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ファンタジーが生まれるとき

人生のバイブルと言える本は?と聞かれたら、
私は迷いなくこう答える。
角野栄子さんの「ファンタジーが生まれるとき」だと。

小説ばかり読む私だけど、バイブルであるこの本はエッセイ。
誰もが知る名作「魔女の宅急便」の制作秘話について、そして作者である角野さんご自身の人生経験について語られている。
物語の素晴らしさについて、優しくまっすぐに語られているから、物語大好きな私の人生のバイブルになるのも必然なのかもしれない。

私がこの本に出会ったのは中学一年生の時。
ジブリで一番好きな作品が魔女の宅急便だった私は、このエッセイにまたたくまに惹き込まれた。
キキやジジがどのように生まれたのか、
なぜキキは宅急便屋さんなのか、
物語の裏側を知るのは、覗いてはいけないものを見るようでドキドキした。
それに、想像力をめいっぱいに働かせながら世界を見つめることで得られる豊かさや、
どんな時も前向きに生きていく大切さも、
私はこの本から学んだ。

角野さんが紡ぐことばは名言に溢れているし、
読み返すたびに心に響くフレーズが追加されていくから、
今ではすっかり付箋だらけになっている。
その中でも、中学生だった私が大好きで、
何度も何度も読み返したことばが2つある。

不安だらけだったけど、不安はとってもあこがれに近い。そしてあこがれからはおもわぬ力がうまれるし、ときには大きな贈り物も授けてくれる。(p.89)

面白い世界に出会いたいとき、また不安でたまらないとき、物語はまちがいなく、力を貸してくれる。扉を開けて、物語の世界を歩き、やがて物語が終わっても読んだ人の心の中で、その先の扉がまた開く。
それは物語の世界に限らない。想像する心があれば、もう開かないと思っても、開かない扉はない。(p.125)

これらは、私にとって、「不安」という感情を魔法のようにポジティブに変え、優しくぽんっと背中を押してくれることば。
読めばいつも、安心感に包まれると同時に、自分の中からエネルギーが少しずつ湧き出てくるのだ。


そして20歳を越えた今、このエッセイはまた違った形で心に響く。
角野さんがブラジルで暮らしていたときのエピソードに、共感と憧れを抱くようになったのだ。

異国の地で塞ぎ込みそうになってしまった角野さんが、その苦難を乗り越えて現地の方と心を通わせ、ブラジルに愛着を持つようになるまでの過程。
そこには、人と心を通わせるためのエッセンスが詰まっている。
また、「外国とは?」「言葉とは?」という問いについても考えさせられるから、自分の世界観を広げることもできる。
角野さんの考え方に触れると、私もこんな風にしなやかに生きていたいと思わずにはいられない。

特に素敵だなと思ったことばは、こちら。

ある日のこと、私はふらふらとベッドから立ち上がり、ずっと閉め切っていた窓をなにげなくあけた。と同時にふーっと風が入ってきて、顔にあたった。街のざわめきも聞こえてきた。その瞬間私はこの国で生きていけるかもしれないと思った。(p.157)

なんのつながりのない国でも、人は信じあえるし、それを受け入れようと心を開くことができれば、生きていけるという自信を持つことができた。(p.166)


新しい環境に馴染むのは誰だって大変。
それは異国に限らない。
でも、ひと吹きの風が、新しい環境に身を置いて自分の悶々とした心を換気して、前向きな気分にさせてくれる。
人と心を通わせられるかは、自分次第。
心を開けば、相手を受け入れようとすれば、
きっと報われる。

「ファンタジーが生まれるとき」は、魔女の宅急便の世界だけに留まらない。
不安なとき、落ち込んでいるとき、何かにチャレンジしたいとき、悩んでいるとき。
さまざまな場面で、自分の人生をファンタジーのように素敵に生きるためのヒントを与えてくれるといっても過言ではないと、私は思っている。

角野さんから教わったシンプルで純粋な考え方を、私はこれまでよりどころにしてきたし、きっとこれからも永遠に私の人生のバイブルだ。

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