スティグマとは何か。心理や福祉にも繋がる重要概念です


問:スティグマとは何か、150字以内で説明しなさい。



ダメな解答例:
知らねえな・・・熊の一種か?



解答例:
スティグマとは、元々は奴隷や犯罪者であることを示す刺青などの肉体的刻印のことを指す言葉であったが、転じて他者や社会集団によって個人に押し付けられた負の表象・烙印といった意味で用いられる社会心理学の用語である。いわばネガティブな意味のレッテルのことである。(127字)


《スティグマの語源》


 古代ギリシャにおいて、奴隷や犯罪者の身分を明確にするために、腕や首に焼き印を押すことが通例となっていた。つまり、その焼き印が刻まれた人間は社会的身分が低いということが一目見てわかるようになっており、裏を返せば、周囲の人々がスティグマの刻まれた人を劣等視することが正当化されていたということもできる。



《ゴフマン『スティグマの社会学』》


 現在流通している用法は、社会学者アーヴィング・ゴフマンの著書『スティグマの社会学』の中で提示されたものである。本著では、欠点、短所、ハンディキャップなどの属性により、社会によって完全に受け入れられる資格を与えられない者の状況-スティグマを関係論的枠組によって分析し、社会学としての検討を試みている。構成は、「スティグマと社会的アイデンティティ」「情報制御と個人的アイデンティティ」「集団帰属と自我アイデンティティ」「自己とその他者」「様々な逸脱行為と逸脱」といった章立てで進行する。欠点、短所、ハンディキャップなどの例としては、目に見える身体的特徴や障害だけでなく、精神疾患の罹患歴や犯罪歴、同性愛志向といった目に見えないもの、更には人種・民族や宗教等と言ったエスニックグループも含まれるとしている。彼は、スティグマを負った人々への劣等視が社会的に正当化されていること、またその結果スティグマを負った人々は差別という形で様々な社会的不利を被ることになるということを論じている。スティグマ、不名誉さを付与させられた人々がどんな風に振舞うのか、どんな風に振舞うことが可能か、ということについて記述した一冊である。



《パブリックスティグマとセルフスティグマ》


 スティグマを負った人に対する周囲の人々の反応として一般的であるのは、「無視する」「偏見を持つ」「差別やいじめ」といったものであるが、これはパブリックスティグマ(公衆スティグマ)と呼ばれる。精神疾患患者を例にとって考えると、
「精神疾患は劣った人間の病気である」
→「精神疾患の人とは仲良くしない方がいい」
→「精神疾患の人と付き合わないようにしよう」

といった思考回路で差別や排除が形成されていく。このように、誤った知識を基に誤った態度を形成し、誤った行動をとる、というパターンが多い。

 これに対しセルフスティグマ(自己スティグマ)は、ハンディキャップを抱えた人が周囲から差別や偏見を受けていると感じることである。実際には周囲の人は差別をしていなくても、本人が主観的にそう感じてしまうことがある。これも精神疾患を例に考えてみると、
精神疾患患者は劣等視されるという一般論があるという前提
→「私は精神疾患があるのでみんなから嫌われるのではないか」
→「外出したくない」

といった思考回路で自身への劣等感が形成されていく。
 また、パブリックスティグマ的な差別感を強く持っている人ほど、いざ自分がスティグマを抱える側になった時にセルフスティグマに陥る危険性が高い。



《現代日本の社会におけるスティグマ》


 現代の日本においては、上記の様なハンディキャップの例だけでなく、生活保護の受給や障害者手帳の発行などもスティグマになりうる。特に福祉分野で問題となるのはこういった事例である。具体例を挙げると、
「生活保護を受けるのは自分で稼ぐことが出来ないダメな人間のする事だ」
→「生活保護受給者にロクな奴はいない」
→「そういう人と付き合わないようにしよう」

といったパブリックスティグマや、

「生活保護を受けるのは自分で稼ぐことが出来ないダメな人間のする事だ」
→「自分が生活保護を受けたら周りからそう思われて避けられるかもしれない」
→「行政に相談するのは止めておこう」

といったセルフスティグマが形成される。
 このような状況では、本当に行政サービスを必要としている人にサービスが行き渡らず、社会の幸福度は低下する。憲法に定めのある基本的人権も保障されず、立憲趣旨にも反する。スティグマへの恐れから自殺や引きこもりに繋がるケースも存在する。これらは当然に解決すべき問題ではあるのだが、具体的な方法論は確立されていない。



《類似用語「ラベリング」》


 似た意味の社会心理学用語として、ラベリング理論がある。社会学者H・S・ベッカーが構築した理論で、しばしば逸脱理論として適用される。ラベリング理論によると、ある人物の特性は、その人物の行為ゆえというよりも、周囲から貼られる特定のレッテルによって決められるとされている。ひとたびレッテルが貼られると(ラベリング)、その人物はそのラベルのもとにアイデンティティと行動パターンを形成するようになる、という理論である。例えば、軽微な非行をした人がいたとして、本人はしっかりと反省しているにもかかわらず、周囲が「あいつは悪人だ」というラベリングし、ぞんざいに扱われることによって、次第に悪人としてのアイデンティティが形成され、非行がエスカレートしていく、ということがある。
ここで言及される「ラベル=レッテル」は、良い意味でも悪い意味でも用いられるが、福祉分野において非行や犯罪行為の分析として用いられるのは基本的に悪い意味である。
 スティグマと似た概念ではあるが、ラベリング理論はレッテルを張るという行為や現象について言及しているのに対し、スティグマはその付与されるレッテル自体を指している。


※ワンポイントアドバイス


 今回のような外国語由来の言葉は語源から調べてみると理解がしやすいですし、記憶にも残りやすいでしょう。また、本稿で挙げたもの以外にも具体例を自分で思い浮かべてみることで、更に深い理解へと繋がると思います。
 このような現象に対する解決策は特に示しませんでしたが(というより私自身優れたアイデアを持っていませんが)、各自で考えてみたり、知人や先生と議論をすると良い勉強になるでしょう。

※追記

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

学びがあったと思っていただけましたら、SNS等でシェアしていただけますと幸いです。

また、現状としては読者の方がどういった点を解説してほしいのか、どういったテーマを掘り下げてみたいのかということがあまりわからないまま記事を書いています。
ご意見やリクエスト等、コメント欄に打ち込んでいただけないでしょうか?
「こういうことがわかりました」「こういうことが難しかったです」といったアウトプットの場にしていただいても構いません。
よろしくお願いいたします。

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