100文字ノワール No.58-76 2020.7.22~2020.7.28
ハードボイルドに似合うのがモダンジャズなら、ノワールに似合うのはブルースか、いっそのことパンクロックだ。長く書いてはいけない。ドカンと一発心臓に撃ち込む。一発にすべての力を込める。
ノワールは敗残者の叫び。倒された者の呻き。虫けらたちの呪詛。
今週も楽しいノワールを書きました。力いっぱい叫んでます。無意味な暴力。逃走と死。嫌悪と悪意。そんなものを書きました。
58.
「死にたくねぇよぉ」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 22, 2020
「傷は浅いぞ。生きて帰ろうぜ」
「俺、何かの役に立ったのかなぁ」
「いや全然」
「ごめんよぉ」
「謝ってどうする。賢いヤツにでも生まれ直してくるか？」
「分かったぁ」
「分かってどうすんだよ」
#100文字ノワール
二人とも死んで終わる未来が見える。一人は本物のバカで、もう一人はちょっとだけバカだ。
59.
まだ生きてやがったか。とっくに死んだと思ってたよ。あぁ、心配しないでもいい。もうそんな仕事はしてねぇし、お前を殺そうなんて微塵も思ってねぇよ。馬鹿騒ぎしてた頃が懐かしいな。まぁ座れって。タバコ吸うか？ #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 22, 2020
あれからどうしてた？ へー、真面目にやってたんだな。俺か？ 俺は10年喰らったよ。俺たちはあの辺りから散り散りになってな。もう誰も連絡つかないんだ。ホントさ。何を警戒してんだ？ 変わらねぇな、お前は。（100文字）
60.
花の好きな子でしたね。子供の頃は一緒に花摘みしたもんよ。この辺たくさん花が咲くんです。ええ、仲良しだったわ。母親同士が「そんな関係」になってから疎遠に。言わなくても分かります。あの子、死んだんでしょ？ #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 22, 2020
自殺ですか、他殺ですか。捜査中？ 私ですか？ 昨日は何してたっけ。
61.
いいか良く聞け。お前は若い。未来がある。俺にはねぇよ。老いぼれだしな。お前だけはこんな地獄から抜け出せ。今なら誰も警戒してねぇ。火事のことで大騒ぎだ。逃げろ。今まで世話になったな。行けよ。行くんだよ！ #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 23, 2020
もたもたしてないで、さっさと逃げるべき。
62.
「お前、ボスの女と寝たって？ 殺されるぞ」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 23, 2020
「覚悟してます」
「いい女だったろ？」
「目元のホクロが色っぽくて」
「え、お前誰のこと言ってんだ？」
「ボスが姉さんって呼んでる人です」
「あー、そりゃボスの女房だ」
#100文字ノワール
よくやったと褒められるかもしれない。妙に使い勝手のいい子分。
63.
「お袋が言ってた。『優しいだけの人間を信じるな』ってね」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 24, 2020
「まるで俺のようだな」
「ふっ、そうだね。おかげで楽しい旅だった」
「楽しかったな」
「さて、行くか」
二人は外へ飛び出す。銃弾が嵐のように降り注いだ。
#100文字ノワール
二人の身体は踊るように地上10センチのところを舞った。奇妙なダンスだった。
64.
俺は街には戻らないよ。街を出たから、強盗だの殺しだのに手を染めずに済んだんだと思う。食うために、生きるために、俺はなんでもやっただろう。今の暮らしが気に入ってるんだ。俺は戻らないよ。話しても無駄だぜ。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 24, 2020
お前の腕を見込んでたんだがな。ところで、お袋さんは元気か？
65.
「あんた、何かヤバいことに足を突っ込んでるわけね？」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 24, 2020
「突っ込んでねぇよ」
「嘘だね。顔見りゃ分かる」
「ヤバくねぇし」
「どうせまた失敗する。だってあんたバカなんだから。使い捨てにされて終わり。いつもそう」
#100文字ノワール
男は勢い余って思わず計画を漏らしそうになった。金ばかりかかる女だ。でも離れて暮らすなんてことはできない。ギリギリと歯噛みするしかなかった。
66.
一度しか言わない。お前の母親を殺したのは俺だ。嘘じゃない。お前を育てることになったのは偶然だ。気まぐれかもな。お前のおかげで、俺は人間になれた気がする。感謝してるよ。もう逃げろ。奴らは俺が足止めする。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 25, 2020
更生しようとしてできなかったんだね？
67.
「みんな嫌いだ」と男は言った。
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 25, 2020
男は多くの人を救ってきた。性別も年齢も関係なく、公のために救っていた。
「みんな友達よ」と女は言った。
女は多くの人を殺してきた。性別も年齢も関係なく、金のために殺していた。
#100文字ノワール
どっちも正しく、どっちも間違っている。
68.
俺には残さなきゃならないものがある。このクソみてぇな街とクソみてぇな仲間だ。ゴミだらけの街に住む垢まみれの連中。何もかも呑み込んでいくのに、何も生み出さない。ギラつく太陽と、星のない夜。そんな街をな。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 25, 2020
クソみてぇな街がなくなって、クソみてぇな連中がいなくなったらどうなる？そんな世界にお前は生きていたいか？
69.
悪いけど、お前とはここでお別れだ。後は好きに生きろ。嫌いになったわけじゃない。俺たちは一緒にいたらダメなんだ。お前は女だ。稼げる道はあるさ。美人だしな。俺の顔の傷は消えない。罪も消えないんだ。一生な。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 26, 2020
また会えるさ。ヨボヨボになってから会おうぜ。長生きしろよな。
70.
山では動物が死んでるだろ？ なんで山が死体だらけにならないんだ？ カビだのバクテリアだのが分解してんだよ。俺たちも一緒さ。何？ あぁ、それな。アクセサリーとか死体に残ってるもんはもらっちまっていいぞ。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 26, 2020
ちょっとしたご褒美だと思えばいい。気にせずもらっとけ。お前のだ。
71.
その拳銃は下ろして。私、あなたのお姉さんの友達。頼まれてここに来ただけ。あなたの敵じゃない。味方でもないけど。私を殺したら面倒なことが起きる。あなたにとっても、お姉さんにとっても。脅しじゃない。必然。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 26, 2020
落ち着いて。そうそう。あなた可愛いじゃない。ちょっと気に入ったわ。
72.
男には、その女の言っていることが全然分からなかった。女は美人で、素敵なおっぱいとイカした尻を持っていたが、話している内容の意味が分からない。インテリというヤツだ。男は犯すか殺すかの二択を迫られていた。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 27, 2020
73.
「あーなんていうか」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 27, 2020
「何？」
「君は素晴らしいおっぱいの美人だと思うんだよ」
「ありがと」
「でも何を言ってるのか全然俺には分からない」
「そう？」
「これ以上話しても無駄だと思う」
「人を殺してきてくれない？」
#100文字ノワール
74.
「君には俺がどう見えてるんだ？」
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 27, 2020
「悪い人」
「君は面白いな」
「女の頼みは断れない人に見えるわね。人殺しなんて簡単。そうでしょ？」
「初めて会った人間に頼む内容じゃない」
「私はあなたのこと良く知ってるわよ」
#100文字ノワール
「俺の何を？」
「そうね、狂犬だとかそういうの」
75.
人を殺すのに刃物も拳銃も要らない。気温十五度の雨の日に野外に放置されたら、人間は一晩で死ぬ。拳銃で頭を撃っても、脳幹が破壊されていなければ生き延びる可能性もある。人間は簡単に死ぬし、簡単には死なない。 #100文字ノワール
— 白瀬コウ (@Kou_Shirase) July 28, 2020
死んだように生きる人間もいるし、死んだのに生きているように感じられる人間もいる。
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