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「即戦力求む」なんて思考のままでは、新人職員が入ってもすぐ辞退してしまう

■ 介護職員の入れ替わりで見えてきたこと


ここ1年間、運営している介護施設の職員の入れ替わりが進んでいる。

それは退職が相次いでいることに起因するが、それに対する人員補充としてハローワークや人材派遣などを経由して色々な求職者を採用している。

介護経験がない人もいれば医療福祉経験者もいるし、介護経験はないけれど他業種で夜勤経験をしている人もいる。介護の仕事を経験者してきた人もいれば、仕事ではなく親族の介護を経験してきたという人もいる。

そんな多種多様で年齢幅も様々な求職者を採用しているが、「じゃあ、今日からみんなと同じように働いてね」というわけにはいかない。

いくら就業意欲が高くても、バリバリの介護経験者であっても、その職場においては何も分からないため、いわゆる新人研修を行うことになる。

おそらく、多くの現場仕事では先輩職員に同行して「まずはコレコレを覚えてね」「まずは見ていてね」「じゃあ、やってみようか」「分からないことがあれば聞いてね」といったOJT形式となる思う。

しかし、ここ最近になって分かったことは、OJTのような実地型を主とした研修だけでは、入職者が定着しにくいということだ。

実際、職場でそこそこ長く勤務している職員に新人教育を任せてみると、新人職員から「やることが多すぎて不安です」と言われて研修中に辞退の相談を受けることが徐々に増えている。

今のところ、現場とは別枠で面談をすることで新人職員の不安は解消できているが、この先もどんどん対応が変わっていくと予想される。
時代にともなう働き手の考え方の変化であり、それに対して教育法も変化させていく必要はあると思う。

「最近の人はだらしない」みたいな排他的な考えをしていては、その職場に誰も寄り付かなくなり人手不足で事業閉鎖となってしまう。


■「即戦力求む」はもはや時代遅れ


もちろん、OJTのような実地で覚えていくスタイルも必要である。
しかし、見取り稽古のような研修だけでは入職者は不安になるようだ。

ここでOJTのような実地型の研修が主となる理由は、おそらく「ウチに応募してきたということは、そこそこのスキルや常識はあるだろう」という前提があるからだと思う。

なぜそのような根拠のない前提を据えてしまうのかと言うと、「企業の求人=即戦力求む」という認識があるからだと思う。

以前ならば「即戦力求む」というフレーズがあったが、少子高齢化で労働人口が減っている(いわゆる人手不足)の時代において、そんな都合のよいことは言っていられないのが現実だ。

そのため、今や「未経験でも歓迎」というフレーズを見かけても不思議ではない世の中になっている。かつては人材を選ぶ立場だった企業も、現在では求職者を歓迎しているという状態である。

もちろん、できればスキルがあったほうが良いだろうが、経験があっても未経験でもしかるべき基礎教育を行うことが当たり前になっている。
職場によってはエルダーメンター制度や専門の研修機関が整備されていることもある。求職者もこのような教育体制を見て応募するだろう。


■「即戦力求む」という夢物語


しかし、このような時世にも関わらず、未だに「即戦力求む」という思考の職員や職場は残存している。
実際、このような思考をしている職員は「若くて体力があって、機転をもってテキパキ動ける人が欲しい」と要望をしてくる。「そんな人はいないよ」と言いところだが黙っている。

探せばそのような人材はいるだろうが、高望みしていてはキリがない。
もはやロボットでも採用したほうが良いのではと思ってしまう。

いや、このような「即戦力求む」という思考の人は、もしかしたら自分の言いなりになってくれるロボットのような人材を求めているのかもしれない。

実際、このような思考をする傾向の職場あるは職員は、せっかく入ってきた新人職員に対して過度に期待しすぎるため、詰め込むように業務を教えたりキツイ口調で指導してしまう。

しかし、その結果として新人職員から「やることが多くて、この先もやっていけるか不安です」として辞退を考えるようになる。
その一方で、「即戦力求む」という思考の職員は「あの新人は教えてもなかなか覚えない」「もっと良い人を入れて下さい」といった不満を言い、決して現れることのないロボットのような人材が来ることを要望する。


■ ポイントは「ここなら働けそう」という安心感


おそらく、「即戦力求む」という思考の職員に悪気はない。その人なりに教えることで新人職員の成長を期待している。

しかし、現代では「この仕事を早く覚えてね」みたいな教え方では、すぐに辞退してしまう。それは「この職場にいると、このようなキツい思いをずっとするのかも・・・」という不安が頭をよぎるからだと思う。

職場全体を安定させるためにも、仕事を教える側としては新人職員に早く即戦力になってほしいという気持ちはあるだろう。そうして、まるで詰め込み教育のように業務を次々と教えてしまう。

ときには数日しか研修していない新人職員に対して「この間教えたでしょ」「もう✕日間やってるんだから、そろそろ覚えてもらわないと困る」といった無茶ぶりを言う指導員もいる。

しかし、それでは新人職員は精神的に折れてしまう。その結果「ここでは働けない」と思うようになってしまう。

そのため、OJT形式であったとしても最初から実務を詰め込むように教えないほうが良いだろう。それは次のステップとするのが望ましいと思う。

最初のステップで大切なことは、新人職員に「ここなら何とか働いていけそうだな」という安心感を与えることである。

そもそも、新人職員は新しい環境で緊張している。そのような学習を受け入れする体勢が整ってない精神状態において、新しいことを次々に覚えさせようとしても修得は難しい。

そこで、その職場に対する安心感の第一として人間関係づくりがポイントになると思う。


■ とりあえず新人職員を連れて挨拶回り


細々と業務を教えるよりも先に、その職場で働く人たちと話しやすくる関係づくりをする機会を設けたほうが良いだろう。

指導員とは別に、何か困ったことがあるときに話せる誰かがいることは心強い。但し、話しやすい人というのは人それぞれなので、まずは一通り職員たちと新人職員を顔合わせしておくことをお勧めする。

私は人事としてオリエンテーション的なことを済ませたら、新人職員を連れて施設内で挨拶回りをしている。
職員ごとにシフトはバラバラなので2~3日間に分けて新人職員と施設職員の顔合わせをしている。同一敷地内に他ユニットがあれば、そこへも足を運んで新人職員の紹介をしている。また、可能であれば同一法人が運営している他施設にも顔出しすることもある。

これは新人職員の人間関係づくりもあるが、あちこち回ることで職場の全体像を見せることも期待している。また、こうでもしないと同じ敷地内で働いているのに、お互いのことをほぼ知らないということにもなりかねない(というか、少なくない)。


―――何だか、新人職員に対して至れり尽くせりな印象を抱いたかもしれないが、現代の働き手というのは賃金や福利厚生なども大切にしつつ、働きやすい職場環境としての安心感も重視しているように伺える。

そのため、職場として即戦力になればと業務内容を詰め込もうとすると、下手したらブラック企業扱いされてしまいかねない。その誤解を解くためにも、まずは職場で人間関係づくりや雰囲気づくりをして安心感を与えつつ、実務的なことを覚えていくことで個人を確立することが必要だと思う。

まぁ、そこまでしても定着しないことはある。そうなったらご縁がなかったと諦めるしかない。次の職場は安心して働けることを祈る、というものだ。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。


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