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言語獲得と思考力発達の視点〜もし〇〇な子が産まれたら

 突然ですが、生まれてきた子が「耳が聞こえない」と分かったらどうしますか?

 ドラマ『silent』でも聞こえなくなった主人公、想の姉が自分の子のことを案ずるシーンがあります。
自分の子だったら…不安に感じた方もいるかもしれません。
私は子どももいませんし「不安に思うな」「悲しむな」とか安易なことは言いません。権利もないです。
ただ考えておく、知っておくことはそれを和らげる一つの要素にはなり得るのではないか。
この記事はそのキッカケだと思ってください。

 医療の詳細を書くつもりはありません。
医師がするのはあくまでも、障害、病気の治療、対応なので、
私は違う視点を書きたいと思います。

 医療に重きがあるため、見落とされがちな視点です。
なのであえて重点的に説明しようと思います。
そのため多少公平性に欠けるかもしれません。
私の意見はあくまでも参考程度に見流してくださいね。

違う視点とは?

 一般に赤ちゃんには沢山話しかけるといいと言われます。
刺激になりますし、言葉を身につけるスピードも違うのでしょう。
更に言葉が身につけば自分で考えたり、思ったりという思考や情緒的な部分も発達しやすいのではないかと思います。

 そういった言葉の獲得からの思考、情緒の発達は、意識せずとも産後すぐ取り組むものでしょう。
3〜5歳の壁など未だ明確でないようですが、母語を幼児期以降に取りかかって身につけさせるのはなかなか難しいでしょう。
無理だとは言いませんが、敢えて幼児期になるまで言葉に触れさせない親はいない訳で、
寧ろ成長のためにもできる限り早くから言葉に触れさせたい。

 聞こえの治療という視点と共に、言語獲得や思考発達は大事な視点なのです。

聞こえないと分かったら

 医師から「人工内耳」を勧められるかもしれません。
人工内耳とは、手術で頭に電極を埋め込み音を認知するものです。
(詳細は添付の記事をご覧ください)

 この機器を埋め込むことについて、医師から説明があるでしょう。

・安全性は高まっている
・そのため1歳から手術可能(年齢は変動の可能性あり)
・今は多くの方が装着している
・装着しきちんと聞こえるようになった方もいる

もちろんデメリットも提示されます。

・手術して終わりではなく、調整や訓練が必要
・後頭部に機器が見えるのが痛々しい
・必ずしも聞こえるというわけではない(が高い確率で音を認識できるようになる)
・中には麻痺等の障害が残った方もいる(割合はすごく低い)

 ここまで聞けば、子ども頭に機械を埋め込むことに抵抗を感じつつも、手術を受けようと思われる方もいると思います。
赤ちゃんの意志は確認できませんから、手術は親御さんの判断。
もちろん、私もそれは止めません。

 私が気にしているのは「聞こえ」たから「早期の言語獲得〜思考の発達」もクリアできるとは限らない、
別で考えていかなければならない、ということです。

医師が聞こえると言ったから…

1歳児の調整、訓練

 人工内耳は術後、音がどのように聞こえているのか、聞こえづらくないかを確認して、調整や訓練を行います。
それによってより自分に合わせていくのです。

 1歳の子にそれができるのでしょうか?
それまで一度も音を聞いたことがなく、
音声言語の存在すら知らず、
自分が泣いている時に声を出していたことさえ知らないでしょう。

 機器を調整し言葉を認識し、聞き取れるように更に調整訓練するのはずっと後になるかもしれません。
1歳と言えば一般的には言葉を話し始める時期でしょうか?
人工内耳を埋め込んだことと、声で話せることを結びつけるのは容易ではありません。

聞こえる=聞き取れる ではない

 人工内耳をつけたことで、音に反応するようになるかもしれません。
これだけ音が聞き取れているから、言葉も聞き取れているはず。
実際そうなのでしょうか?

 私たちは聞き取りたい音だけに注力する力を身につけています。
補聴器や人工内耳では難しいところ。
雑音の中で、言葉を抽出し聞き取れるようになるのか。
それを意識し調整するのは、それこそずっと後になるかもしれません。
調整がつかないかもしれません。

 せっかく付けた補聴器や人工内耳を外している方を、見たことありませんか?
雑音(ハウリングも)等が気になり、付けているのが辛くなった方々もいます。
私たちは耳で「聞いている」だけのようで「聞き取る」力も身につけているのです。

医師が聞こえると言ったから

 ここまでくると、
「医師が勧めたから付けたのに」と医師を批判したくなる方や
「結局、人工内耳の批判してるだけじゃないか」と私に違和感を覚える方も出てくると思います。

 まず、医師は嘘は言っていません。
「聞こえない」を治療する観点から人工内耳を勧めています。
それもデータ基づいて。

 「聞こえた方もいる」「話せるようになった方もいる」
数十dB聞こえたとしても、言葉も正確に聞き取れているか。
正面なら口も見えるし言葉が分かるけど、後ろから話しかけたら雑音に混じって全然振り向かない、
向き合っていない限り周りからは言葉を吸収してないかもしれません。
前のめりに聞けば調べてくれるかもしれませんが、
実体験のない医師には明言できない範囲かもしれません。

 また私も、言い方に配慮が足りない可能性はあっても、人工内耳を批判するつもりはありません。
聞こえるのかもしれないし、言葉が聞き取れるようになるのかもしれません。治療的機能は疑っていません。

 ただ人工内耳が、
言語獲得やその後の思考発達の視点までも保証するものではない
ということ。

 大事なのは、視点を意識して考えること。
人工内耳は聞こえるようにしてくれるかもしれませんが、
装着まで言語に触れてこなかったことが、“考える力”の発達に影響を与えるかもしれないし、
人工内耳だけでは言葉も聴者並みに身につかないかもしれない。
「医師の話を聞いて手術したのに、思っていた結果と違った」
とならないように、
意識して考えておくことが大切だと思います。

じゃあどうしたらいいのさ

 投げ出すようで申し訳ないですが、
私にこうしろという権利はないのです。
正解も分かりません。

 ただ私なら「考える力」を身につけるのが1番大切だと思っているので、考えるために必要な母語を身につけさせたい、空白期間なく産まれてすぐから“言葉のシャワー”を浴びせたいと思います。

 ここからは私ならそのためにどうするか勝手な意見を述べます。
投げ出して終わる訳にはいかないので、述べるだけ。
“正解”は知りませんので、真似する必要はありません。
気になる方は参考にしてください。

1歳児の思考の発達を実感

 ろうの友人に赤ちゃんが産まれ、1歳ごろの動画を見せてもらいました。
友人と、別のろう者と一緒に会話する動画です。

ろう者「何歳になったのかな?」
「1(歳)」
ろう者「(いじわる)10歳?」
「…😳(初めての単語にびっくりで言葉も出ない)」
友人「笑 ほら、“10歳じゃない、1歳”って…」

 1歳児が質問の意図を理解し、会話しています。
これを見たとき、
「聴覚に障害があるなら、多少聞こえていようと
産まれてすぐ手話がある環境に身を置かせたい」
と思いました。
この会話は全て日本手話で行われたもので、手話言語なら子どもの聞き取り力関係なく思考が発達すると感じたからです。

ろうの子どもが産まれたらどうするか

 世の中には手話を学ぶと日本語の発達が遅くなると言う方もいます。
それについて私には真偽は分かりません。信じるかはそれぞれです。

 ろうの子どもが産まれたらどうするか。
私はこう考えています。


 私としては思考や情緒の発達の方が大事だと思うので、そのために産後すぐ確実に触れられる言語がある環境を整えたい。
今ろう児にとってその言語が手話のみなら、(多少日本語が不得手になろうとも)私は手話に触れられる環境を増やす。
それに思考が発達すれば、日本語習得について自身で後から考えられる。

 文字では、音声言語ほどの言葉のシャワーを浴びせられないと思うので、やっぱり乳幼児期の軸は手話。
(人工内耳付けるか分からないが)もし調整訓練がうまくいって言葉が聞き取れるなら、音声日本語は身につくだろう。


 考える力を育むための母語は手話。
日本語は思考を養ってから身につけるということ。

 この意見に左右される必要はありません。
もちろんそれぞれの判断になります。
あくまでも子どもを産む予定もない私の勝手な思いです。

 日本語(音声言語)獲得が大事だから、手話がその弊害になる可能性が少しでもあるなら1歳まで待って、人工内耳で聞こえるようになってから言語獲得に取り組む、という方もいるかもしれません。

 自分は手話ができないけど手話環境を整えたい場合は、明晴学園のプレスクール等もありますし、他にも探せばあるかもしれません。

 それぞれ尊重です。良し悪しはありません、というか今は分かりません。

 ただ、繰り返しですが、納得した上で判断するためにも、
「聞こえ」の視点とは別で「言語獲得〜思考・情緒の発達」を考えてみてください。


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