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法令を勉強し直すと、実地指導をする側の視点が分かってくる

実地指導は介護保険サービスを行っている事業所に対して行われる、法令遵守に適用した運営をしているかの実地点検だ。

この実地指導を訪問介護の管理者として2回の実地指導を経験したが、それを踏まえて感じたことは「実地指導に臨む前に基本的な法令を見直すこと」の重要性だ。

日常において定期的に法改訂や解釈について調べたり、自分たちの事業所における法令遵守の適切性を徹底して協議している事業所ならば、いざ実地指導となっても指定された書類を準備するだけで問題ないだろう。

しかし、ほとんどの事業所は改めて自主点検項目を見たとき「この内容はどういう意味?」「この項目、うちの事業所はやってないのでは?」などと狼狽するのが普通だ。これは実地指導に限った話でなく、突発的な国からの通知や指定更新といったタイミングでこのような事態になる。

しかし、私はこのような事態になったらチャンスだと思っている。ひどい言い方になるが、事業所内が不安や混沌に包まれるほど、法令遵守に即した体制に改善をするうってつけの状況である。
と言うのも、こういう危機的状況にならないと「自分たちはこのままやっていける」という(ある種の自己防衛的な)現状維持を望むのが人間の性だ。
そこにいくら「現代ではこのような背景から、このテーマに対して法整備を徹底しなければいけない」と訴えたところで、現場の忙しさを理由に聞く耳を持たないのが現実だ。

・・・何だか愚痴っぽくなって申し訳ない。しかし、日常的にこのような啓蒙活動をしておくことは大切ということも言いたいと思っていただきたい。

さて、改めてお伝えすると、実地指導の前には現在の法令や制度などを改めて勉強し直すことをお勧めする。

特に実地指導にあたっては「人員基準」「設置基準」「運営基準」、そして事業所の体制によっては加算要件は解釈も含めて把握しておくべきだ。
また、高齢者虐待・身体拘束の防止、個人情報保護、メンタルケアを含めた労働管理などの社会的テーマに対しては、別枠での再確認が必要だろう。

と言うのも、これらの基本的な法令を知らないまま、ただ指定された書類を準備して実地指導に臨むと、実地指導の担当者が何を言っているのか分からないことになってしまうからだ。
そのような態度は実地指導をする担当者にも「この管理者は運営に関する法令を知らないのだな」と伝わってしまい、より徹底した指導が必要だと厳しい目で見られてしまうことになる。
また、法令では当たり前に使われている言葉や言い回しを知らないと、実際にはちゃんと書類などを整備しているのに、先方から要請されたことにちゃんと返答できないことにもなりかねない。つまり、ちゃんとやっているのにやっていない、と見なされて指導されてしまうことになるのだ。

・・・実は上記は、私の同一法人内の事業所で実際にあった話だ。実地指導後に指導を受けた項目を確認していると「あれ? これは事業所内でちゃんと書類が保管されているはず」と判明し、当時のやり取りを立ち会った管理者へ確認したところ、実地指導員から問われた内容をうまく理解していなかったということが原因と分かった。これもまた、運営視点になりにくい現場管理者のあり方に対して、私が危機感を抱いた出来事の1つでもあった。

このように、基本的な法令を勉強することもまた、実地指導対策になるということをご理解いただけると思う。
それは実地指導をする側の「言語」「文法」「文脈」を知るということでもあり、先方が問おうとしていること、言わんとしていることに寄り添うことにつながるのだ。

高齢者介護も認知症ケアもまた、相手の視点に立つことが基本のはずだ。そのためには相手のことを知ること、興味をもつことを介護職員へ提唱しているだろう。相手視点に立つことの重要性を知っているならば、ほんの少しの努力で実地指導をする側と同じ目線に立つことはできるはずだ。

では、実地指導をする側の視点に立つために、法令をどのように勉強していけば良いのだろうか?

私が推奨する方法として、まずは国が提示している「第〇条」といった文面の法令に目を通していただきたい。
インターネットに分かりやすく伝えている情報や簡易解説された書籍に頼るのも良いのだが、その前に国として本来はどのような形で示されているのかにお目通しいただきたい。

「あんな小難しいものを読んでも分からない!!」と言いたくなる気持ちは分かるが、何も内容を理解する必要はない。
大切なことは「法律ではこのように明記されているのだな」という肌感覚を持つこと。そして「実地指導の担当者はこのような文面を日常的に読んで、各事業所を回っているのだな」という実地指導をする側の視点を持つに意義があるのだ。

最後に。
本記事は、実地指導対策だけの話ではない。基本的な法令が読めるようになると、不定期に届く通知文なども読みやすくなるというメリットがある。それはつまり、多忙な中で「これってどう進めればいいの?」「何からやればいいの?」といったストレスや時間的ロスを軽減できることでもある。
また、自身の現場を見直したときに、それまで気づかなかった課題点に気づけることもあるし、介護保険の管轄部署とのやり取りに抵抗も少なくなる。

これらは私個人が実感しているメリットだが、あながち的外れではないと思っている。実際、とあるテーマに対して疑問が生じたとき、介護保険の視点を前提にビジネス的かつ他分野の法令の観点で管轄部署に質問を投げかけたところ、それが担当者側の解釈違いだったということもあった。
これはマウントをとれたという意味ではなく、こちらが基本的な知識を身に付けたうえで正当な問いかけをすると、ちゃんと向こうも変えるところは変えてくれるという、人間同士のやりとりが成立すると言いたいのだ。

お互いに良い関係で実地指導に臨みたいのは誰もが思うことだ。そのためには、面倒かもしれないが、良い機会と思ってこちらが法令を勉強するという意向をもっても損はないだろう。

ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。




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