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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(32)新たな敵対心

 近づく私に気付いた瀬良と舎弟と、目があった。

「瀬良親分ですよね」

 今時「親分」等と呼ぶかどうかは知らない。ただ「親分」を知っている女に警戒した舎弟が、一歩前に出て来た。

「なんや? 」

「さっきから、あそこで親分たちを見てる男がいて……」

 左腕を伸ばし人差し指で、陰に隠れる男を知らせる。舎弟も瀬良も視線は男へ。当然、田村要は驚きを隠せず、オドオドし始めた。

「えっ??? 」

 という感じなのだろう。

「誰や、あいつ? 」

 舎弟の言葉に、私はトドメを射す。

「親分を狙ってるんじゃないですか? 背中に何か隠してるみたいだし。正直ここじゃ迷惑なんですよね、他のお客さんもいるし。
 外に連れて行って訊ねてください」

 目で語る瀬良と舎弟。そして顎で合図する瀬良。頷き、瀬良に背を向け、男のいる方へ歩き出す舎弟。
 私のイメージ通りに、隠れていた田村は反応した。数歩後退りし、反転させダッシュでクラブを出た。

「待てやコラああ! 」

 単純な舎弟は大声を張り上げ、追い掛ける。インストラクターや他の客全員が静止し、頭だけが舎弟の動きに合わせていた。
 舎弟が消えると、その視線は瀬良に集中。礼儀正しいのかどうかは分からないが、頭を何度か下げ出口へと歩き出した。
 残された瀬良の傍にいる私。

「お一人で外に出て、大丈夫ですか? 」

 咄嗟の私の問いに応えてくれる。

「そんな商売や。いつも覚悟しとる。そろそろ下に迎えも来てる頃やし。心配してくれてありがとな」

(意外と丁寧なんだね)

 暴力団のイメージが少し変わった。
 再び歩き出す瀬良に、目的を果たすべく、彼の斜め前に移動する。

「色々大変な時期みたいですが、私は親泉組を応援してますので」

 握手を求めた。
 少し戸惑った感はあるものの、差し出してきた瀬良の手を両手で握手する。大きな手は優しさと力強さがあった。思い描いていたターゲットとは違ったが、闇嘔《あんおう》を遂行。依頼人の闇は彼の体内に格納された。

 クラブから去る瀬良の背中を見ながら、ふと思い出す。

(彼、無事に逃げたかしら)

 エレベーターで下りた後、瀬良らの様子を窺《うかが》う。後部座席の瀬良と立っている舎弟の待つ黒塗り車に、息を切らした男が一人。田村を追いかけた舎弟だ。二人の舎弟は、運転席と助手席に乗り込み、車は去った。

(逃げ切った、みたいね)

 少しだけ安堵した。


 でも、余計な作業が増えた。
 4日の夜、指示した通りにホテルから出てきた田村要を尾行。電車のシートにダラしなく座る彼の横に、座った。
 シートは他にも空いてるのに、横に座った人物に違和感があったのだろうか、こちらを見ようとする動き。

「見ないで。姿勢もそのまま」

 囁くように正した。

「明朝、瀬良は病気で死ぬから。あなたは当然のように振る舞ってね。変に詮索しないように。ただそれだけを言いにきたの。
 あなたと会うのはこれが最後。お疲れ様、たむらさん」

 シートに脱力して置いている彼の手に手を重ね、数回擦った。

「それじゃぁ」

 停車した駅で下車した私は振り向き、動き始めた電車のシートに座る彼を見送った。無表情に。手を振ることなく。
 これで余計な作業も終了。
 彼の脳から私の全ての情報を幽禍《かすか》として抜き去った。会話したことも私の顔も、一切だ。つまり、私の体内に確保されている。
 新月を過ぎれば私に巣食うことになるけど、仕方がない。小さな闇だから、一日ほど吐き気や目眩などが襲う、乗り越えられる程度だ。

(まっ、彼のお陰でターゲットに近づけたから良しとしよう)


 しかし……良し、とはならなかった。

 6日のネットニュースで、瀬良正輝の死去情報があった。なのに、翌日想定外の連絡が専用SNSに届いた。
 私の活動を把握してのことだろうけど、相手は大阪府警に属するNS《ネス》側の警部補からだ。

『5日AM6
 瀬良自宅心臓発作
 搬送先死亡確認
 公安K病院転送
 PM蘇生
 深夜退院
 居場所不明
 蘇生前奉術師数人有』

 意味を理解した私は怒り心頭。
 なぜ公安が暴力団幹部《元ターゲット》を蘇生させたのか、知りたかった。すぐに答えが来た。

『未確情報
 極秘調査
 府警内腐察官
 丸B影有
 瀬良情報取引?
 事前処理
 L13依頼可能性大
 警官刺殺事件&妻事実』

 復讐をネタに私(L13)に処理させた、ということなのだろう。暴力団(丸B)と繋がる警察官(腐察官)が保身のために、遺族を焚《た》き付けたと予想出来た。
 ただ、私の怒りはそこではない。
 苦労して演技までして処理した対象者《ターゲット》が、蘇生したのだ。それも奉術師《ほうじゅつし》によるものだから。

 それが出来る奉術師《ほうじゅつし》は、命毘師《みょうびし》しかいない。

 接触することはこれまでなかったが、立場の違う命毘師への敵対心と憎悪は、このことで強くなっていく。

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