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明後日は雨だって #月刊撚り糸 第623話・10.7

「明後日は雨だって」窓を見ながらつぶやく妻の声を聞いた夫は、思わずベッドから起き上がった。
「それは本当か? 明後日が雨と言うのは」妻は小さくうなづく。「ええ、先ほど天気予報で確認しました。明日までは晴れるそうだけど、明後日は......」

 妻の声のトーンが低くなる。夫は窓から空を見つめながらつぶやく。「信じられん、こんなに雲ひとつないというのに。本当に48時間以内に雨が降ると言うのか!」対照的に夫の声は大きくなった。
 夫が見つめる窓の外、雲ひとつない青空が広がっている。そして間もなく刈り入れの時期に差し掛かった秋の実りが、すぐ下から地平線のかなたまで広がっていた。

「困った。その天気予報が外れるという可能性は?」「もちろん、あなたの言う通り、天気予報がパーフェクトに予報を当てることはありません。むしろ外れることが多いでしょうね。ですが」

「何だまだあるのか」「はい、天気図を確認しました。現在遥か南方に秋雨前線なるものが停滞しているそうです」
「アキサメゼンセンか、下らん! バイウゼンセンとか季節ごとに余計な名前をつけよって。前線だけでいいじゃないか。そいつが上空に来たら大気の状態が不安定になって雨が降るってことだろ」夫は不快そうに窓から目をそらすと大きく舌打ちをした。
「それだけではありません。実は熱帯低気圧が」「熱帯? ああ、もしやハリケーン」
「そう、今こっちに向かっているらしく、予想進路ではちょうど明後日にこの近くを通過するということなのよ」

「けっ、でもこうやって考えたら天気予報なんて、余計なものを考えやがって。そんなものここ100年かそのくらいに始まったものだってんだ。それ以前は、予報などなかった」
「それは暴論ですよあなた」妻がたしなめるが夫の反論は続いた。「だってそうじゃねえか。え、大体今から48時間後のことを予想して、それにいちいち怯えないといけないなんて、まったく馬鹿げていないか!」夫は再び妻の方を見て大声を出す。

「ダメです。その考えに私は賛同しません!」今回は妻も反論。「考えてみてください。例えば地震。あれはほとんど予報できません。最近こそ直前に警戒の音が出たりしますが、それも数秒前。できることと言えば、机の下に隠れるとかそれくらいです! それに対して天気はあらかじめ、それも予想進路があるから先に避難だってできるようになったのですよ!」
「た、確かにな。だけど48時間も後の予報なんて......」夫は妻の圧力に屈するように声が小さくなった。

 そして夫はまた窓を見る。やはり空には雲ひとつない天気。「ということは今日か明日中に動くしかないな。本当は明後日だと思っていたが......」

 夫はベッドから完全に出るとと服を着替え始める。「では私も準備を」妻も自室に戻ると、外に出かけるための準備を始めた。

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「しかし秋になったのに、なんだこれは?暑い!」もう10月だというのに夫は、早くも額から汗がにじみ出た。「半そでにすればよかったですわね」「いや、俺はこの赤い服が気に入っている」
 ふたりは横に広がる秋の実りを眺めながら町中に向かった。向かった先は図書館。

「それにしてもこれ。見られずに残念だったな。明後日返せばよかったんだが」ふたりは図書館で本とDVDの返却に来た。「仕方がありません。私は大雨の日に出かけたくありません。とにかくDVDのことは忘れて。明日はあなたにとって大事な面接です」と妻がたしなめる。
「だよな。会社が倒産し無職になって半年。そろそろ失業手当も終わろうとしているしな」夫の声が小さくなり、ため息をつく。

「そうですよ。なかなかあなたのスキルに合う会社なんて、中々ないんですから。それがあそこは社長が」
「ああ、同級生な。昔は大人しくて地味な男だったのに、あいつがあんなやり手とは。同級生の中で本当に出世したよ。気が付けば従業員30人抱える会社を興してさ」
「でもあそこって、気象関係の会社なんでしょ。あなた本当に大丈夫?」「わかってるよ。気象予報士だろ。次の試験には必ず合格だ!」夫は自らを奮い立たせるように誓った。

「あなた、このDVD延長できるって! 明後日みましょう」
「そうか、わかった」妻の声に夫は反応。そして妻より先に図書館のドアを開けて、外に出る。「でもこんなに天気がいいのに、本当に明後日雨降るのだろうか?」
 夫は青い空を見ながら、誰にも聞こえないようにつぶやくのだった。


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