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生産性の向上は、委員会よりも日常のやり取りと「介護の価値」を考えることが重要

■ 委員会が義務化されてばかりの介護事業


今回の介護報酬(制度)改訂にあたり、「生産性の向上」というワードが出てきたわけだが、これにより委員会を設置して定期的に生産性の向上に向けた協議を行うことになる。

感染症予防、自然災害の対策、高齢者虐待防止の推進 等々・・・これらも委員会の設置および協議や研修(訓練)をする必要がある。

国は何かにつけて委員会を設置することを義務化するわけだが、今回は生産性の向上に関する委員会もラインナップに加わった。

感染症や自然災害、虐待防止などは社会全体の問題であるので委員会を設置することで、介護業界の体制を整備しようとするのは理解できる。

しかし、生産性の向上に対して委員会を設置するというのは疑問だ。


■ 生産性の向上は国から言われるまでもない、しかし・・・


と言うのも、生産性の向上とはいわゆる事業におけるマネジメントの話であり、本来であれば国が口を出すべきことではないからだ。

確かに介護の仕事は介護保険制度によって成立しており、いくら民間企業が事業運営しているとはいえ、その管轄は国や市町村である。

しかし、そのような介護の仕事でもビジネスであることに違いはない。ビジネスとして捉えたときに、国から「生産性を向上するように話し合いをする機会を設けて、それを実施しなさい」というのは違和感を抱く。
まるで親が子供に「将来のために勉強しなさい」と言っているみたいだ。

もちろん、人手不足の介護業界において、限られた人材で既存業務を効率的に運用することは大切である。しかし、辛辣なことを言えば、国から言われてようやく生産性の向上に目を向けたり、面倒くさいと思うような事業所は淘汰されていくだけだと思う。

むしろ、自発的に生産性の向上に係る取り組みをしなければいけない。

「現場のルーチン業務をこなしていれば良い」「高齢者というお客さんはたくさんいるから介護業界は安泰だ」なんて甘い考えでは、いくら社会的ニーズが高い介護であってビジネスとしては続かない。

しかし、そのような事業所や施設が多いからこそ業界は衰退しているのだと思う。職場やスタッフのアップデートをマネジメントに加えなかったり、DX化としても「パソコンは苦手だから」などの先入観で改変を先延ばしにしたり、そして結果的に介護業界に魅力を感じない労働者が増えたりと悪循環を辿っているのが現状の介護業界ではないだろうか。

だから、国からわざわざ「生産性を向上しなさい」と言われてしまうのだ。


■ 日常でのやり取りこそ、生産性の向上に係る委員会


――― しかし、国が言うような委員会の開催やICTの活用といったカタチから入る必要はない。
と言うのも、実は多くの介護現場および運営においては、すでに生産性の向上に係る話し合いがなされ、それを実行しているからだ。

別に委員会を開催せずとも、「〇〇さんの介助は大変、何とかならないかな」とか「この書類作成、もう少し簡単にならないかな」といったやり取りは誰しも日常的に行っているはずだ。

別に高い経費をかけてICTツールやセンサなどを導入しなくても、その前に「こうしてみようか」「あれを使ったらどうか」といったアイディアで乗り切っているだろう。

このような日常のやり取りだって、生産性の向上ではないだろうか?

おそらく生産性の向上に関する委員会を開催したところで「えーっと、最近困ったことはないですか?」と聞いて「人手が足りません」で終わるのが関の山だと思う。

せっかく委員会を開催するならば、日常的な困りごとやアイディアを募っておいて、それを話し合って委員会の開催としたほうが有意義と言える。


■ 「介護の価値」を考える


体制を整備するとは、話し合いの機会を強制的に設けることでも、デジタルツールや便利グッズ、高額な備品や設備を導入することではない。

まずは自分たちの事業所や施設における現状を把握して、そこで目に見える課題をピックアップし、「自分たちにとっての生産性とは何か?」を協議することが大事である。

すると目に見える課題の根本来な原因が浮き彫りになっていき、そこで初めて「じゃあ、どうするか?」「何が必要か?」という議論になる。

生産性の向上と言って最初から方法論や物品ばかりに目を向けていると、生産性どころか無駄な動きや不要物ばかりが増えて事態は悪化しかねない。

・・・と、何だか抽象的な記事となったが、それは介護業界における事業所や施設ごとに生産性の定義は異なるからだ。突き放すような言い方だが、自分たちの職場の発展は、結局は自分たちで考えるしかない。

あえて共通事項を言えば「介護の本質的な価値は何か?」「本質的な価値を生み出すために自分たちが提供できることは何か?」を考えることが大切なのだと思う。

私は介護事業において経営と現場を行ったり来たりしているが、事業がうまくいないときには、このような介護の価値を考えることを疎かにしてしまっている自分に気づくことがある。

疎かにしていたことに気づかないまま、この10年の間に施設や事業所などを閉鎖した経験もある。そのようなことからも、生産性の向上というテーマ
を国から義務事項されたときに、この事業はまだまだやることがあると思っている次第だ。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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