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地方で出版社をつくる【其の七】新刊を出す

其の六で書いた復刊の本がようやく5月末に刊行(予定)できることになった。題名は『放浪の唄ーある人生記録』。最後の放浪詩人と言われている「高木護」の名を世に知らしめた、1965年に刊行された名編の復刊。(本の詳細は下記のリンク先をぜひぜひどうぞ)

刊行までに1年近くもかかってしまった。これは虹ブックスのオープンと運営(その話は「地方で出版社をつくる【番外編】山のなかに読書室をつくる」を参照)があったのはもちろんなのだが、一からの本づくりはやはり時間がかかる。例えば判型。当初はB6版で作る予定だったが、途中から新書版にしようと考えた。これは「放浪の唄」という4文字を表紙にタテ書きですっきりと収めたかったのだ。だが、それには新書版はわずかに小さく細かった。そこで、B6の横を1センチ短くするという「B6変形版」に落ち着くまで、かなりの時間を要してしまった。

判型が決まれば次はページ。まずは1ページに収める行数と字数を決めねば本文は組めない。元本が2段組ということもあり、当初は2段組を考えていたが(ページ数が少ないほど印刷費も抑えられるので、小さな版元にはとても重要)、しかしB6版の2段組はあまり読みやすいとはいえない。そこで印刷費のアップを覚悟して2段組を断念。嵩高(かさだか)の用紙が好きなため、それなりに本が厚くなってしまうと思ったが、最近は「鈍器本」流行りだから、むしろ良いのかもしれないなと(送料問題はスルー)。ちなみに、用紙はモンテシオンにする予定だったが、同じ用紙を採用した『杉並区長日記ー地方自治の先駆者・新居格』(2017年)が、刊行後数年経って「紙焼け」がかなり目立ってきているのがとても気になっていた(それが魅力という人も)。そこで、同じ嵩高だが、退色しにくいラフクリーム琥珀を採用することにした。

などと本当に細かいことを、虹ブックスの運営と3人(小学低学年1人、保育園2人)の子育てしながら決めていたら、あっという間に半年が経っていた。そして、組版。普通の出版社はもちろんだが、最近の売れっ子〝ひとり出版社〟も組版は外部に出していることが多い(と思う)。がしかし、困ったことにわたしはInDesign(というレイアウトソフト)で文字を組んで紙面を作り上げていくのが大好きなのだ。おかげでここでの時間短縮は期待できない。さらにまだフォント選びもあるのだ(これがまた楽しい)。当然、そこにも時間がかかってくる。そんなこんなで、それなりに時間がかかってしまうのである。

しかも(まだ続くのか)、こういう復刊の場合は基本的にデジタルデータがない。そこで本文テキストをデジタル化するための入力作業が必要になる。先の『杉並区長日記ー地方自治の先駆者・新居格』は全て自分で入力作業をした(スキャンして文字を読み込むのと音声入力の精度を両方ためした結果、後者を選択)。だが今回は、判型や用紙、フォントを選んでいる時点ですでに年末を迎えていた。当初の刊行予定は「秋」。とっくに過ぎていた。許諾をいただいたご遺族(高木さんは2019年に逝去)には「来春には出します」と釈明していたので、ここからちまちまと入力していたのでは間に合わない。そこで、前作から校正をお願いしていた方に入力からお願いすることにした。結果、かなり正確に入力していただくことができ、これはお願いして本当によかったなと心底思ったのであった。

冒頭に「5月末に刊行できる」と書いたが、あくまでも予定であり、じつはまだ印刷所に本文データを入稿していない。絶賛校正中なのだ。だが、本というものは(他の商品もそうだろうが)、1ヶ月以上前には取次会社にお知らせしたり、書店に営業しなければ(そして何より売ってみたいと思ってもらうための魅力を伝えなければ)、刊行日に本が書店に並ぶことはない。というわけで、残りわずかの刊行予定日まで突っ走るのみである。


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