みそ」と、本同士のつながりである「仮の脳みそ」との同期が解除され、どこになにがあるのかわからない状態になってしまいます。

わたしが「アフォーダンス理論のギブソンは記憶や情報は外部環境にあると言ったんだぞー!」などと意味不明なことを半狂乱になりながら伝えると、妻は「よくわからんけど一緒に住んでいるのにその辺に散らかす方が悪いんだ」と一言。



まさにおっしゃるとおりです。


わたしもしばらくして冷静になり、散らかしてごめんなさいと一言謝ればいいものの、次に発した一言は





「平積み上手いね。古本屋やれるんじゃない?」




こりゃもう末期です…。



こうして今も古本愛、読書愛を貫いております。


今回は、古本愛と読書の仕方の変遷について、個人的な体験を書いてみました。

皆さんもぜひ、今回の記事を通して古本や読書の愉しさに触れてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。


読書案内


古沢和宏(2012)『痕跡本のすすめ』太田出版.
前の持ち主が残した書き込みに価値を見出す著者の本です。持ち主を想像し、その本との格闘の痕が垣間見れる様々な例が挙げられていて面白いです。痕跡本は嬉しいことに古本屋では値下げされる傾向にあるので、あえて書き込みありを買ってみると面白いかもしれません。


武田砂鉄他(2020)『ブックオフ大学ぶらぶら学部』夏葉社.

昔のブックオフは宝の山でした。書籍の価値を知らないアルバイトが、高価な本を100円にすることもあったためです。今ではインターネットも発達し、値付けは全国一律的、相場に見合った価格になったため希少本を見つけることは容易ではありません。それでも、100円(税込み110円)棚はやはり魅力的です。ブックオフのまわり方や思い出について、様々な著者がノスタルジックに語っています。


グレゴリ青山(2013)『ブンブン堂のグレちゃん』ちくま文庫.
古本屋で働き始めたグレちゃんの店主やお客さんとのやりとりがコミカルに描かれています。古本屋バイトを考えている方は一度読んでみると参考になると思います。


岡崎武志(2017)『蔵書の苦しみ』知恵の森文庫.
二万冊を超える蔵書を処分し、次の日に買ってくるなど「変人」の域を超えた著者の書物愛が描かれています。岡崎さんは古本や読書についての本を多く執筆されており、毎回とても共感しています。


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