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夢が現実にならないで 第897話・7.9

「なんか嫌な夢見たな」秀樹が目覚め、ベッドの上にいる。天井を眺めながら夢の内容を思い出す。
「なんで割れたんだろう」夢によると秀樹の目の前には仏像があった。その仏像はどこかで見たことがある気がしたが、それが何かはわからない。秀樹は夢の中で、その仏像を眺めていると突然真っふたつに割れた。驚いた秀樹が声を出したら、目が覚めたというのだ。

 夢を見ることはよくあっても、たいていは目覚めていくうちに忘れるもの。それが今日は数分間記憶に残った。
「ああ、いやな夢だったな。そうそう今日はデート、遊園地に行く約束だった。これで忘れられるかな」

ーーーーーーー
「やっぱり多いわ。でも楽しそう!」秀樹とのデートで、遊園地に来た美幸は嬉しそうに遊園地の入口で歓声を上げる。それを見た秀樹もうれしくて仕方がない。

「ここが新しくなったアトラクションか」遊園地に入り、まずふたりが来たのは、今月リニューアルしたエリアで、新しい乗り物やアトラクションが導入されたところ。「どこ行く、どこもいっぱいだけど」前を歩く美幸に、腕を引っ張られるように秀樹が後をついていく。

 美幸が歩きながら気になるところがないか探したが、ここで立ち止まる。「あ、あそこ行列できてないわ」
 美幸が見つけたのは、ホラーの館と書いているところ。「お化け屋敷か」と何気なく秀樹はつぶやくが、その後昨夜の夢を思い出す。そのホラーの館は、どちらかと言えば日本風のもの。入り口にいろんなお化けに混じってなぜか仏像の絵が描かれているが、その絵が、悪夢に登場した絵に非常に似ていたのだ。

「ちょ、ちょっと......」秀樹は思わず顔が引きつり、ホラーの館から離れようとする。
「どうしたの秀樹君?」不思議そうな美幸の表情。だが秀樹はここでホラーの館が怖いとはどうしても言えない。「い、いやなんでもないよ」ここで秀樹は、美幸が空いているからと言ってホラーの館に行かない様に、別のアトラクションがないか探した。

「あ、あれ乗りたい」秀樹が指さしたのはジェットコースターだ。美幸がジェットコースターを眺める。だが首を傾げ「でもさ、あれ結構行列ができてない?」という。美幸はあまり行列で並ぶのは好きではない。だが、このままではホラーの館の方に行きそう。秀樹はそれだけは阻止したかった。

「いいよ、だって新しくなったんだ。少しくらい並ぼうよ」と無理やり美幸を引っ張るようにジェットコースターの行列に並ぶ。

ーーーーーーー

「つまんない。こんなに待つなんて」待つこと30分、美幸はつまらなさそうに愚痴をこぼす。「でも、ほら、僕たちが並んでいたときより、もっと行列できている。あと20分くらいだからさ」

「でも......」美幸は内心絶叫系の乗り物はあまり乗り気ではない。半ば秀樹に無理やり行列に並ばされただけ。「どうせなら、観覧車とかメリーゴーランドの方がよかったのに」と不満をぶちまける。
「あとで乗ろう、もうすぐだから」美幸をなだめようとしながら、美幸が希望した乗り物を聞いた秀樹はちょっと後悔。本当は秀樹もあまり絶叫系は得意ではない。だが夢に出てきたのを連想できるホラーの館だけは避けたかったのだ。

 こうしてようやくふたりの順番が回ってきた。ジェットコースターのちょうど真ん中あたりの座るふたり。「なんか怖い」と美幸は動く前から不安そうな表情。「大丈夫だよ」秀樹は美幸の腕を握った。
 こうしてジェットコースターはゆっくりと動き出す。ゆっくりとコースターは高いところを目指した。美幸は早くも怯えて秀樹の腕をつかむ。秀樹は表向き余裕を見せていたが、内心は少し怖くなっていた。
 こうして最も高いところに到達したコースターは一気に速度を上げて落下を開始。コースター内では早くも悲鳴にも似た絶叫が聞こえる。本当に怖がっている人もいれば喜んでいる人もいるなどまちまちだ。美幸は目をつぶって恐がっている。秀樹も怖いがこらえていた。

 途中でコースターは一回転。回転時に上がるときに少し速度が落ちるが、また速度を盛り返す。「3分ほどだ。もうじき終わるだろう」怖さを紛らわせようとあえて冷静になる秀樹。ところが、ここで冷静さを失う事態に遭遇する。「え、あ、何で?」コースターは建物の中向かってに突入しようとしていたが、その建物こそホラーの館そのものではないか。
 実はホラーの館と書いていたのは、単独のアトラクションではなく、秀樹たちが並んだジェットコースターが途中で入る館。絶叫マシーンに乗りながらホラー体験ができるという新しいアトラクションであったのだ。

「あああああ!」思わず声を出す秀樹、建物内に入ると、コースターの速度が少し遅くなるが、その代わり館内のオドオドしい音楽が鳴り、日本のいろんな妖怪が現れる。さらに秀樹が最も恐れていた仏像が目の前に姿を現した。「やめて!」ここで秀樹は思わず目をつぶる。


「最初怖かったけど、途中から楽しかった!」と、乗る前とは対照的に嬉しそうに笑顔を見せる美幸。「あ、そう」対照的にまだ恐怖が頭の中で漂っている秀樹であった。

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