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未完成だからこその良さを楽しめる、そんな大人になりたい(『菜根譚』後集百二十三)

今回取り上げるのは『菜根譚』後集百二十三からの言葉。

花は半開を看、酒は微酔に飲む
(読み:ハナはハンカイをミ、サケはビスイにノむ)

『菜根譚』後集百二十三

花は五分咲きを見るのが良く、酒はほろ酔い程度に飲むのが良い、という意味。

つまり、何事もほどほどが良く、むしろ完全ではないところに趣を感じるのだ、ということですね。

膨らみかけの花の蕾を見て春の訪れを感じたり、色づき始めた木々の葉を見て秋が来たんだなと感じたり。

そういった移りゆく姿に風情を感じるのも良いですよね。


こちらでご紹介した『老子』の話にもありましたが、完成していないからこそ、物事はさまざまな可能性に満ちているのです。

人もそうですし、植物だってそう。

完成した姿ももちろん素敵ですが、未完成だからこその趣もまた良いものだと思います。

最近はすっかり涼しくなり、気づけば紅葉も始まっているそうですね。

関東は来月が見頃のようですが、山々が鮮やかなグラデーションに包まれる様子は、いつ見ても綺麗だなと感じます。

完全に色づいてしまうとあとは散ってしまうだけなので、どこか儚さも感じてしまうからかもしれません。

色づくまでの間は純粋に秋を楽しむことができますし、日中も涼しくて過ごしやすいので、秋は割と好きな季節です。

紅葉が見頃になると、次は冬支度を意識し始めなければならなかったり、師走が近づいて仕事が忙しくなったりしてしまうので、個人的にはあまり風情を感じる余裕がなくなってしまうんですよね。

心に余裕がなくなると、周囲のちょっとした変化に気づくことができなくなってしまいます。

マインドフルネスで大事なのは「今、ここ」に集中することです。

過去でも未来でもなく、目の前のことに集中する。

そうすることで頭と心の中の雑念が消え、今起きていることを全身で楽しむことができるようになります。

高名な禅僧であるティク・ナット・ハンさんは以下のように述べています。

過去にとらわれたり、未来を恐れたりしてはいけない。怒り、不安、恐怖に支配されるのではなく、今この瞬間に集中し、人生を楽しもう。それがマインドフルネスである。

ティク・ナット・ハン

『GRATITUDE 毎日を好転させる感謝の習慣』という本で紹介されていた言葉です。

こちらの本には科学的な話はあまり出てこないので、人によっては微妙に感じるかもしれないのですが、感謝に対する考え方や人と自然との関係についての価値観には老荘思想に通じるところがあり、なかなか良い本でした。

特に、ティク・ナット・ハンさんの言葉の「今この瞬間に集中し、人生を楽しもう」というところが、『荘子』の言葉にも通じるものがあって、お気に入りです。


中国古典には花や酒などの身近なものをテーマにした言葉が多いのですが、それは昔の人に心の余裕があったからかも、と思っています。

心に余裕があるからこそ、今その瞬間に集中できるのだと思いますし、

今その瞬間に集中しているからこそ、身の回りの些細な変化に気づき、それ自体を楽しむことができるのではないでしょうか。

私も最近は心に余裕が足りていないので、一度リラックスして、今この瞬間の変化を楽しめるようにしたいと思います。

花は半開を看、酒は微酔に飲む
(読み:ハナはハンカイをミ、サケはビスイにノむ)

『菜根譚』後集百二十三

何事もほどほどが良く、むしろ完全ではないところに趣を感じるのだ、という言葉をご紹介しました。

完全ではないところに目を留め、その変化を楽しみ、趣を感じることができる。

それってとても素敵な過ごし方だと思います。

せかせかしてばっかりいないで、ちょっと立ち止まり、目の前のことに集中する。

そんな心にゆとりのある暮らしを大切にしていきたい今日この頃です。


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